MY-マイ-
花道優曇華
第1話「17の女探偵」
街中の道路をパトカーがサイレンを鳴らしながら走り抜ける。
追いかけているのは前を走る黒い車。
「そこの車、止まりなさい!」
そう言ったところで止まるような相手ではない。殺人事件が起きて
警察が動いたのだ。捜査には女探偵の夢咲 真衣が協力している。
彼女も共に犯人を追いかけている。車が停止した。パトカーも止まるも
犯人は車を捨て逃走。
「俺が、追いかけます」
「十文字、気を付けろよ。相手はナイフも持ってる」
「了解。あぁ、そうだ真衣さんはここで」
「分かってる。犯人を捕まえるのは私の仕事じゃないからね」
サラサラのロングヘアの女性、彼女が真衣。十文字 慎の友人である。
センター分けの髪。彼はパトカーを降りて犯人を追いかける。あっという間に
小さくなった。大人になっても変わらない足の速さ。真衣もパトカーを
降りた。自分の仕事はもう無い。
「夢咲さん、ご協力ありがとうございました」
「いいえ、気にしないでください」
その日は後始末は警察に任せて事務所に帰った。無事に帰ることは
叶わなかったが…。足音が聞こえたが、何も気にしなかった。他にも多くの人が
歩いているので足音が聞こえるのは当たり前だから。だが意識を失った。
何をしていたか、覚えていない。何が起こったか理解できない。
事件から一週間が経過している。
「夢咲さん、見つかってねえな…」
十文字 慎の隣に座った中年男は先輩だ。音信不通になった友人、真衣の身の安全を
慎は心配している。可笑しい。これだけ長く連絡が取れないなんて…。事件として
取り扱うことになっているが、彼は焦っている。夢咲真衣の事を心配する
警察官たちは多いのだ。彼女と協力して幾つもの事件を解決して来た。彼女が
被害に遭うとは…。予想していなかったことではないが、しかしまさか起こって
しまうとは。後悔した。彼女を深入りさせ過ぎてしまった。結果として危険な目に
遭わせてしまった。自分を悔やむ慎の頭を誰かが筒状にした新聞紙で軽く叩いた。
「死んだわけじゃねえだろ」
「似鳥さん」
似鳥 雫、慎の先輩だ。女性のような名前だが男性。
「あの、それ…何ですか」
「知らねえ。だがここに届いた荷物だ」
その場にいた職員が揃って顔を覗かせる。ガムテープを剥がし、雫が箱を
開く。中に何かいる。何か…否、誰かがいる。
「この子!?」
「オイオイ…人間じゃねえか!」
「そうですけど…この子、この人、真衣ですよ!間違いない、癖毛のショートヘア、
間違いなく高校生の真衣だ」
「ハァ!?」
彼女が目を覚ましてから状況を整理する。誰かに襲われた記憶がある。
そこから、ここまでの記憶は一切ない。体は若返り、しかし記憶はそのまま
残っている。
「何処の名探偵だよ…。まぁ、生きてるだけマシか」
「うん。ちゃんと記憶がある。なんでこうなったのか分からないんだよね…。
あの漫画みたいに変な薬を飲んじゃったのかな?でも、全然そんな感じじゃない。
あ~分かんないよぅ!!」
真衣は叫んだ。
「こうなると、次の難事件は女探偵縮小事件…ってか?」
「縮小…」
「幼児化って言われないだけ良いだろ。それで、襲われたのは一週間前の
事件の日か?」
慎は真衣に聞いた。彼女が頷く。彼女はあの日の事をもう一度振り返ってみる。
冷静になってみよう。あの日、パトカーから降りて警察と別れた。天候は曇り、
翌日の天気予報は雨とされていたからだ。道中、多くの人とすれ違った。
カップル、親子、学生…。
「記憶にあるのは、近くに妙に目立つ出店があったことかな?」
「出店?」
真衣は唸りながら記憶を呼び覚ます。表側に引っ張り出した。出店の正体は
アイス屋だったらしい。小腹も減っていたので、そこでアイスを頼んで食べた。
店の名前はグランシャリオという。
「グランシャリオって店、確か別の場所にもあるぜ」
「あぁ。結構有名ですね」
雫の言葉に慎は返した。
「その店の近くで襲われたのか」
「多分」
「なら、行ってみるか」
17歳の姿になった真衣を連れて、慎はその店があった通りに向かった。
変わらない人通りだ。何か事件が起こった後とは思えない程。人通りがある場所で
犯人は堂々と真衣を襲ったのか。襲われた真衣をその後、犯人はどうしたのだろう。
一週間経過して、警視庁に真衣は箱に入れられて届いた。警察に喧嘩を
売っているように思える。
「あれ?可笑しいな…確かにあったはずなんだけど」
出店は無い。キッチンカーも無い。何も無い。慎は子連れの女性に声を掛けた。
「すみません。この辺りにグランシャリオという出店がありませんでしたか?」
「あの美味しいアイス屋さんね?三日前に移動したらしいわ。次は何処に行くって
言ってたかしら…えっと…」
少し考えた後、女性は思い出した。
「N通りでやるつもりと言ってたわ」
「そうでしたか。ありがとうございます」
慎が顔を綻ばせると、彼女も顔を綻ばせた。視線は彼から真衣へ。
「妹さん?あ、もしかして妹さんにせがまれたのね」
「あ、あはは、そうです。あまりに美味しかったもので」
「そうだったの」
そう言う風に見えるのか。真衣も慎も驚いた。17歳、高校二年生ぐらい。
普通の大人として見ることも出来るはず。そこでどう見えるかは、やはり
相手次第だという事だ。姿を消したアイス屋は別の場所に移転しているという
情報だけを掴んだ。
本当に、誰が私を襲ったのだろうか。恨まれるような事は無い…と、断言できない。
どんな人も知らず知らずのうちに恨みを買っている。恨む側は根に持っており、
ずっと覚えているが、恨まれる側は記憶になかったり忘れていることがほとんど。
それによって起こった事件を真衣は探偵として取り扱ったことがある。恨む側に
なるのなら、何かをされた当時の事をメモしておくと良いかもしれない。
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