第6話 あおのおうの物語 青の王は耳の呪いで勘違いをしていた
俺たちは青の国の中、青の城にやってきた。
青の城は見た目では、大樹の中に作られた城のようだ。
大樹が城というものを取りこんでいるように見える。
木々が生い茂る青の国の、
もしかしたら特別な大樹なのかもしれない。
俺たちの目の前で城門が開く。
視野に広がる城は木造のようだ。
なるほど、石がたくさん取れれば石で作るし、
青の国は木がたくさんあるから木造。
何の不思議もない。
いろいろな素材を、耳かきの素材として見てきた俺からすると、
かなり硬い木を建築素材として使っている。
異世界だから何とも言えないが、防火性能もいいだろう。
俺たちは城の中を進む。
耳をかいた青の国の民は、俺の耳かきを信頼しているが、
まだ、青の国には耳をかかれていない者もいる。
みんなに信用してもらえるのは時間がいるだろうし、
何より、青の王が、俺たちを信用していないと思う。
竜便を迎撃しろと言ったのは青の王だと聞くし、
多分だが、青の国とは違う国を、すべて疑っているのかもしれない。
俺のいた世界においても、
話す言葉が違うと、同じ人間だと思わない、
同じ言葉を話していても、どうしても通じない、
そうして、疑り深くなり、攻撃的になる事柄をたくさん聞いてきた。
俺はそれも嫌になって、
耳かき制作のために、山の中に引きこもったわけだが、
多分引きこもり始めた頃より、
もっと、俺のいた時代頃は、そうなっているだろうなと思う。
言葉が通じないというのは、そういうことなのだ。
魔王の呪いは、この異世界を分断している。
俺のいた世界よりも、わかりやすく。
言葉が通じないと、同じもの、同じ存在と思えない。
信頼できない、仲間と思えない、と言うべきか。
だからこそ、俺はこの耳かきで、この世界の耳の呪いを解かないといけない。
青の王も例外ではない。
耳の呪いを解き、俺は敵でないと、信用してもらおう。
木造の青の城を進んで行き、
ひときわ大きな広間に出た。
周りには青の国の民。髪が金属でできているニードリアン。
異世界でいうところの武装をしている。
俺が見てわかるのだから、相当な警戒をしていると思っていいだろう。
多分、持っているものは武器だ。
筋肉のつき方から察するに、相当腕が立つものが、ずらりと並んでいる。
にらみつけるような視線が突き刺さる。
俺が耳をかいた青の国の民が、前へと出た。
その前には、一段上に座っているものがいる。
長い髪の女性だ。
王と聞いていたが、この世界では王と女王の区別がないのかもしれない。
女であっても、トップならば王なのだろう。
青の国の民が話そうとしているが、
王は聞く耳を持たず、俺も何を言っているかわからない。
王は怒っているのと、おびえているのが、
ごちゃごちゃになって見える。
俺はリラに目配せをした。
リラはうなずいて、言葉を選んだ。
『アオノオウヨ ソノハイカノモノヨ イマカラ アナタタチノ ノロイヲトキマス』
リラの神語で、この広間にいる、すべての者の耳が、俺と感覚共有される。
空の果ての国と、先程の青く国の入口、
そして、ここで、今日三度目の神速の耳かきになりそうだ。
俺の体力は、まだ余裕がある。
異世界に来る前に、毎日山道を走りこんでいてよかったと思おう。
王の周りの者が、兵士らしき者が、
俺に向かって武器を構える。
俺も耳かきを構える。
ここに来る前に、木の枝で錬成したものだ。
俺は呼吸を整える。
そして、
「神速の耳かき!」
俺は神速の耳かきを発動し、広間にいるすべての者の耳をかいた。
ジャスト10秒。
俺は王の前に戻ってきた。
息を少し整える。
疲れはしない、山道に比べれば、なんてことはない。
広間にいるものは戦意を喪失し、恍惚とした顔をしている。
神速の耳かきのスピードも上がったが、
耳かき技術も上がっているものと思う。
これでかかれては、ひとたまりもないだろう。
王が何かを叫んでいる。
俺は、王の前に歩み寄っていく。
王の顔におびえ。
