騎士団長様は汚屋敷住まい
ぜろ
第1話
「ふぅ……」
秋の薔薇の剪定を終わってやれやれと私は肩をぐりぐりく回す。ずっと屈んでいたせいか、腰もちょっと痛くなっていたのでぐーっと伸ばした。家の方からはおばあちゃんお気に入りの演歌が聞こえていて、やっぱり家を持つなら郊外だなあ、なんて思う。
私は
さてとあとはもうちょっと奥の方でつぼみを付けているものを剪定するか、と思ったところで大きな風が吹き、わっとそれに帽子を取られそうになる。慌てて掴んだけれどその所為か、てってってっとたたらを踏んでしまった。危ない危ない、ほーっと息を吐くとガサリと茂みの方から音が鳴る。来客が庭を突っ切って来ることは少ないので、きょとんと帽子を胸に抱いて振り向くと、
そこにはファンタジー小説に出て来る貴族みたいな恰好をした男の人が立っていた。
長いマントの裏地は赤、表は紺。黒い軍服っぽいのを着て、腰には剣。歳は高校生か大学生ぐらいに見える、黒髪に赤い目。そして結構なハンサム。
ぽかん、とした男はすぐに、顔を引き締めて剣を抜き、私に向けて来た。
ひゃっと肩を竦めて目を閉じると、いつの間にか聞こえていた演歌が途切れている。
「何者だ。その恰好、城のものではあるまい」
知らない単語ばかりなのになぜか意味が解って、ぶんぶんと私は頭を振る。
「何者でもないです! 庭の剪定してるだけで、って言うか城?」
「お前の眼は節穴か?」
低い声の彼はくい、と男の人が顎で後ろを示す。
つられてみると、そこには尖塔をたくさん持った豪奢な城がそびえていた。
「こ――ここ、何処ですか!?」
おもわずどもりながら言う私に、男の人は私に向けていた敵意のような物を収めたらしく、剣を鞘に納めてくれた。でも。そんな事はもはやどうでも良くて。おばあちゃんの家はどこ行っちゃったのか、なんで自分が城の庭園で剪定鋏持っているなんて不思議状態になってるのかが分からなくて、思わず涙目になっていると男の人はぷすりと笑った。
嘲笑ったようにも見えたけどそれは涙目になっているせいにしておこう。とにかくここ。どこ。電車でおばあちゃんちに戻れる距離じゃないのだけは解って、私はふるふるとへたり込む。
男の人は私の腕を掴んで無理やりの立たせようとしたけれど、そんなに軽くもない私は努力しても立ち上がれない。仕方ないな、と言う風に溜息を吐いたあとで、彼は私をひょいッと俵抱きにした。ジーンズのお尻をぺいっと叩かれて、きゃあっと声を上げる。
「まるで子供だな。まあ良い。王に謁見の用があるのだ、お前を捕まえたことも添えておこう」
少し意地悪そうに言ったその人は、くくっと喉を鳴らした気がした。
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