桃太郎伝説
第37話:戦前も令和も定番な桃太郎
予定通り父の実家を後にして、母の実家へと直接向かう。車に揺られて約2時間かけて、海沿いにある母の実家にたどり着いた。ここに来るのは3年前の夏休み以来である。それほど遠くないので小さい頃は長い休みのたびに来ていたのだが、近年は自粛していたのだ。
母の実家といっても、厳密には母方の祖母の実家であり、母が子供の頃に住んでいた家ではない。結婚前の母は両親とともにマンションぐらしだったが、両親(僕から見れば祖父母)の定年をきっかけに、曾祖母が一人暮らしをしていたこの家に移り住んだということである。さらに言えば、もとは高祖父(母の母の父の父)が建てた家であり、何度か増改築をしているものの、中にある家具や蔵書は父の実家よりもさらに古いものが目立つ。
到着に合わせて曾祖母が焼き上げてくれたパウンドケーキを食べながら、僕は応接間の本棚に目をやった。日本や世界の昔話、あるいは歴史上の人物の伝記を題材にした古い絵本がある。背表紙はすっかり日焼けして色あせているが、もともとは鮮やかな赤と青だったようだ。
何冊か手にとってみる。武将や軍人はもちろん、桃太郎のような昔話の登場人物まで、「戦う男」であればとても凛々しく強そうに描かれている。本棚には、同じく戦前に発行された漫画もあるのだが、それと比べても明らかに違う。日本軍に見立てた犬の軍隊が活躍する『のらくろ』などは戦争漫画にもかかわらず、キャラクターはデフォルメされていて頭身も低い。
「タケルちゃん、昔の本が読めるの?」
「うん、少しはね。それに中学から古文の授業も始まるし」
曾祖母に言われた通り、戦前の本に使われているのは、いわゆる歴史的かなづかいというやつである。慣れないうちは読みづらいが、ある程度の法則さえ気づいてしまえば読めるようになる。
「それ、ひいおじいちゃんが子供の頃に好きだった本なのよ」
曽祖父は僕が小さい頃に亡くなったので、ほとんど覚えていない。戦中に育ち、あと1年早く生まれていれば軍隊に取られて死んでいたかも知れないと聞いた。ここは田舎なので空襲被害などとは無縁だったようだが、徴兵された曽祖父の兄は、南方で戦死して遺骨も戻らなかったという。
そんな時代に育った曽祖父なので、当時の絵本にしても漫画にしても軍国主義的な匂いが強い。本棚には反戦平和系の本も並んでいるので軍国主義には否定的だったとは思うのだが、それはそれとして幼少期に読んだ勇ましい物語も大事な思い出だったのだろう。今で言えば少年漫画のヒーローのような役割だったのかも知れない。
***
2泊して家に帰った後、そんなことを思い出しながら『桃太郎伝説』のカセットをファミコンに差し込んで電源を入れる。紙芝居のようなオープニングデモでは、川に洗濯機を持っていくおばあさん等コミカル全開だが、「人々を苦しめる鬼を退治するために旅に出る」という目的は実に真っ当なものだ。
「最初は"かたな"を買うんだったな」
今度はノーヒントで遊んでみようと思ったのだが、伯父から聞いた唯一のアドバイスだけは守ることにした。初期資金の100両すべてをはたいて
装備は自動ではない。かといって装備画面で行うわけでもない。道具として手に入った装備アイテムを「使う」ことで、装備欄へと移動(交換)するという仕組みのようだ。装備部位は武器も含めて8種類もあるようだ……多すぎない?
とりあえず序盤の感覚はドラクエによく似ているのだが、あちらと比べると敵も味方も打たれ強くて戦闘に時間がかかる。なるほど、最初に刀を買っておかなければ、さらに長引いたのだろう。
術、いわゆる魔法を覚えるには、レベルアップでも買い物でもなく仙人との修行が必要というのが面白い差別化ポイントだと思った。HP回復の
***
注:
『古い絵本』
戦前に刊行された「講談社の絵本」シリーズをイメージしている。
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