【転売ヤーは滅ぼせる!】前編~転売ヤーを滅ぼす難しさ~

エテルナ(旧おむすびころりん丸)

【転売ヤーは滅ぼせる!】前編~転売ヤーを滅ぼす難しさ~

需要の高い商品を、小売価格より高く売りつける転売ヤー。

その商品を真に欲しい人にとって、これほど疎ましい存在はないでしょう。

本来価格より高値を支払わなければならないことに加え、転売ヤー経由では交換・修理の保証が効かない可能性があることも問題です。


【そんな嫌われ者の転売ヤー、現状では淘汰することは大変難しい!】


というのも、転売行為自体は適正種別の古物商の資格を持ち、ちゃんと税金を納めていれば、なんの違法性もないからです。


しかし小さな子供が欲しいものまで高値で売り、かつマスクやペット療法食など、日常生活や命にかかわる物品までも金儲けに利用する性質は、お年寄りに席を譲らないなどと同様に、犯罪ではなくモラル違反のニュアンスに近いでしょう。


ゆえに転売を禁止する世の中を望む人が多くおりますが、どうやら法律で縛ることは難しそうです。

その理由に、禁止するべき項目の境界線設定があまりに難解な点が挙げられます。


例えばエルズワース・ケリーという美術家の絵画。

白のキャンバスに緑の円を描いただけの絵画に、なんと1億5000万円もの値が付けられています。


「落書きのようにしか見えないのに、なんでこんなに高額なんだ!?」


そう、不思議に思う方もいるでしょう。

しかしこれ、実際はなんの不思議もないことです。


素人目にはまるで価値の見えない絵画が高い理由は、その画材が良質なものだからではなく、誰にも真似できない優れた技術が施されている訳でもありません。

単に人の信用から成り立っているだけで、そのものに価値があると思う人がいるからこそ吊り上がる価格であり、価値あっての需要ではなく、需要から価値が生まれているのです。


作品やコンテンツを支える母体数があまりにも違う為、我々一般人は錯誤してしまいますが、実は訳の分からない絵画が高い理由も、トレーディングカードが高額になる理由もまるで同じです。

絵画もレアカードも所詮は紙と塗料。金(原子番号79:Au)や半導体のように、そのものに本質的な利用価値がある訳ではないのです。


つまり価値の高騰について、信頼によってのみ価値が上がる物品の転売を禁止するならば、必然的に絵画のオークションもNGになります。

となれば刀剣や壺や巻物も? 唯一性だとか歴史的に価値があるものはOKにしておきますか?

だったら大衆に販売されていたものに限定してNGにすれば……だとしたら過去に小売価格が設定されていた、ブリキの玩具のような類もNG?

現行で流通しているものに限れば……貨幣は現在も流通しており、ならばエラーコインを高値で取引するのもNG? 貨幣に至っては明確な価値が記載されているというのに、それでも高値で取引するのはOKなのか?


ああすれば、これが駄目。これが駄目なら、あれも駄目。あれが良いなら、これも良い。

境界線を見つけようとすると、底の知れない泥沼に嵌まってしまいます。


また小売価格以上の値段を付ける行為を一律にNGにした場合、カードショップは存続を危ぶまれます。

小売価格を超える値段を付けることが許されないとなると、一パック300円6枚入りならば、いかなるレアカードだろうが、元のパックの価格以下でしか販売できません。

更に小売価格以上NGの弊害は、輸送コストの為に高値で販売する山小屋やテーマパークの物品にも及びます。

となれば誰もわざわざ、山の上や離島まで商品を運ぶ人はいなくなり、それはそれで困る人が続出します。


これでもまだまだ、禁止した場合に出る弊害例の序の口も序の口で、他を挙げ出したらキリがありません。

あまりにも多くの市場システムに絡み過ぎているのです。


また法ではなく、企業側への対応改善も難しいです。

受注生産にした場合、注文者の把握や安定した生産ロットが組めないなど、通常の生産以上のコストが掛かります。

しかもそれが毎度毎度、新作が出る毎に負担が増大し、旧新作含めた何十・何百という種類を受注生産しなければなりません。

ならば受注期間を限定して定めようとすると、今度はそれを再販した場合に景品表示法の違反になります。

打ち出した商品が上手くいった場合に再販できないのは、企業にとっての大きな痛手になります。


ならば供給数自体を増やせばOK――そんな願いも厳しいようです。

過剰供給は会社にとっての大きなリスクです。過去にはバンダイの「たまごっち」に、同様のプレミアが付き大量に増産したは良いものの、ブームが過ぎてしまったことで在庫を抱え、倒産寸前まで追い込まれました。


企業の本質は金儲けです。客の満足は儲ける為の手段です。

目的が金で手段が顧客満足なら、優先すべきは儲けです。

これを聞くと不快に思う方もいるでしょうが、結局我々ひとりひとりもお金の為に仕事をしてます。

会社や客の為なら、己の賃金や待遇など構わないと言えるでしょうか?

そうした個人の集合が会社であり、賃金が安定しなくても構わない労働者がいないのと同様に、売上が安定しなくても構わない会社はありません。

転売ヤーと顧客を気にするあまりに大損失を被って、倒産してしまえば元も子もないでしょう。


つまり法も企業にもどうにもできず、転売ヤーが笑う中、我々は泣き寝入りするしかないのです……


――という世の中が、これまでずっと続きました。

しかしどうやら、これからの世の中は違うかもしれません。

既存のシステムがまるで通用せず、昔ならではのやり方が著しい速度で淘汰されていく新たな世界。


次回、【転売ヤーは滅ぼせる!】後編~科学の力が転売ヤーを淘汰する~という記事で、現実味も交えながらSFチックな転売撲滅についてを話しますので乞うご期待。

ご読了ありがとうございます。

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