コバルトブルーの空の下で

藤原 清蓮

第1話  友達以上恋人未満



 お互い「好き同士」であるのは、気が付いてる。


 それは、僕の妄想でも勘違いでもなく、事実として確信している。でも、僕らはまだ付き合ってはいない。時々、ちゃんと告白して付き合いたいと思う日もあるけど、それとは逆に、このまま良い感じでいたいと思う日もある。


 僕は、この心地よい関係性を失いたくないのだ。

 両想いだと確信していても、頭の片隅では「もし万が一、フラれたら?」と思う僕がいて。

 そんな事を日々考えていたら、キミが「今週末、デートしない?」なんて言うから。


 やっぱり、僕らは間違いなく「好き同士」だと心が湧き立つ。考える間も無く、二つ返事で了解すると、彼女は嬉しそうに顔中くしゃくしゃにして、僕が一番好きな笑顔を見せた。


 週末。

 僕らは、だいぶ色付いてきた街路樹の下を、のんびりと会話もなく歩く。僕の隣でキミは出鱈目な鼻歌を歌いながら歩く。


「この後、どうする?」と僕。


 映画を観て、カフェでお茶もした。何となく、僕らは駅に向かって歩いているけど、その足取りは二人とものんびり。


「どうしようかな。さっきカフェで食べたケーキで、そんなお腹空いてないし」

「そう、だな……」


 これは、このまま駅でバイバイなのは決定かな。そう思うと、少し寂しい気持ちになる。

 僕は、引き留める良い案は無いか考えながら、極力ゆっくり歩いた。けど、なんの案も浮かばずに駅に着いてしまった。


 キミは「今日は付き合ってくれて、ありがとうね」と言い、鞄からパスケースを取り出す。


 やっぱり、このまま帰るのか。と、残念に思いながらも、結局、素直に、もう少し一緒に居たいと、そのたった一言すら、なぜだか言えないで。彼女の行動を黙って見ていた。

 すると、彼女がふと両手を自分の口元に当てて何か言っている。薄付きのグロスが艶めく小さな唇が動いたが、僕には聞こえなくて、少し身を屈めて「なに?」と訊くと。


 視界がいっぱいにキミが見えて、僕は目を見開く。僕の両頬にキミの少し冷んやりする手が添えられ、唇には温かく柔らかな感覚。

 キミがゆっくり離れる。

 僕は驚き顔のまま、キミを見つめた。


 キミはそんな僕を見つめ返しながら「奪っちゃった」と、いたずらっ子の様な笑みを浮かべた。


「え……?」と戸惑う僕。


「……ごめん、嫌だった?」と少し不安そうな表情になるキミ。


 僕は、今なにが起きていたのか、はたと気が付き慌てて首を横に振った。そして、僕は無意識にキミの耳元で「大好きだ」と囁き、その頬にキスをした。


 キミの顔を覗き見ると、先にあんな大胆な行動をしたくせに、耳まで真っ赤に染まった顔で僕を見上げている。僕は思わず笑い出し、キミの手を取って来た道を戻った。確か、さっき公園らしき場所があった筈だ、と思いながら。



×××

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