革命のヒ 天界より参りし五人の神達

リート

自販機編

第1話 厚い雲に覆われた私

 私は、窓越しに外を眺めていた。掴もうとすればするほど遠ざかっていく空を、私はいつも恋しく思っていた。

 今日も変わらず空を視る。ひかる両手を肴にしながら……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 時はみずのと年。卯月の中旬に入ってまだ間もない今日この日。世界の色は、朱から黒へと移行しつつあった。

 私は、自販機で買った綾鷹を手に、近くにある錆びた長椅子に座った。椅子からは軋む音がした。

 空は、私の総てを見透かしてきているような青色と、何もかも受け入れてくれそうな白色で入り乱れている。


「ふぅ~」


 座るやいなや私はため息をついた。そして、冷えた綾鷹のキャップを取ると、ボトルの中身をゆっくりと喉へ流し込んでいく。

 綾鷹は、高1の時に仲が良かった友達が、好んで飲んでいた代物だ。


「……ふぅ……」


 お茶の旨味が、喉を通って体中を幸福で満たしていく。少し生温い風が、頬を撫でていく。そして、歯がキンキンする。


 半分ほど飲み干した後、再びため息をつく。同時に私は下を向き、頭を掻きながら思い悩んでいた。


 ……なんか最近、クラスのみんなが私のことを忌避しているような気がする。

 話しかけても適当にあしらうか無視してくるし、私を異分子を視るかのような目で見てくるし……。


「はぁ……」


 本日3度目のため息をついた後、残っている綾鷹をすべて飲み干していく。


 ボトルの中身が無くなり、近くのゴミ箱に捨てようと長椅子から立ち上がった時、視界に蒼い空が入ってきた。私は少しの間、蒼と白が混ざり合った世界を視ながら酔いしれていた。

 少し、心が楽になったような気がした。


 が、次の瞬間、私は目を疑った。なんと、蒼空に浮かんでいる雲の1つが、私目掛けて降りてきたのだ!

 雲は、風を切りながらどんどんと近づいてくる。


「え? ちょッ何?! 何で雲がぁ?!!」


 あまりの光景に、長椅子の辺りでしどろもどろになっていると、その雲は私の目の前で止まった。

 停止時の風圧が、私の顔に当たる。


「ッゥゥ……こ、これはぁアアア!!」


 この雲は一体何なのか。それを探るために覗き込もうとした時、突然それは、白い綿のようなものと共に爆発した。

 溢れ出す綿の感触と共に、私は長椅子から弾かれるように背後の壁に激突した。


「ガファァ!!」


 背中に激痛が走っていく。そして、ぶつかった時の反動で椅子の背もたれに体がもたれ掛かる。


「はぁ……はぁ……」


 な、なによぉぉぉ!! 突然爆発するし痛いし綿だらけだし! 今日はほっっっとについてない!!

 もぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!


 むしゃくしゃした気分で頭だけ上に向けると、そこには小さな女の子が浮かんでいた。髪は雲色、目は青色である。

 私は再び目を疑った。ここが現実なのかどうかなのすらも疑った。


「なッ……」


「hello、初めまして」


 この娘……なに? いきなり爆発したかと思ったら、幼女に変身してるし……。


 身長は5才児くらいだが、その分宙に浮いている。


 これはあれか……宇宙人襲来というやつか?


 頭の中にある思考回路がオーバーヒートを起こしかけた時、彼女は口を開いた。


「一度しか言わないわ。わっちの名前はクラウディング・バルサーナ。長いから適当なあだ名で呼んでもらっても構わないわ。よろしく。そっちは?」


 ……こいつなんなの? いきなり私のこと吹き飛ばしたと思ったら勝手に名乗り始めて。そんでもって、覚えづらい名前。会話できないタイプなのか? こいつ。

 先生に言いに行こうかな……でも、それをしたら殺られそうな雰囲気が醸し出てるしなぁ……やっぱり言いに……!!!


