第11話
「私……そんなつもりじゃ無かったんです……」
ベンチに座り俯くエーファを眺めルフトは瞳を細める。随分気落ちしている様子であったので話ぐらいはと思い声をかけたのだが、流石に内容を聞いてしまえば小さなため息を零してしまう。
知らなかったのだろうが、ヴァイスやレアが怒るのも無理はないと。
「本当にヴァイスは手作りの食べ物は基本的に受け付けないんだ」
「はい。レア様に叱られました。きっとイリス様も気を悪くされて席を立たれたのだと思います……」
そうエーファに言われたがルフトは僅かに考え込む。レアは大人しそうな外見に反して、割と気が強いのでエーファに対してきつくあたったであろうことは分かる。しかし多分イリスはその場の空気をあえて壊してその場を終わりにしたのだろうとルフトは思った。
「イリスは多少強引だがレアの怒りを収めようとしてくれたのだろう。気に病む必要はない」
「……なら良いのですけど。ヴァイス様は……本当にお辛い目に会われたのですね」
「そうだな。ノイ姉弟がいなければ生きていたかどうかも解らない」
「え?」
驚いたようにエーファが瞳を見開いたので、ルフトは意外そうに彼女の顔を眺める。そして、ノイ姉弟が一ヶ月つきっきりで彼の世話をしていたので何とかモノを口にすることができているという話をした。有名な話なので知っていると思っていたのだ。
「ヴァイスにとってイリスやロートスは命の恩人なんだ。だからノイ家贔屓と言われる位彼等を大切にしている」
「……てっきり殿下の婚約者だからヴァイス様はイリス様についていらっしゃるのだと思っていました」
「私から頼んでいる部分も当然あるよ」
生徒会の方へ時間を取られる事が多くなり、イリスを放ったらかしにしてしまうことにルフトは罪悪感があった。無論イリスは生徒会の仕事を優先させてくれといつでも穏やかに背を押してくれる。ならばせめてとヴァイスにイリスの事を頼んだのだ。
けれどオリヴァーと違いヴァイスは王の補佐をする己とは恐らく違う道を選ぶと解っていた。宰相の弟が影ながら国を支えているように、その後継者として表に出るつもりはないのだろう。
貴族でありながら商人の真似事をしていると蔑まれても、俗物的だと神殿から冷笑されても、民の為国の為に、物流を、経済を支えているミュラー商会の後継者。それがヴァイスなのだ。乳兄弟と言うだけではなく、彼はその後継者として十分な資質も備えているのでルフトは信頼していた。
「イリス様やレア様のような方が生徒会に入るべきだったと思うんです」
「それは……いや、エーファもよく頑張っている」
「ありがとうございます……」
多少空回りしている所はあるが一生懸命なのはルフトの目から見ても解っているのだが、周りから当たりが強い。それでもヴァイスの話だとイリスが上級生などに対してはそれとなく根回しをしているので静観されている。けれど同学年の生徒からは生徒代表がどうしてエーファなのだと言う意見も出ているようであった。
決して愚鈍ではないのだが、少々不器用な所があり見ている方がヒヤヒヤすることもある。
彼女をメンバーに加えるならきちんと生徒会で面倒を見ろ。エーファを生徒会に入れると言った時のヴァイスの忠告が酷くルフトには重く感じられた。
「他の皆さんに迷惑かけないようにがんばります」
「あぁ。期待している」
零れそうになる涙を堪えながらそう言うエーファを眺め、ホッとしたようにルフトは息を吐き出した。
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