第15話 ひのたにの物語 火の石を取りに行ったら困っている蜥蜴がいた

私室に結界を張って閉じこもっていた、

赤の王は、部屋を出て、

皆を王の間に集めた。

角が折れてショックだったこと、

これが大人になるということと聞き、安心したこと、

角の生え変わりで皆が喜んでくれて、うれしかったこと、

自分や皆の耳がちゃんと聞こえるようになって嬉しいこと、

これからのことを皆で話し合いたいと演説した。

「まずは、黄の国からの水のことについてだが」

赤の王が話し出す。

「水を止められている故に、戦争を仕掛けようとしていると聞いた」

「耳が呪われているときには、それしか考えられませんでした」

大臣らしい誰かがそんなことを言っている。

何か役職があるのだろうが、俺にはよくわからない。

「戦争以外に何か打つ手はないだろうか」

赤の王が言う。

「黄の国の皆の耳も呪われている可能性があります」

「それでは、話し合いも難しいか」

「いえ、耳の呪いを解くものが、そこにいらっしゃるではありませんか」

王の間にいる皆が俺を見た。

「彼に、黄の国におもむいていただき、黄の国の耳の呪いを解いてもらいましょう」

「僕は名案だと思うが、耳かきの勇者としてはどうだろうか」

「俺は構わない。ただ、赤の国の素材をいくつか、耳かき用として譲ってほしい」

「なんでも耳かきにできるのか?」

「耳かき錬成というスキルで、どのような素材も耳かきにできる」

「なるほど、さすがは耳かきの勇者。赤の国の素材というと、何があるだろう」

学者らしい何人かが挙手して話し出した。

「赤の国は、火の恵みの国。火の石などはどうでしょうか」

「その他に、建築にも使われる石などはどうでしょうか」

「無益な戦争を止めた勇者様には、それだけでは足りませんが…」

学者らしい何人かは口々にしゃべる。

「なるほど、では、耳かきの勇者たちに、火の谷へ入ることを許可しよう」

「ありがとう、王様」

「ただ、危惧していることがあるんだ」

「なんだろうか」

「火の谷には、赤の国の守護をする火蜥蜴が住んでいる」

「ふむ」

「守護をつかさどる火蜥蜴たちの耳も呪われている可能性がある」

「なるほど、襲ってくるかもしれないということか」

「そして、火の谷の底に、火の石を生み出し続ける恵みの火が灯っている」

「ふむ」

「恵みの火に耳の呪いが及んでいた場合、それも何とかしてほしい」

「わかった。多分何とか出来ると思う」

恵みの火がどんなものかはわからないが、

確か、錬成した竹の耳かきは無生物の耳もかけたはずだ。

火の耳もかけるかもしれない。

「頼んだぞ。耳かきの勇者」

「ああ」

赤の王は丁寧にお辞儀をする。

王という立場上、やすやすと頭を下げるのはどうかと思うけれど、

彼らなりに、何かを頼む際には、頭を下げるというのがあるのかもしれない。

王に倣って皆が頭を下げた。

これは、耳かきの勇者に対する信頼と思っていい。

耳かきの勇者として、信頼には応えたいと思う。


赤の城の門の外の荒野の一角。

俺は時空の箱から俺の世界の小屋を出す。

通販の置き配でいろいろなものが届いているが、

時空の箱でつながっているので、生ものでも痛まない。

赤の城から、耳かきの素材とは別に、

いろいろな食材をもらった。

赤の国は家畜を育てることが多いらしく、

主に肉、それから乳やチーズ、バター。卵などももらった。

何かに使えるのではないかと、

家畜の毛を大量にもらった。

俺の世界でいうところのヒツジやヤギの毛のようだ。

多分使いようによっては、

耳を落ち着かせる筆のようなものや、

梵天のようなものに仕上がるはずだ。

もらったものは時空の箱にしまう。

リラは今回も俺の小屋にやってきた。

こっちのほうが落ち着くのだそうだ。

通販の置き配の食材や、赤の城からもらった食材で、

食事を作って、風呂に入ってゆっくり休む。

