ファイナルファンタジー1
Side父:息子の遊ぶ『FF1』その1
このパートはタケルの父の視点であり、『FF1』のネタバレを含みます。気になる方や、あるいはゲーム自体に興味がないという方は、次の第5話まで飛ばしてしまっても問題ありません。
*****
「とりあえず最初からやってみようか。『やりなおし』だな」
「わかった」
息子は僕の言う通りに操作した。『FF1』こと『ファイナルファンタジー』のキャラメイク画面だ。
「ここで名前をつけて職業を選ぶんだ」
「説明とかはないの?」
戦士やシーフ、魔術師などが出てくるが、ゲーム画面に説明はない。
「ああ、この時代のゲームだと表示しきれないことが多いからな。説明書を読んで考えるんだ」
そう言って、説明書の職業(ジョブ)のページを開いて息子に渡す。
「戦士・シーフ・モンク・白魔術師・黒魔術師・赤魔術士の6種類から4人を選ぶのか」
「ああ、ちょっと考えてみろ」
しばらくは何もアドバイスをせずに、息子に考えさせてみることにした。
*
「どうだ、決まったか」
息子は最初に戦士を選び、自らの「たける」という名前を付けた。
「……えーと、まず戦士は必要かなって。あと3人はシーフ・白魔術師・黒魔術師がいいと思うんだけど、これって地雷パーティなんでしょ?」
「ああ、誰もが通る道だな」
「だってこの4人しかいなくない?モンクは肉体と精神を鍛えていると言っても何が得意なのか具体的に書いていないし、赤魔術師は白と黒のどっちか付かずだし。スペシャリストの4人で固めて何が悪いの?」
「そうだな。父さんもそう思った。でもこの説明に書いてあるのはジョブの一面に過ぎないんだ。例えば赤魔術士、魔法を使わない物理攻撃だとどのくらい強いと思う?」
「うーん、白や黒と同じくらいじゃないの?」
「違うんだな。なんと戦士の次に強い!」
そう言って、僕は机の上にあったメモ帳(いらないプリントの裏紙)を取り、ジョブの頭文字と不等号を並べた。
攻:戦>赤>>シ>白>黒
防:戦>赤>>モ=シ>白=黒
「それぞれ、物理攻撃の攻撃力と防御力の比較だ。二つ付けたのは越えられない壁みたいな意味だな。イコールで結んだのは防具は同じくらいだが、左側のほうがHPが高くてちょっと打たれ強いぞ」
「……赤、めちゃくちゃ強くない?」
「そう。めちゃくちゃ強い。というか他が弱いと言うべきかもな」
後のシリーズでは器用貧乏のイメージが定着してしまったが、FF1の赤魔は器用万能と呼ぶのにふさわしい。
「ねえ、モンクの攻撃力が書いてないのはどうして?」
「成長によって大きく変わるから例外だ。最初はシーフより弱いが、いずれ戦士を上回る。ただし素手のとき限定でな」
「っていうか、そもそもモンクって何なの?」
そうか。すっかりRPG用語として定着していたが、僕も最初は知らなかったっけ。
「少林寺……と言ってもわかんないかな。中国のカンフー使いみたいなもんだよ。本来の意味はさておきFFシリーズだとそんなジョブだな」
「あー」
「前に山の家でいとこ達と見ただろ。山奥で修行しているお坊さん」
親父が香港映画好きでDVDを揃えており、昔は親戚で集まった時によく見ていたものだ。
*
「……ねえ、カタカナは使えないの?」
ネーミングの画面で、カタカナに切り替わることを期待してかセレクトボタンを押したりしているが、無駄な努力である。
「ファミコンソフトだとそういうのが多いな。そもそもカタカナのフォントが全部入っていないソフトも珍しくないぞ」
「なんで? 漢字が無いのは仕方ないとして、カタカナくらい無いと困らない?」
「そこはメモリとかの事情なんだよ。とにかくFF1だとキャラ名はひらがなだけだ」
洋風のファンタジー世界なのにキャラ名はひらがなだけ。このちぐはぐな感じもまた、ファミコンらしさなのかも知れない。
「それと、決定ボタンとかないの?」
「あれ、スタート押しても駄目か?……ちょっと貸してみろ」
少し試行錯誤する。どうやら4文字目を入力した状態でAボタンを押すと先に進むようだ。
「わかった、名前が4文字未満の場合は右下の空白で埋めるんだ」
この仕組みなら「決定」ボタンをゲーム内に用意する必要はない。なんとも合理的だ。
*
「うーん、4人目はどうしようかな」
息子は"そうた"という幼稚園からの友達の名前を付けたキャラをモンクにして、"はるき"を赤魔術士にした。さらに、もう一人"そら"と名付けたキャラのジョブをどうするか迷っている。
「ハルキとソラ、新しい友達か?」
「うん、北小出身のね。今日一緒に遊んだ」
自分自身と友達の名前でFF1をプレイする!なんと理想的な遊び方だろう。僕は思わずにやけてしまったが、話すとネタバレになるので黙っていることにする。
「迷ってるみたいだな。ジョブは同じのを入れてもいいんだぞ」
