2-5 訊きたかったこと

「そういえば、地元こっちの人なんですか?」


 本日のおやつにリクエストされたプリンにホイップクリームを絞りながら、ずっと訊きたいと思っていたことを訊ねてみた。クリームを絞っている間、六夏からの視線が気になり、注意を別のところに引きたいという意図もあった。


「いや、もともとは東京にいたんだ」

「え、じゃあどうしてそっちで探偵事務所開かなかったんですか? 悪夢が専門なら、そっちの方が顧客を得られるんじゃ……」


 人が多ければ多い分だけ、悪夢を見る母数も増える。すべてではないが、人と関わることで、それがトリガーとなって悪夢を見ることもある。悪夢を見る人が多ければ、それだけ悪夢に悩まされる人も増える。悩んでいる人からすればいい迷惑だろうが、こういう商売をしている場合、依頼は多い方がいい。

 しかしなぜか六夏は眉を下げた。


「僕は自分自身が夢を見られるわけじゃないからね。負担は自ずと君たちにかかる。それを職業として置いてこんなことを言うのは烏滸がましいかもしれないけれど、最小限の負担ですむなら、そっちの方がいい」


 六夏はそう言うが、悪夢自体を見る必要はあるのだろうか。

 実際、渉がここにやってきてから、問題の悪夢を解決する現場を一度見ているが、実質六夏だけでも十分に解決できたはずだ。渉は見た夢の内容を毎日、六夏に話してはいたが、必要なかったのではないかといまだに思っていた。

 六夏の言い分としては、「ピョン吉くんのおかげで依頼人が『歯が抜ける夢』に捉われていることを知れたんだ。だから、事件の方も無事解決できたってわけさ。ピョン吉くんが夢のことを教えてくれなければ、僕は依頼人が『歯が抜ける夢』を見ていたことなんて知り得ないからね」ということらしい。

 全くもって答えになっていないように思うが、渉が不安そうにするたびに、六夏は渉が必要なのだと強調した。ご飯のためではないのかと思わないわけではないが、六夏が渉を事務所に誘ったのは、料理ができることを知る前なのでおそらく違うだろう——その後にすぐ料理の腕前は披露しているから、より強い動機にはなったかもしれないが。

 バクに懐かれているから、とも言っていたことを思い出す。実はこの事務所の主権を握っているのはバクなのでは、なんてことを思うが、それも一瞬のことだった。

 しかし最小限の負担ですむなら、というのは、だからひとつ依頼を受けている間は他の依頼を受けないのだろうか。なんて、六夏をいいように美化しているようにも思う。


「どうして悪夢を専門にしようと思ったんですか?」

「今日はやけに僕のことを訊いてくるね。僕に興味を持ってくれたのかい? それはいいね、素晴らしいね!」


 茶化され、ムッとした渉は仕上げのチョコレートソースを乱雑にかけた。

 それでも味は変わらないからと、六夏は嬉々としてそれを受け取った。結局、最後の質問は答えてくれなかった。

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