第2話:ファミコン話で家族団らん

「ただいまー。父さん帰ってたんだ」

「おかえり。今日は何もなかったからな」


家に帰ると父が出迎えてくれた。僕の父は土日が休みのサラリーマンだけど、金曜日はいつもより早く帰ってくることが多い。プレミアムフライデーというらしい。


「ねえ、ファミコンって持ってる?」

「ファミコン? 山の家に行けばあると思うけど、急にどうした?」

山の家とは、父の実家のことである。今でも祖父母と伯父一家が住んでいる。山と言っても小高い丘程度で、ここから車で20分ほどのところにある。


「今日、中古屋でファミコンを見かけてさ。それに、クラスメイトに詳しい奴がいるみたいなんだ」

「へえ、この辺でもまだ売っている店があるんだなぁ」


*


父は、昔はそれなりのゲーマーだったらしい。今ではすっかりご無沙汰で家にはゲーム機すらなく、スマホやパソコンに入ったゲームを休日に遊ぶくらいだが、攻略サイトやブログは今でも現役で管理しているという話を聞いたことがある。


なお、僕自身はあまりテレビゲームに興味が無かった。小学校に上がったころだったか、父方の祖父がSwitchを買ってくれると言ったのに興味を示さなかったことは、父や祖父にとってはとても意外だったようだ。ゲーム自体が嫌いなわけではない。お下がりのノートパソコンやスマホで、フリーソフトやブラウザゲームで遊んだりはしていた。ただ、ゲームしかできない機械というのに魅力を感じなかったのである。


その後、友達の家などでゲーム機で遊ぶことは多かったが、自分では欲しいとは思わなかった。そんな僕が、ファミコンという大昔のゲーム機が大いに気になっている。


*


「そうだ、ファイナルファンタジーって知ってる? エフエフワン!」

「お、それなら入ってるぞ」


父はそう言うと、ノートパソコンの画面を僕の方に向けた。アイコンをクリックすると、音楽とともにロゴマークが浮かび上がる。


「わあ、これがファミコンなの?」

「いや、これは2年近く前に出たばかりのリメイク版だな。グラフィックも音楽も作り直されてるし、ゲームバランスも大幅に変更されたみたいだぞ」

「ねえ、ファミコン版もやったことある?」

「ああ、1と2がセットになったやつを持っていたな。結局1のほうはクリア出来ずじまいだったけどね」

父さんがクリアできなかったゲーム。いったいどんなものなんだろう。そして日々木さんはクリアできるのだろうか。


「そうだ、ファミコンって今から40年も前のゲーム機でしょ?父さんもやってたの?」

「ああ。ちょうど父さんがお前くらいの頃、レトロゲームがちょっとしたブームだったんだよ。あちこちに中古ショップができたり、レトロゲーム専門の雑誌が創刊されたりもしたっけな」

「レトロゲーム雑誌? そんなのあったんだ!」 

「ああ。兄貴がよく立ち読みしてたな。一緒に店に行くとおすすめのソフトとか教えてくれたっけなぁ」

父さんはそう言いながら目を細めた。子供の頃を思い出しているのだろう。


「エフエフの話してるの?懐かしいなぁ」

台所仕事をしていた母が話題に入ってきた。

「母さんはスーファミの頃にやってたなぁ。4が一番好きかも。友達とイラスト描いて雑誌に投稿したりとかしてたの、懐かしいわぁ」


「スーファミ?」

「スーパーファミコン。ファミコンの次世代機だよ」

さっそく検索してみる。1990年、ファミコンの7年後か。赤と白がちょっとケバいファミコンと比べると、グレーで統一されたデザインは大人っぽさを感じた。

「スーファミって、ファミコンのソフトも遊べるの?」

「いや、別のゲーム機だから互換性は無い。アダプタとかの接続は使い回せるけどね」


「スーファミだと、他にはボンバーマンの対戦モードでよく遊んでたわね」

「対戦か。みんなでコントローラー持ち寄ったりしたよな。マルチタップを持ってる奴はヒーローだった!」

「そうそう、5人対戦まで出来たのよね! 私いつも真ん中だったかも!」


いつの間にか、両親が僕の知らない話で盛り上がっている。


**


「父さんも遊びたくなっちゃったな。明日、山の家に行って探してみるよ。タケルも来るか?」

「ごめん、友達と約束してるんだ」

明日は、中学で新しくできた友達とも一緒に、学区内を自転車で探検する予定だ。

「そっか。ま、楽しみにしておいてくれよ」


僕は食事を済ませると宿題を早々に片付けて、風呂に入った。明日は探検も楽しみだけどファミコンも楽しみだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る