 次の瞬間、彼女は私をド睨みつけてきた。そのおぞましい視線は、一瞬にして私の心を恐怖で支配した。


「ひぃ!!」


 私は反射的に後ずさりをした。


「え、えぇと……あの……その……石川彩莉夏いしかわさりな……です。よ、よろしくお願い……し、します……雲子さん……」


 直後、彼女のからおぞましい視線が消え去った。


 よ、よぉし! 何とか言えた……何とか首の皮一枚繋がった!! ……でも、怖いものは怖い。逃げる。


 が、次の瞬間だった。


「うん。パッとしない名とあだ名だけどまぁいいわ。これからよろしくね、サリナ」


 聞き捨てならない戯言たわごとと共に、雲子は右手を出してきた。


 ……ちょっと待って。彼女今なんて言った? パッとしない?! そっちが睨みつけて脅してきたくせに……何よその言い草はぁ!!


 私は危うく雲子を睨みつけそうになった。が、何とか堪えると、私は彼女の右手をとった。


「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」


 なぜ手をとったのか。それは単純で、死にたくないからだ。こんなことで死にたくないからだ。こんな学校ところで死にたくないからだ!


 害蟲がいちゅう苦臭もうどくまみれた学校ばしょで死ぬもんか!!


 そう固く信念こころに決めたところで、私は体の向きを雲子にしたまま後ずさりをして逃げようとした。

 ゆっくりと動きながら、バレないように会話をし続ける。


「と、ところで……雲子さんはどうして蒼空そらから? ど、どちらに住んでおられるんですか?」


「敬語は止めて! "さん"とかの語を使っている時間が勿体ない。んで、あなたの質問に対する返答だけど……ズバリ! わっちは、天界から来た天界の住民だ!!」


 と、彼女は自信満々にそう答えた。あまりの非現実的な回答に、思わず私の足が止まった。

 いや待てと。一体何を言っているんだ? 敬語を止めろ。そこまでは解る。だけど、そこからが解らない。気でも狂っているのか? こいつは。

 さては彼女、新手のペテン師で、私を怪しい宗教団体に誘おうとしているのではないのか?

 充分有り得る。だって、さっきから私のこと睨みつけてくるもん。


 正直に言って、私の頭の中は現在こんがらがっている。さっきは殺されかけたし、今は天界とか言う訳の解らない単語が脳内かき乱しているし、今すぐに彼女に向かって"クソ喰らえ"と言いたい。とも思っている。

 けど、彼女の自信に満ち満ちているあの顔を視ていると、本当にあるではないのだろうか? と、疑問に思ってしまっている自分も出来上がっている。


 ここは一度、雲子の話に乗っかって様子を視てみよう。その間に逃げてやる。

 再び私は、体の向きを固定したまま後ずさりを始めた。


「そ、それじゃぁ……天界とはどういう処なの?」


「フフフフフゥ! よくぞ聞いてくれたぁぁぁ!!」


 雲子は、耳がやられるかと思うほどの大声を発した。


「ちょ、うるさい!!」


「気にするな! そんなことよりも天界についてだ! 天界とは、あなたたちで言う太平洋からオセアニア州にかけて浮かんでいる白妙しろたえの世界。大気圏内に存在し、常人では視ることが叶わない、まさに絶境!! わっちはそんな処の政府から、この学校にいるサボr……ゴホン!! 5人の神達を連れ戻すよう命令されてきた!」


 今、なんて言おうとしたこの人。めっちゃ失礼なこと言おうとしたよね? てか、ほぼ言いかけてたよねぇ?

 誰かこの人に、天罰を与えてください……。


 この辺りで私は、先生達がいる管理棟の入り口に着いた。敷居を潜った瞬間、私は後ろを振り返って走り出した。


「はぁ……はぁ……」


 は、早く2階へ!!


 何とかして階段に足を掛けることができた瞬間、突如として目の前に雲子が現れた。


「うわぁぁ!!」


「何逃げてるのよ。まったく……」


 彼女は腕を組みながら溜息をついた。


 こいつは一体何なんだ。一瞬のうちに数メートルの距離を移動してきたし。天界から来たというのも事実なのかもしれない……信じたくないけど。


 とか思っていると、次の瞬間、彼女は右腕を私に見せながら、とんでもないことを口にした。


「てなわけでサリナ。今からわっちの血液飲んで」


「????? はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ???????!!!!!!!」

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