(間章)ああ、いい気持ちだぜ(アックー視点)

「ああ、せいせいした!」


 俺はこの冒険始まって以来、一番スッキリした気分だった。

 ギビキも楽しそうに笑いながら、酒を呑んでいる。


「大丈夫かな、あんな形で」

「お前は本当に小心者だなルワーダ、お前だって別に否定はしてなかっただろ」

「うん、正直ノージはあんまり、って言うかほとんど戦果を挙げてなかったし……」

「だろ?そんな奴はな、この閃光の英傑には要らねえんだよ!」


 ルワーダだけはなんかやたらうじうじとして、おさまりが悪そうにチラチラと空いた席を見ている。よく言うよ、俺様に反抗できなかった奴が。


「閃光の英傑がここまで出世できたのは、俺とお前とギビキのおかげ。あんな荷物持ち兼配給係にはもうこれ以上用はないってね」

「でもどうするんだよ実際、誰か雇わなきゃ」

「ああだりいからもうちょいパス。っつーか閃光の英傑の名前があれば誰か勝手に寄って来るだろ。っつーかお前もあの孤児みたいになりてえのか?」

「えっと、それは…………」

 で、ちょっと一にらみするとすぐこれ。本当、これで戦えなきゃあの生意気な奴と一緒に放り出してやったのによ。こいつもいずれ取り替えてやろうかな。


「俺はギビキと一緒に呑んでるから、お前は少し寝てろ」

 それでも俺はそっとベッドに座らせ、シーツをかけて寝かせてやる。

 あーあ、俺様って本当に優しいねえ。


「ギビキ」

「アックー」

「お前の演技は本当にサイコーだな」

「ええ、我ながらこんなにうまく行くなんて思わなかったわ。まるでサイクロプスを倒した時みたいね」


 サイクロプスと言う俺らアックー・ルワーダ・ギビキの三人の背丈を合わせてもまだギリ高い魔物を討伐したのは、ほんの一週間前の事。

 そのおかげで俺らはAランクパーティになれた訳だけど、今思うとあれがAランクの闘う魔物かって感じだったよなー。確かにぱっと見パワーはあったけどぱっと見だけで、実際はうすのろの見かけ倒し。

「っつーか一発もらっちまったけどな、それでも俺はこうしてピンピンしてるんだぜ」

「本当素敵!」

 ギビキっても本当いい女だ。小柄だけど魔力は抜群だし切れ長な目も可愛いし、そんで何より俺に惚れてるし。


「って言うかさ、あのチーズ野郎に金貨一枚も渡しちゃってよかったの?」

「いいんだよ、どうせいわゆる手切れ金って奴だからな。お前もお前で優しいよな」

「ちょっと釣ったら簡単だもん。本当は身ぐるみ剥いでも良かったけどさ、金貨一枚残すだなんて私たちって本当に優しいよねー」


 アッハッハッハ。ああ何もかもうめえ、飯もうめえし酒もうめえ。


「っつーか正直な話よ、あいつのチーズってどうよ」

「別に特に何も。何種類か味はあったけど、正直普通。まずいって事はまったくないけど特別高いって感じじゃない。本当普通」

「その通りだな。確か五つぐらいあったよな」

「そう。確かそれぐらい。でも試しに店屋とかに売りに出しても銅貨二枚ぐらいだったし、それぐらいの価値なのよ」

 おおそうかそうか、チーズと言う名の食いもんなら売れるな。

「おっ、いい事思いついちまった。そんな風に一人でも生きていける力があるんなら放り出しても野垂れ死にしないんじゃね?」

「なるほど~!アックーってマジ天才!」

 くぅ~、我ながら天才だねえ。ああ、自分の才能がマジで怖くなるぜ。




「閃光の英傑か」

「なんだよBランクのおっさん」



 そんな所に割り込んで来る、不愉快で重苦しい声。


「俺にはコトシって名前があるんだがな、いい加減覚えろ」

「ああはいはいわかりましたよBランクのコトシさん」

「おじさん死にたいの?」

 ギビキの言うとおりだ。

 このコトシっておっさんは俺らがここに来てから戦果を挙げまくってあっという間にAランクパーティになったのをひがんでるって言うか焦ってるんだ。ケッ、延々何十年といながらたかがBランクに過ぎねえのによ、本当につまんねえおっさんだぜ。そんなにプリプリしてると死んじまうぜ。

「っつーかランクが下のくせになーに威張ってんだか、あーやだやだ」

 っつーかこっちがAランクパーティになったのにまだ上から目線かよ。

 それでちとからかってやったら、たちまちキョロキョロし出して、本当に情けねえおっさんだね。

「どうしたんだよおっさん」

「いや、彼はどうしたと思ってな」

「ルワーダは部屋で寝てますよ、これマジっすから」

「いやノージの事だが」

 ノージ?あんな奴をなんでこんなのが気にかけるんだ?

「あああいつ、あまりにも使えないんで放り出しました。ま、餞別もやったし死ぬ事はないでしょう。そんでしばらくは新メンバーの募集をかけながらゆっくりするつもりですからー、お気になさらず!」


 軽ーくウインクしてやったら、おっさんは深くため息を吐いて帰っちまった。


「決して地位におごるな」


 と思ったら最後っ屁のようにつまんねえことをぬかしやがって。あーあ、酒も飯もまずくなるぜ。

「マスター、酒もう一本くれ」


 そうだよ、こんな時は酒だよ。そう言えばあの孤児野郎がいた時にはすぐ節約節約って財布のひもを締めようとするから本当面倒くさかったの何の。まあそれでもちっとばかし脅してやったら素直に開いたけどさ、今後はその手間もなくなるかと思うと本当に嬉しい。


 ああ、本当にいい日だ。

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