第5話 あおのくにの物語 青の国の民の髪は意外なものでできていた

俺は、竜に固定されていたベルトを外し、

竜の頭へと登っていく。

リラと操縦手が慌てていたが、

攻撃されている現状をどうにかするのは、

俺にしかできない。

俺は、竜の頭の上で、竜の耳をふさいでいる耳当てを開くと、

「俺を信じてくれ」

と、竜に語り掛けた。

竜は、クルルと喉を鳴らした。

遠弓がまた飛んできた。大きな金属の矢だ。

俺は竜の頭の上、姿勢を整える。

竜の頭の上で、合図のリズムを出す。

少し上、と。

竜は上昇する。

金属の大きな矢は俺の目の前、

リラの悲鳴が聞こえた。

俺は手を伸ばして、

矢をつかんだ。

「捕まえたぜ」

俺は即座に材質を鑑定する。


 ニードリアンの髪を束ねて作った矢。

 鋼によく似た材質だが、しなやかさはその比ではない。


大まかにそんなことがわかった。

ニードリアンがよくわからないけれど、

とにかく材質は鋼に近いもの。

そこまでわかれば耳かきにできる。

「耳かき、錬成!」

俺は金属製の大耳かきを錬成する。

よくしなり、硬い。しかも軽い。

「俺がここで攻撃を全部はじく。青の国に突っ込んでくれ!」

俺は槍のように大耳かきを構える。

遠弓で金属の矢が飛んでくる。

竜の頭の上で、俺の耳かきが薙ぎ払う。

操縦手が竜を降下させていく。

金属の細い矢も飛んでくる。

俺の大耳かきが薙ぎ払う。

俺の間近に来た金属の矢を、

俺はつかんで瞬時に金属の耳かきに錬成する。

「多分相手は耳が呪われている。リラ、神語の準備をしていてくれ」

「はいっ」

「着地と同時に、神語を放ってくれ、俺はすぐ後に神速で耳をかく」

「はいっ」

「着地、行きます」

操縦手が竜を着地させようとしている。

矢が飛んでくるのを俺が薙ぎ払う。

数秒後、竜は青の国に着地をし、

取り囲む青の国の民に向かって、リラが神語を放つ。

『タタカイニ キタワケデハナイ アナタタチノ ミミヲ キレイニ シマス』

青の国の民の耳が俺の中でつながる。

ざっと300ほどの耳が感覚共有している。

俺は先程の矢で錬成した、人間あたりの耳用の金属耳かきを構える。

竜の頭から飛び降りながら、

「神速の耳かき!」

叫んで神速の耳かきを発動する。

竜を取り囲む青の国の民たちの耳を、俺は片っ端からかいていく。


ビュン…コリコリッ…ビュン…カリッコリッ…ビュン…コショコショ…ビュン…

シャシャシャ…ビュン…クリックリッ…ビュン…コリッ…ビュン…カリッ…


ほぼ10秒。俺は青の国の民たちの耳をかききった。

多分速度は前よりも増している。

おそらくだが、レベルみたいなものが上がっているのかもしれない。

俺は息を整える。

青の国の民たちは、ふらふらと膝をつく。

「今のは、一体…」

「神語が聞こえたかと、思ったら…何が起きた…」

「聞こえるぞ!、お前の言っていることが」

「ああ、聞こえる。聞こえるようになっている」

「まともな言葉が聞こえるぞ」

「耳の呪いが解けたんだ!」

沸き立つ青の国の民のもとに、リラが竜から降りて挨拶をする。

「青の国の方々、私たちは敵ではありません。耳の呪いを解かんとしているものです」

「耳の呪いを解く、あなたがですか?」

青の国の民が尋ねる。

「私は耳を繋ぐ手伝いをする、神の耳の巫女です。耳の呪いを解くのは彼です」

リラは俺を指さす。

「彼が耳かきの勇者、セイジです」

「耳かきの、勇者…」

「彼が耳かきをすることにより、耳の呪いは解かれます」

「それでは、先程の一瞬で…」

「そうです、彼がここにいる、あなたたちの耳の呪いを解きました」

「それが耳かきの勇者の能力…」

青の国の民たちは、俺に対して膝をついた。

「耳が呪われてるとはいえ、敵と思ってしまいました、申し訳ありません」

「気にすることはないさ。あの程度ならば俺が何とか迎撃できた」

「あの攻撃を、あの程度、とは…さすが勇者様」

他の青の国の民が発言する。

