純白の魔女と銀色の王子

弥生 菜未

1 プロローグ

 いつだって夢を見ていた。

 目を閉じて意識の奥底で見る夢。

 理想として瞳を輝かせて見る夢。

 空想として非現実を浮かべてみる夢。

 いつだって、夢を見て、夢を追いかけて、夢に包まれて、夢を描いていた。

 けれど、夢であってほしい現実は、非情にも夢にはなれない。


 囲うは赤い花々。正面に見えるのは、世界を圧迫するような曇天。

 遠退く意識の中、ルイナは浅い呼吸を繰り返していた。顔を横に向けると、赤ではない花の色がちらちらと目に映る。


(あぁ、そうか。花が赤く染まっているのは、私のせいか)


 痛みは感じない。ただ、どうにも呼吸が乱れて整わなくて、苦しいだけだ。


(違う)


 曇天が泣き始めた。ただでさえ悪い視界が更に鮮明さを失っていく。


(違う)


 恵みの雨。せめて、誰かの笑顔を最後に見たかった。


(違う)


 何が"違う"のか分からない。だが、私が自分に嘘をついていることは確かだ。

 そして、これがルイナの最後の記憶。

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