第18話:パスワードは時空をワープ

 バハムートに会ってクラスチェンジを終えた僕たちのパーティは、次に滝を目指した。カヌーで突入すると内部は広大なダンジョンになっているようだ。


 洞窟のモンスターは大したことない。ナイトメアがちょっと回避率が高くて面倒なくらいだ。宝物庫らしき部屋の前でコカトリスが出てきてちょっと焦ったが、ガントレットであっという間に片付いた。


 手に入れたアイテムをチェックする。ディフェンダーは防具かと思ったら武器で、しかもかなり強い。リボンは頭防具のようで、いかにも特殊効果がありそうだ。魔道士の杖は使ってみたら混乱効果があったが命中率が低く微妙。


 ロボットからもらったワープキューブはここで使ってもワープできないようだ。効果を確かめようともう一度ロボットに話しかけたら壊れてしまっていて、なんだか切なくなる。いずれにしても今は使えないアイテムのようなので、これで次の目的地は海底神殿に絞られた。


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 試練の城でネズミの尻尾を手に入れて、バハムートにクラスチェンジさせてもらう。滝の洞窟でワープキューブを入手。レベル18になった戦士たけるはディフェンダーで4回ヒット! 


 クラスチェンジで使える魔法が増えたので、はるき・そらにランク5レイズ、ランク6のサンガーとダテレポを覚えさせる。まだランク6は使えないけれど(レベル18)。


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 僕は日記に追記した。きりもいいので、今日のところはこのあたりで終わりにしよう。


 **


「先輩から借りた!」


 翌日の日曜日。昼過ぎにハルキから写真が送られてきた。


「なにそれ、漫画?」

「違うよ、ファミコン!」


 話を聞いてみると、少年ジャンプ漫画が原作のファミコンソフトをまとめて収録した復刻版ということだ。パッケージは雑誌の表紙のようなデザインになっている。


「ジャンプ漫画は創作の基本だって先輩は言ってたけど、はっきり言ってキャラ頼みのクソゲーも多いみたいだぞ」


 ハルキはパッケージ裏の写真を送る。


「あ、ドラクエあるんだ」

「ああ、ドラゴンクエストだな。これは漫画原作じゃなくてキャラデザ繋がりだってさ」


「でも何年か前にアニメやってなかった?」


 僕はあまり見ていなかったが、父が好きで毎朝見ていたのを思い出す。


「ダイの大冒険のことか。あれはドラクエの世界観をベースにしているけどゲームとは全く別の話みたいだな」


 ドラクエならうちにもあったはずだ。ケースを探してみると、写真と同じパッケージが出てきたので、それを撮って送る。


「タケルもやったの?」

「いや、まだやってない。今はFF1がいいところだし」


 *


 会話はそこで一旦途切れた。その後は宿題を片付けたり、部屋の掃除をしていたりしたのだが、夕方頃に一枚の画面写真が送られてきた。


「セーブ機能もついてるけど、パスワードもあるんだな」


 ハルキはメッセージを付ける。


「ねえ、パスワードってどういうこと? ログインとかするの?」


 僕は思わず、そばにいた父に質問をした。


「ああ、そういうのじゃなくてな。ゲームの状態をパスワードにすることで、次にゲームを始めるときに同じ状態でスタートできるんだ。ちょっと試してみようか」


 父は僕を連れてファミコンのところへ行く。そして『ドラゴンクエスト』のカセットを取り出して、ファミコン本体に差し込んだ。


「ここでコンティニューを選んで、この呪文を入れるとだな……」


ほびいたと やろつにはらば

ぼえくした やかは


 僕のスマホ画面を見ながら、5・7・5・3で区切られた20文字の「復活の呪文」を一文字ずつ入力していく。

「ほら、勇者はるまき君の冒険の続きができるってわけ」


「へえ。……って、はるまきって何だよ!」

 僕はさっそく画面写真を撮って送ると、ハルキにツッコミを入れる。

「なんか本名って恥ずかしいじゃん? ちょうど昼飯で春巻き食べたから。あと俺の小さい頃のあだ名」


 ハルキは少しキザな印象があったが、意外とおちゃらけたところもあるんだなと思った。それにしても、パスワードを使えば時間も空間も超えてゲームの続きが遊べるというのは不思議な気分だ。ログイン式のゲームなら当たり前だが、僕の目の前にあるのはニューファミコン。オンライン機能なんて当然存在しない、新型とはいえ30年も前のゲーム機である。


「ところで、なんで画面の色が違うんだろ」


 ハルキはステータスウィンドウの色がオレンジっぽくなっているが、こちらは白い。


「ああ、HPが減ってくると画面が赤くなるんだよ。しかし復活の呪文から再開すればタダで全回復できるんだな」


 画面を見比べると、経験値やゴールドはそのままだが、HPの値だけが異なっている。あちらでは2ポイントしか残っていない。


「まあ宿屋に泊まったほうが早いんだろうけど、ゲームをやめる時はわざわざ回復しなくてもいいってことがわかった」


「容量節約のためだな。現在値を無視できるってことだから。しかし、お前の友達はなかなか鋭いな」


 横でやりとりを見ていた父がすっかり感心している。


「俺は今日はもうやらないから、そのまま続きやっていいぜ。終わったらパスワード送ってくれよな」


 なるほど。LINEを使えば離れた友達同士でもリレーのようにプレイを引き継げるのか。これはちょっと面白いかも知れない。


 ***


 注:


『セーブ機能』


 ここではDQ1そのものではなく、復刻版である「ニンテンドークラシックミニ」シリーズ特有の機能のこと。


 *


「勇者はるまき」


 DQ1は主人公の名前によってパラメータが16通りに変わるのだが、「はるまき」は力とHPが伸びやすく初期ボーナスも高いという、最強パターンに該当するネームである。完全に余談なのだが、登場人物の名前をもじってこのパターンを出すのに苦労した(実は最初は「そうた」がそうなるはずだったのだが、3文字以下でも空白が1文字としてカウントされることをすっかり失念していた)。


 ちなみに作中のパスワード(復活の呪文)は本物である。


 *


「オンライン機能なんて当然存在しない」


 実はファミコンには電話回線とつなぐ周辺機器があり、株の売買(ファミコントレード)や馬券の購入(JRA-PAT)に使われていた。馬券購入に至っては2015年まで現役だったらしい。さすがに作者も知らない分野であり、こちらについては作中に出す予定はない。

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