「その大きな槍のようなものは、我々の飛ばした物とは違うようですが…」

「これは、あんたらの金属の矢から、俺が錬成した耳かきだ」

「これが耳かき…耳の呪いを解くもの…」

「この大きなのは、大きな生き物用だな。いわゆる人型の耳ならば…」

俺は先程、神速の耳かきで使った金属の耳かきを見せる。

「大体このくらいの耳かきになる。これも俺が錬成したものだ」

「我々の飛ばした矢で作ったということならば、おそらく我々の髪から作った物」

「あんたたちがニードリアンなのか?」

「この世界ではそう呼ばれております」

「なるほどな」


説明されたところによると、

青の国の民は、青の国に広がる森に住んでいて、

弓矢などを作る能力にたけている。

そして、彼らの髪は金属でできている。

ニードリアンといわれる所以だ。

彼らは金属の髪を加工して、

金属の矢などを作り出している。

女性の方が髪が伸びるスピードが速く、

その金属の髪は、しなやかで強いという。

その髪の材質と広がる森を生かし、

青の国の産業は、木工技術などでの加工になる。

金属の髪は、束ねたり加工したりして、道具にもしているようだ。

それは多岐にわたり、

他の国での、例えば水車や、動物を取る罠、家具なども作っているようだ。

かなり細かい作業が得意なものであるらしい。


「なるほどな。その髪の在庫はあるだろうか」

「どうなさるおつもりですか?」

「まだ青の国に耳が呪われているものがいるだろうから、耳かきを錬成する」

「そういうことでしたら…しかし」

「しかし?」

「ニードリアンの髪は青の国の財産。青の王が許しがないことには…」

なるほど、青の王に話をつけないといけない訳か。

これだけ、しなやかで硬い金属の素材だ。

国の財産と思っても当然だ。

ただ、青の国の民は、少し顔を曇らせる。

「青の王は、空から敵が攻めてくると言って、あなたたちを攻撃するよう命じました」

「なるほど」

「おそらく耳が呪われているものかと思われます」

「それを解くのが俺の仕事だ」

「しかし、青の王の逆鱗に触れてしまっては…」

「大丈夫だ。耳かきはリラックスするものだ」

「リラックス…?」

「耳かきは、攻撃しようとする心を、落ち着かせるものだ」

「だから呪いが解かれるのですか…」

「多分そういうことだ。俺ならば大丈夫だ。強いからな」

「その強さを間近で見ましたから、わかります」

「青の王の、耳の呪いを解こう。その上で、素材を分けてもらおうと思う」

「わかりました。案内いたします」


青の国の民たちで話し合いが行われている間、

俺は竜便の操縦手に礼を言い、

竜にも挨拶をした。

彼らからは、たいそう感謝された。

竜はすっかり俺に懐いたらしく、

喉を鳴らして、すり寄ってきた。

「空の果ての国に戻ったら、他の竜の耳もかいてやってくれ」

「わかりました、勇者様」

操縦手が合図を出すと、竜便は空へと戻っていった。

竜が大きく声を届けていた。

俺の耳は、また会おうね、に、聞き取った。


青の国の民の一人が、俺の前にやってきた。

「それでは、青の王の前へ案内いたしましょう。勇者様」

「わかった。リラ、行くぞ」

「はいっ」

俺たちは青の王がいるという、

青の城を目指すこととなった。

道中は森が深く、様々の木々が生い茂っている。

案内する青の国の民に、森の木を素材にすることの許可を尋ねたところ、

ニードリアンの髪と違い、

木々はたくさんありすぎるほどだと言うので、

硬い木の枝を一つ、耳かきに錬成した。

我ながら、よくできた耳かきだ。

これならばきっと、青の王の耳の呪いも解けると思うが、

うまくいくことを願おう。

木々の深い道を行き、

俺たちは青の城の前までやってきた。

城門が開く。

俺は耳かきの勇者、耳の呪いを解くもの。

王の耳の呪いだって、解いてみせる。

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