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 母と話した。

 『此処』には、家族のやり取りは残さないと思ってたけど、そんなことも言ってられなかった。


 彼の名前を食卓に溢したのが、良くなかった。


 食べ物なら台拭きでどうにでもなるが、人の名前となればそうもいかない。それも、普段から人のことは愚か、学校の出来事すら話さない私からの話だったから、見逃す道理が無かった。


「懐かしい名前ね。それもアンタの口から聞くなんて……」


 母は予想外の反応だった。

 そもそも、『懐かしい』とはどういう意味か気になった。だから、ここは素直にシンプルに聞くことにした。


「知ってるの?」


 すると、母は数秒私の目を見て首を傾げた。その上で、『そうよね、あれから10年以上経つんだもの』と言葉を溢した。

 その様子があの日の彼に重なり、心臓ががよくわからない感情に掌握された。


 【何か、大事なことを忘れている】


 漠然と、しかし、鮮明にそんな予感がした。


「教えてよ、私と彼の関係」


 母に尋ねた。でも、教えてくれなかった。


「それは、本人の口から聞いた方がいいんじゃない?」


 同じクラスということを教えてしまったのが裏目に出た。


 私は、母の言葉から出た『10年以上』という言葉をヒントに思い出そうとした。多分、アルバムには載ってる気がした。でも、それを見ることはしなかった。

 きっと、これは私が彼に手を伸ばさないといけないと思ったから。

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