第12話 邪神、スケルトンどもを従える
迫りくるアンデッドの群れはスケルトンの集団だった。申し訳程度の布切れをまとっている者や武器を持った個体を確認できる。
本来、肉体の機能など失われているのに骸と成り果ててでも動き続けるというのはある意味で興味深い。
これほどまでに生への未練を持った人間どもがいたということか。
ふむ、よろしい。少しだけ相手をしてやろう。
「私はエイクシル領の領主テオだ。骸ども、何を望む」
私が立ちはだかると骸どもは動きを止めた。
トレントの時のように意思疎通を試みたいところだが驚いたことに、こいつらには精神波というものがない。
死んでいるのであれば当然なのだが、それならばこいつらはどのようにして動いているのか?
近づいてみれば、これはなかなかよくできている。
骨の体になりながらも剣をしっかりと握って、こうして振り下ろしてくるのだ。
指で刃を挟んで止めてから、私は空洞となった目を見た。
「暴れ足りぬか?」
「ウ、オォ……。強、イ……」
「命が終わった時点で貴様らは負けているのだ。再びこの世に生を受けた私に敵うはずがない」
「オ前、ハ……」
武装したスケルトンが一斉に動いた。様々な動作を経て、私にあらゆる剣術を繰り出してくる。
この動き、まずまずといったところか。盗賊よりもマシな動きだ。
そうなると、こいつら全員が盗賊に殺されたとは限らん。魔物に殺されたのかもしれん。或いは病で死んだのかもしれん。
この強さに至ろうと人間は簡単に死ぬ。儚いものだな。
私に刃で手傷を負わせることができるはずもない。すべて片手で捌き切れる程度の相手でしかないのだ。
しかし目を見張るべきはその持続力だ。息切れという概念がないのか、無限に動き続ける。肉体の常識を捨てた者達、か。
「骸ども、悔しいか? いくら剣を振るおうとも私には届かない」
「ウ、ウォォ……ウウ……」
「何が変わる? 何か叶う?」
「悔し、イ……。マダ、戦い続けたカッタ……」
かすかに声質が変わったか? このようなことがあるものだな。
アンデッドに心があるとは思えぬが、こいつらをつき動かしている何かがあるのは確かだ。
盗賊よりも何かを望めそうだな。
スケルトンの武器をまとめて腕で受けてから、すべて砕いた。
散った武器の破片を前にして、スケルトンは動かない。
「私の肉体は人間だが、邪神であった頃と遜色ない。その気になれば、肉体に刃が届く前にすべて波動で消し飛ばすことができる」
「邪神……お前は……?」
「死ねずに動き続けるならば、私の下に来い。人には戻れぬが、人の営みを与えてやろう」
「ひとの、いとなみ……オレ達が……」
スケルトンどもは立ち止まったままだ。そして一匹、また一匹と跪く。
「冥界にも行けず、この世をさ迷う哀れな骸でいるならば……あなたに従います」
「冥界など行くものではないぞ。あそこの神は貴様らでいうところの『性根が腐っている』というやつだからな」
私も転生しなければ、あそこに落とされていたかもしれんと思えば胸糞が悪い。
あの腐れ神の支配下にならなかっただけでも、こいつらはある意味で幸運だろう。
事が終わったと見たのか、ファムリアとエレシィが駆け寄ってきた。
「邪神様、こいつら使えるんですかぁ?」
「テオ様、アンデッドを従えちゃったのね……すごいわ!」
「なかなかの労働力だぞ。お前ほどではないが剣術とやらも巧みだ」
「へぇー……え?」
エレシィがスケルトンを見たまま動かずにいる。
いや、これは違うな。あのスケルトンがエレシィを見つめているのだ。いったい何事だ?
「なんかあのスケルトン、私を見ているような……」
「エレシィ様、ですか?」
「そ、その声、ダニエル?」
スケルトンの一匹がエレシィの名を呼んだ。ダニエル、聞き覚えがあるな。
そうだ。確かエレシィの護衛の一人がそのような名だった。
私が墓に刻んだ名だから忘れるはずもない。
「やはりエレシィ様だ! よくぞご無事で!」
「ダニエル、私のせいでアンデッドになっちゃったんだね……」
「いえ、ご自分を責めないでください。おそらく他の者達もエレシィ様を恨んでおりません」
「じゃあ、クーパーやジェイフ、ニックも?」
エレシィが名を挙げると、数匹のスケルトンが前に出てきた。
あれが生前、エレシィの護衛だったようだ。墓まで作って弔ってやったというのに、未練があったということか。
とすれば、墓などに対した意味はないのかもしれんな。しょせんは人間が作った風習であり、言ってしまえば自己満足でしかない。何せこうして死者達が蘇っているのだからな。
「エレシィ様を恨むなんてとんでもない! そりゃ最初はマジかよってなりましたけどね」
「そうそう、肉はなくなりましたが骨が折れてもすぐに元に戻るんですよ」
「それにそこのお坊ちゃん、なかなかのお方ですよ。エレシィ様に仕えてなかったら、あの方に仕えてましたわ」
なんとも調子がいいスケルトンどもだな。
エレシィの護衛であれば、あの剣術もある程度は納得がいく。
だがあの大トカゲに皆殺しにされる程度だ。つまりまだまだ足りん。
「おい、骸ども。貴様らにはしっかりと働いてもらうが、剣術の腕も磨いてもらおう」
「あぁ、もちろんですよ! 後から考えたら、あそこで左に斬り込んでいればなーとか思うもんです!」
「そうか」
「でも人生ってボードゲームと違ってやり直しができないじゃないですか。人生ゲームなんてありますけど、ありゃ人生なめてますよ! ハハハッ!」
「そうか」
こやつらは私を愚弄しているのか? ボードゲームとは何のことだ?
何を言ってるのかさっぱりわからぬ。
「ところでテオ様、いや。邪神様とお呼びしたほうがいいのかな? 間をとって邪神テオ様とか?」
「お前、そりゃ間じゃなくて全部とってんだろうが」
「そうだな! 間なら邪神テオ様の間でシンテか! 死んで、みたいでちょっと面白いね! 俺達は死んでるけど! ハハハッ!」
「バッカ、失礼だぞ! ハハハッ!」
こやつらは私を愚弄しているのか? いいだろう。
どうせ死んだ身だ。死ぬほどこき使っても構わんだろう。
飲まず食わずでいられるのであれば、これほど都合がいいことはないのだからな。
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