「そうだったんだ!」
息子は"そら"を赤魔術士にした。
「北小コンビ、二人とも物知りだから魔法使いにぴったりかと思って。ハルキは文系、ソラは理系に強いんだよ」
「そっか。勉強教えてもらえよ」
ゲームのプレイを通じて、息子と友達関係や学校の話をする。理想的なコミュニケーションだ。
「……なにこれ、いきなり説明もなしで放り出されるの?」
このゲームは城壁に囲まれた町の外から、何のメッセージもなしにスタートする。予想通り、息子は困惑している。
「一応ストーリーはあるぞ。ほら、説明書を読んでみろ」
「えーと……つまり失われた4つのクリスタルの力を取り戻せってことか。つまり、その4つのダンジョンとボスがいるってわけね」
「物わかりが早いな。シンプルでいいだろう。今も昔もこういうパターンはよく使われるな」
わかりやすい中期目標を設定しておくとモチベーションが維持しやすい。そういう意味で「失われたものを集める」というのはストーリーの定番だ。
「ストーリーはわかったけどさ、僕たち4人は一体何者なの?」
「それは……実際にゲームをやってみてのお楽しみだな」
FF1は何度もリメイクされてグラフィックなどが強化されているが、プレイヤーキャラの正体については相変わらず何も語られない。これはエンディングのメッセージを考えれば当然なのだが、時代が進むにつれて「レトロゲーム特有の投げっぱなし」というミスリードのようになっているのが面白い。
息子はさっそくメニューを開いて現状を確認する。
「400ギルってのは所持金のことかな。アイテムも装備も持ってないし、魔法も覚えていないと。とりあえず、まずは町へ行って旅支度をすればいいんだね」
*
「防具は体に装備するものだけ。つまり武器と防具を1つずつ買えばいいのか」
息子は武器屋と防具屋のラインナップを確認して判断する。そういえば今まで意識していなかったが、最初の町では盾や兜が売っていないというのはある意味で親切なのかも知れない。
「モンクはイメージ的にヌンチャクでしょ。でも同じ値段のハンマーとレイピアはどう違うの?」
「ああ、このあたりはRPGの伝統でな。神に仕える聖職者、つまりFFだと白魔術師は、刃物を持ってはいけないことになっている」
同じ10ギルで並んでいる武器を見比べながら困惑する息子にアドバイスを送る。このあたりはノーヒントだと辛い部分だろう。
「つまり、白はハンマーで戦うの?」
「そういうことだ。一般的に聖職者の武器といえば"メイス"という、鉄球に取っ手がついたようなやつなんだけど、ファミコンのプレイヤー向けにわかりやすくハンマーにしたんだろうな」
「ハンマーが制限向けの武器ということは、装備できるならレイピアのほうが強いってことだね」
「正解! 命中率がちょっと高くなってるぞ」
「レイピアって細い剣のことでしょ? 壊れやすいとかの欠点はないのかな?」
「そういうゲームもあるけど、FFは耐久力とかの概念はないから、単純に強い武器が有利だ」
「打撃と突き刺しで属性が違ったりとかもしない?」
「ああ、この頃のゲームだとまだそういうのは無いな」
40年近く前と比べると、今のゲームはずいぶん複雑化したと思う。ハンマーとレイピアがわずかな命中率の違いでしか差別化されていないゲームなど、今では少数派もいいところだろうか。
*
「残金30ギルか。そういえば魔法も店で売ってるんだよね」
息子は説明書の魔法リストを見る。考えた上で、回復魔法の「ケアル」をまず買うことにしたようだ。
「あ、魔法って100ギルするのか。じゃあ買えないや。道具屋も……ポーション一つで60ギル? 使い捨てなのに高くない?」
「これについては、むしろケアルが安すぎというべきかもな。このゲームはとにかくコスパの差が極端だから、何を買うかが重要になってくるぞ。今はまだ安いものばっかりだけどな」
「とりあえず準備はこれでいいか。外に出てみるぞ!」
いよいよ息子の冒険が始まろうとしている。
***
注:
「カタカナのフォントが全部入っていない」
そのようなゲームがあることは事実だが、『ファイナルファンタジー』については全てのカタカナが用意されているにも関わらず、キャラクターのネーミングはひらがな限定となっている。なお開発中の画面写真ではキャラクターにカタカナ名が使われたものの存在が確認されている。
*
「この頃のゲームだと打撃や刺突などの属性はない」
『ヘラクレスの栄光』など、武器の特性によって敵ごとへの有効性が著しく異なる例はないでもない。また『ファイアーエムブレム』のように、レイピア等の一部の武器に強力な特効が付与されている例もある。
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