俺は王のそばに立ち、そっと耳をつまんだ。
息をふっと吹きかける。
王の表情が、おびえから戸惑いに変わった。
俺は王の耳を見る。
先程リラが神語でつないでくれたが、
かなり重度の呪いで耳が詰まっているようだ。
耳垢とは違うが、禍々しいもので聞こえなくなっているようだ。
俺は、耳かきをそっと差し入れる。
王は一瞬肩をこわばらせたが、
それは耳かきで、リラックスへと変わっていく。
俺は、詰まっていた呪いをかき出していく。
王の顔が恍惚に変わっていく。
両耳をかき終える頃には、すっかり安心しきった表情になった。
「耳の具合はどうだ、王様」
俺は声をかける。
「そなたの、言葉が通じる。耳が、通じておる」
「今、耳の呪いを解いたんだ」
「これが、本当の言葉…呪われていた耳の時とは、全然違う…」
「俺は耳かきの勇者と呼ばれてる。今呪いを解いたのは、耳かきというものだ」
「そうか、耳かきの勇者か」
青の王は考えた。
「それでは、私の首を狙っていた存在というものは…」
「それはわからないが、勘違いと言う可能性もあるな」
「空から使者がやってきて、私の首を取りに来ると…」
「それで迎撃しようとしたわけか。で、その言葉ってのは今聞けるか?」
「録音機を持て、呪われていない耳で聞きなおす」
王の側近がどこかに行き、何かを持って帰ってきた。
ボタンを押すと、何かが再生される。
どうやら録音再生機のようだ。
再生されるのは、音声のようだ。
内容は、黒の国で、青の国の王の髪が必要であること、
できるならば少し譲ってほしい。
近いうちに黒の国から竜便を飛ばす。
そんな内容だった。
首を取るなどと言う言葉は全然ない。
多分、比較的耳の呪いが穏やかな者の音声だろう。
攻撃的な要素は少ない。
「私はこれを、首を取りに来ると聞こえていたのだな」
「それが耳の呪いってやつだ」
「恐ろしい呪いだ。私は黒の国に戦争を吹っかけるところだった」
「ただ、黒の国もどんな状態かわからない」
「そうだな。しっかり言葉を交わして交渉に当たりたいものだ」
俺は、ふと、気が付く。
「王の髪が必要って、特別なのか?」
「私の髪は、中が空洞の筒状の髪なのだ。王家の者にその特徴が出る」
なるほど、黒の国は医療大国。
もしかしたら、注射針に使うのかもしれない。
「それで王様。相談なんだが」
「私も相談したいことがある」
「まずは俺から失礼するが、青の国の素材で耳かきを作らせてくれ」
「それは、木材もそうだろうし、ニードリアンの髪もか」
「他に何かあれば、その素材も融通してほしい」
「いいだろう。ただし、私の相談も聞いてほしい」
「なんだろうか」
「耳の呪いを解く耳かきを、大量に作ってくれ」
「そんなことならお安い御用だ」
「耳かきは国で買い取り、国民に融通する。多ければ多いほどいい」
「耳かきで呪いが解けることがわかれば、青の国のみんなの呪いも解けるはずだ」
「交渉は成立でいいだろうか」
「ああ、たくさん耳かきを作らせてもらうぜ」
俺と青の王は、固い握手をした。
それから青の国の素材を、青の国の学者から聞き出した。
木材が基本だが、俺のところで言う、竹もあるらしい。
植物性の素材が豊富であるようだ。
ニードリアンの髪も、ある程度の在庫を融通してくれることとなった。
「あとは、硬いものではありませんが…」
「どんな素材だ」
「極楽鳥の羽毛などはいかがでしょうか」
羽毛があれば梵天が作れる。
尾羽でもあれば、耳を撫でた際に心地よくなれる。
「それはどこにあるんだ」
「この城を飲み込む大樹の上になります。そこに極楽鳥の巣があります」
「なるほど」
「とにかく、今は休んでください。勇者様。もう外は夜です」
夢中で素材の話を聞いていたら、夜になっていたらしい。
いろんなことがあったけれど、充実した一日だった。
俺はとにかく休むことにした。
明日に備えることも必要だ。
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