ははは

奥田朝葉

第1話

「オレ、気持ち悪いでしょ?」


一瞬、固まった。知ってるのかなと思った。

私が、なんとなく気づいてることを。

カウンターに顎を乗せて、少し悲しそうに笑う。

上手く、返せない。

いつもみたいに、面白く、くだらなく、笑えるような言葉が何も浮かばない。


「マスター、昨日ってマサル来てた?」

背中を向けてカシスの瓶を取りにきたマスターに声をかけた。

「あー、玲子ちゃんの友達なんだってね。

すごい好青年の。。。こら、陽次❗️寝たらダメだよ。ほんと、お前は酒弱いのに、、」

私の隣で、違う場面みたいに眠ってる。

長いまつ毛が、時々、揺れている。

眠ってる時じゃないと、じっと顔も見れない。


無駄に、わたしの大好きな顔してるんだよな。


今日も仕事終わりに、ご飯に行こうと誘われて、美味しい油淋鶏を奢ってもらった。

会った時に、何気なく話した事をよく覚えていて、よく連れて行ってくれる。

陽次は4つ年上で、会ったのは、1年前。

皮膚科で帽子を忘れた私を追っかけてきてくれて、最寄りの駅で見かけて、私から声をかけた。

最初、ぶっきらぼうに頭を下げる私を見ていたけど、あの時の、、とわかると、人懐こい笑顔で、肩をポンとたたいて、

「あぁ!あの時のどんくさい女か!」

と、ケラケラと笑った。

きれいな顔して、口が悪い。

仕事帰りに会うと、話すようになって、一人暮らしの私を居酒屋に誘う。

ご飯を作るのが面倒だから、私もホイホイついてゆく。

職場では若手で、自分の考えも飲み込んで仕事をこなす中で、陽次の気楽さは新鮮だった。最近では、陽次の容赦無い言葉にも、同じ加減で答えられるようになって、オレがお前がぐらいのことは言えるようになってきた。

高校でも、3軍ぐらいにいたから、男子と分け隔てなく仲良くするまでに至らず。

イケてる人達を目の端におきながら、ずっと憧れていた。

今、私がイケてるとは思わないが、憧れに近い日々を送れてるような気がする。

浮き足立つのは、憧れのせいだけではないだろう。

陽次の後ろ姿を、駅で探す。

毎日、探している。

少し寝癖のある、短い髪は、人混みの中でもすぐにわかる。

私を見つけた時の、悪そうな含みのある笑顔。

こんな日々がずっと続いて欲しい。

好きだと自覚するまでに、時間はかからなかった。




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