第7話
「お疲れ様でした」
ベッドに座った雅樹の肩を撫でると、彼は大きく息を吐いた。
「いや、本当にスッキリするし、よく眠れる」
「ありがとうございます」
でも、眠るために来ないでくださいね、と再度釘を刺すと、雅樹は苦笑した。
「何だろう? 先生は本当に、人を癒すために生まれた人ですね」
「何ですかそれ?」
黒兎は笑ってソファーへ促す。雅樹はソファーに座りながら、本当に、と今度は笑った。
「今日は随分プライベートな話をしたので。先生は何でも聞いてくれるって思っちゃうんですよ」
それも仕事のうちですから、と黒兎は微笑む。こういうところは、心がオープンになりやすいんです、と言うと、雅樹はいいや、と首を振った。
「私も仕事柄、色んな人を見てきましたけど、こんな事を話したのは初めてです」
自分で言うのもなんですが、人を見る目はあるんですよ、と言われ、黒兎はグッと息を詰めた。
本当は、そんな大層な人間じゃない。人を癒す事で、自分が人の役に立っていると思っていたいだけだ。そうでもしないと、自分には誰も見向きもしないから。
「……さっきの続き。ゲイじゃないかと噂されていた同級生に、私は酷いことを言いました」
黒兎の肩が震えた。悟られないようにお茶を出すと、自分はペットボトルの水を勢いよく体内に流し込む。
「『自分に被害が及ばなければ、俺には関係ない』と言ったんです。浅はかでした。なのに名前も覚えていないんです」
そのあと男性に恋をして、自分がなんて事を言ってしまったんだ、と後悔したと雅樹は言った。
「実は失恋と、実家からのプレッシャーのダブルパンチだったんです」
情けないですね、と苦笑する雅樹に、黒兎は無意識に近付く。そして、少しカサついた雅樹の唇に、そっと自分のを合わせた。
「それは……辛かったですね」
驚いた顔が目の前にある。それを見て黒兎は、一体何をしているんだ、と一気に心臓が跳ね上がった。でも、もう今更だ。
(踏み込まないと決めてたのに)
自分の自制心のなさに笑えた。
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