リラが今までどんな経験をしたかは聞いていないが、

この小屋で休むことが、落ち着くということになればいいと思う。

心から休める場所があるというのは、いいことだ。


翌日。赤の城に入ると、

火の谷探索部隊という一隊が俺たちを待っていた。

皆、大きな角を生やしている。

つまり、そういった強い者でないと、大変だということらしい。

俺はともかく、リラは守らねばなと思う。

リラの神語がないと、俺は耳の呪いをうまく解くことができないし、

何よりも、信頼できる大切な相棒だ。

火の谷探索部隊に加わり、俺たちは火の谷を目指す。

馬のような動物にまたがり、しばらく荒野を行く。

ごつごつとした風景になっていき、

やがて、身長よりもはるかに高い岩がそびえたつ地帯になった。

少し気温も高い気がする。

どうやらこのあたりから火の谷らしい。

火の谷を奥へと進んでいく。

ある程度のところで、これ以上は動物の足では進めないと言われ、

俺たちは馬らしい動物を降りて、

岩のむき出しの谷を進む。

ここは建築に使うような石を切り出していることもあり、

先に進むには邪魔なものはないらしい。

ただ、このあたりからは、

火蜥蜴の縄張りであるらしい。

耳が呪われていたら、襲ってくるかもしれないと、

火の谷探索部隊の、角の大きな者が言う。

多分隊長だろう。


火の谷を奥へ奥へと進む。

気温が谷の入り口付近よりも上がっているように思う。

それと、たくさんの目が俺を見ているような気がする。

視線は敵意を持っているように感じられる。

火の谷探索部隊が、武器を構えようとした。

俺はそれを制した。

俺はリラに目配せをする。

リラはうなずいた。

そして、神語を発動させる。


『ミナサンノ ミミノ ノロイヲ トカセテ クダサイ』


神語は谷の中に反響して、

たくさんの耳との感覚共有がなされる。

おそらく、住み着いている火蜥蜴すべてと耳の感覚共有ができた。

俺は耳かきを構える。

町でもらったたくさんの骨の中から、

一番頑丈な骨で作った耳かきだ。

どんな動物の骨かはわからないけれど、

俺のスキルについてくるならば、このくらい頑丈でないと困る。

俺は耳かきを構え、そして、


「神速の耳かき!」


叫んで神速の耳かきを発動させる。

俺は火の谷中を駆け回って、

耳の呪われている火蜥蜴たちの耳をかいていった。

蜥蜴の耳をかくのは初めてだけど、

感覚共有で、どこが耳なのかは瞬時にわかる。

すべての耳をかき、皆の元に戻ってくる。

俺たちを見ているたくさんの目から、敵意が消えている。

成功したらしい。

谷の奥の方から、大きな赤い蜥蜴が姿を現す。

かいた耳の中で一番大きな耳を持っていた個体だ。

「そなたは、何者か」

「耳かきの勇者と呼ばれている。今、みんなの耳の呪いを解いた」

「そうか、呪いを解かれたことにも気が付かなんだ」

「特別なスキルだからな」

「耳かきの勇者、その力を見込んで頼みがある。我々も困っているのだ」

火蜥蜴の大きな個体は話し出す。

火の石を生み出し続けている恵みの火が、

安定しなくなっているのだという。

ある時は恵みの火の火力が強くなり、

ある時はとても弱くなってしまう。

最近は、とても弱くなってしまうことが増えたという。

火の石は火蜥蜴たちにとっては命の源でもある。

火の石を食べることにより、命を繋いでいるという。

いわゆる食べ物でもあり、生命力の源でもある。

それが安定して生み出されないことは死活問題である。

もしかしたら、恵みの火への耳の呪いの影響かもしれない。

それを何とかしてほしいと語る。

「なんとかできるかもしれない。恵みの火のところに案内してくれ」

俺がそう言うと、火蜥蜴が先に立って進みだす。

皆であとに続いた。

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