ユニコーンの囮たち
佐熊カズサ
プロローグ ユニコーンの囮
ユニコーンの角は言うなれば万能薬である。
粉末にして飲めばたちまち力はみなぎり、軟膏にして傷口に塗ればまたたく間に皮膚は再生する。
少なくとも、人々はそう信じている。実際にはそれほどの即効性はないものの、確かに衰弱した神経は元気を取り戻し、傷は癒えるのだと伝えられて聞いてきたのだ。
しかし、ユニコーンの角による治療は医学よりも民間療法の領域に入り込んでいた。それはユニコーンの角を手に入れる方法を全くの偶然に頼っていたことと、その入手法のせいで数が少なく、実際に使用できるのは上流階級の中でもごく一部に限られていること。そして、童話や戯曲の世界から迷い込んできたようなユニコーンの相貌のせいだった。
光を跳ね返す純白の身体と立髪、つぶらな黒い双眸とまっすぐに伸びる乳白色の角。実際には日にち薬の期待値を高めるためのまじないだったとしても、ユニコーンの姿を知る者が神秘的な幻想を抱くことを責められる人はいないだろう。
中でもひときわユニコーンの幻想に魅入られた男がいた。その男は、鹿撃ちの最中に自らの不注意で負うことになった、生死を彷徨うほどの傷を癒したのは、ユニコーンの角に他ならないと頑なに信じていた。
また男は、自分と同じように怪我を負った人々をユニコーンの角の力で救いたいとも考えていた。
考えに考え、ネックとなっていた偶然に頼った供給を解決する方法を思いついた。
陸軍に所属していた頃のツテを利用して、選抜した優秀な魔女でユニコーンを狙撃するための部隊を結成した。そしてユニコーンを誘き寄せるために、国内からアトランダムに年毎に15歳の処女を 1人選出し、彼女たちに3年間任務に就かせる代わりにテラスドハウスを貸し出した。
男は選ばれた少女たちを、ひとつの捻りもなく『ユニコーンの囮』と呼んだ。
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