第三話 高松城と大人力
「高松駅ってあんな顔してたんだ……」
高松港でフェリーから下り、高松駅まで戻ってきた私は、いまさら駅舎に可愛らしい目と口が描かれていることに気が付いた。なんか駅全体が巨大なゆるキャラみたい。そんなことを思いながら、私は一先ず高松城へと向かうことにした。
船の中で調べたら、海に出られる水城として結構有名らしい。港と駅から歩いてすぐの所にそのお城はあった。とはいってもここから見えるのは石垣くらいだけど。入り口近くから見たときの外観は石垣のある公園といった感じだった。お城って聞いたときに思い浮かぶような“お城お城した外観”はしていない。
【↑☆お城お城した外観ってなんだよ】
【↑🔷大阪城とか名古屋城みたいな天守閣ドーン!って感じじゃない?】
入場料を払って中へと入る。中の景色は……うん、庭園って感じかな。砂利の敷き詰められた道から横を見れば、大きな樹木や低木が並んだ庭が見える。中学のときに行った鎌倉にあるお寺の中の景色を思い出した。そのまま歩いて行くと道の両脇を石垣に挟まれた場所(入り口でもらったパンフレットによると『水門』らしい)の手前で、右方向に『天守台』があることを示す道標があった。
(お城に来たんだし、天守閣はいっとかないとね)
そんなことを思いながら小道を進んで行くと……不意に視界が開けた。
(あっ)
大きなお堀に出たことで視界を遮っていた植物などがなくなり、午後一時近くになり頭の上に来ていたお日様を眩しく感じた。お堀はなみなみと水をたたえていて、緑がかってはいるもののそれすらも味があるように見える。ここに来てようやくこの城が水城として有名だという話を思い出した。
(お堀って城外を囲むものってイメージだったけど、この城は中に大きなお堀があるんだ……なんか不思議)
すると、そんなお堀に屋根付きの木製橋が架かっていた。どうやら天守にはこの橋を渡っていくらしい。もし敵に攻められたときはこの橋を落として、敵の進軍を阻むのだと近くにあった看板の解説に書いてあった。
(つまりこの橋がカムラの里でいう『朱塗りの橋』ってことかな。百竜夜行が起きたらこの箸を落として立て籠もる……みたいな?)
【↑☆モンハンライズやってるヤツしかわからん喩えはやめーや】
【↑🔷今度また一狩り行こうか】
入り口からは見えなかったけど、この城はたしかに水の城だった。私は橋の上からパノラマモードでぐいーっとそこからの景色を撮影した。あとでさっちゃんとみーくんに送ろう。この廊下もなんというか、学生時代の渡り廊下を思い出す。橋を渡り、さて天守はどこかなと探してみても見つからない。
パンフを確認するといまいる場所に『天守跡』と書かれていた。
(跡……跡地ってことは、いまはもうないのかな?)
左を向くとなにやら大きな台のようなものが見えた。なるほど、あの上に天守閣が建っていたということらしい。まさに
(お前んちの階段、急だな)
【↑☆急にふかわ○ょうの往年のギャグを放り込んできたな】
(お前んちの階段、石積みだな)
【↑🔷ファラオのお宅にでも行ったのかな?】
そんなことを考え、バリアフリーなんて知ったこっちゃねぇって感じに、一段一段が大きい石段を上って行く。大した段差でもないのに腿の裏がプルプルしてきた。
(ス、ストレッチパワーがここに溜まって来ただろう)
【↑🔷い、いまの子たちってストレッチマンわかるのかな? わかるよね?】
【↑☆……俺たちも世代間ギャップを気にする歳になったんだな】
やがて天辺に辿り着いたときに見えた景色は、周囲を堀に囲まれた景色だった。幅広い水路が走って区画を区切っている姿は、ヴェネツィアのようにさえ見える。そして真っ直ぐに前を見れば、水門の向こうに瀬戸内の海が見える。船を使えばそのまま海に出られるようだ。入り口から見ただけではわからなかったけど、たしかにこの城は水の城だった。
(区画がカクカクに区切られてるからか、ゲームのお城っぽくもあるんだよね。この水路を通って城内に入れる……みたいな?)
【↑☆FF4かな?】
【↑🔷普通にゼルダの伝説とかじゃないの?】
(……うぅ、ベイガン。仲間になってくれると思ったのに)
【↑☆FF4だった】
【↑🔷サンダガで瞬殺できるカイナッツォよりは手強かったね】
なんかこういう景色を見ていると、旅をしているって感じがする。普段の生活の中にはない景色だし、そこに自分がいるということが非日常的な感じがして。妖怪美術館のときの非日常は若干幻想が伴うものだったけど、ここで感じる非日常感はとてもリアルで生々しいものだった。
そのあと、私は城内を適当に見て回った。なんだ天守閣があるじゃんと思って見上げた建物が、説明を見たら櫓だったとか、低木の入り組んだ道は若干迷路のようで、ちゃんと出口に向かってるのかわからなく不安だったりとかしたけど、やがて入ってきたときと同じ場所から外に出られた。
さて、時刻にしてはまだ午後一時十五分を回ったくらいだった。宿を取っている丸亀に行くにはまだ早いよね。と、いうわけでフェリーの中で調べておいた予備プランを実行することにした。屋島にある水族館。時間が余るようならここに行こうと思っていたのだ。戦いは常に二手三手先を読むんだとどこかの赤い人も言ってたし、私は準備を怠らない女なのです。
【↑☆どの口が言ってるんだか】
【↑🔷ここまで行き当たりばったりなのに。フラグ回収は何行後かな】
(さて、そこまでの経路はどういけばいいのかな……っと)
スマホの地図アプリで行き先を調べれば簡単に経路が出てくるこの時代。そうして出てきたルートの到着時間を見ると……えっ、午後三時半!? 二時間後!?
(フェリーの片道より長いじゃん!? どうなってるの!?)
【↑☆フラグ回収が早すぎる】
【↑🔷私じゃなきゃ見逃しちゃうね】
経路をよくよく見てみると、自家用車がない状態で新屋島水族館へ行くにはJR屋島駅から屋島山上シャトルバスが出ているのだけど、そのシャトルバスが出るのが午後二時半くらいらしい。高松駅から屋島駅までなら三十分に一本くらい電車は出ているけど、どんなに急いで屋島駅についても午後二時半までは待たされることになるようだ。
(な、なら屋島駅から歩きなら……)
そう思ってマップを見る。距離はそんなに離れていない気がするけど……そこでさっきの『山上』というワードが気になった。マップを見ながら自分の見ている方角を変えて、屋島のあるほうを見ると、そこには結構大きく見える山があった。
(うん。歩きなんて無理)
高低差トラップには引っ掛からずに済んだものの、これには本当に参った。このままだと余った時間を使うために、時間を大幅に余らせてしまうことになる。行きがこんなに遅れるなら帰りも遅くなるだろうし、そうなると宿に着くのも遅くなってしまう。どうしたものかと頭を悩ませていたとき……ふと、あるものが目に付いた。
(ゴクリ。使っちゃおうか……
人が、自分が大人になったなぁと実感するのはいつだろう? 二十歳になって成人式に参加したとき? お酒を飲んだとき? 結婚したとき? 否! 私が大人になったなぁと感じたのはコレができるようになったときだ!
「あの……屋島の水族館までいくらくらいですか?」
「ん? 新屋島水族館? 3000円くらいかなぁ」
「あ、じゃあお願いします」
バタンッ……ブロロロロ……
「………」
タクシーに一人で乗れたとき、私は大人になったんだなぁと感じた。
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