高校生編

第7話


母の死から約十年の月日が流れ今年で高校生だ。

母の死後、当時の同僚だった甘木ゆいに引き取られ彼女の子供として育てられた。

今はそれなりに幸せだとは思う。

しかしそれでもあの日の事が夢に出てくる。

死後、五年間は赤いものや母の写真、映像を見ただけでフラッシュバックしたり過呼吸になったりしていたが今はカウンセリングを受けているおかげでかなり収まっている。

楓も以前と比べるとかなり顔色も良くなって外出もできるようになっていた。

郁は母の事関係なく引きこもっている。

プロのイラストレーターらしくライトノベルやVtuberの絵も担当しているとか。

兄としては嬉しい限りだ。

入学式は三日前に終わり土日を挟んでの高校二日目だ。

俺は病院で検査を受けないと行けなくて今日が初めての登校日になる。

最初、ゆいさんがどうしてもついて行くと言った時はどうしたものかと思ったが二年前に事務所へ入所した新人声優の戸田さんがなだめてくれたおかげで何事もなく学校へいけた。

楓と一緒に校門をくぐると後ろから声が聞こえてきた。

「そこのあなたたち待ちなさい」

「お兄ちゃん、なにか部活とか入るの?」

聞こえているはずの声を楓は無視して会話をし始めた。

「いや別に入らんが?というか無視していいのか?必死に呼び止めてるぞ、後ろのやつ」

「いいのいいの。あの子ドMだから」

「お前がいいならいいが」

「待ちなさいって言ってるでしょっ!!あんた達は兄妹揃ってドSなのっ!?」

黒髪ショートヘアの少女が息を切らしながら走ってきた。

「お茶飲むか?」

「え、ええ、ありがとう。って違うわよっ!」

「あ、やっぱりもう少し放置して欲しかったの?」

「ぶっ殺すわよ?」

「やれるものならね」

「あんたも久しぶりね。葛島奏」

少女の顔には見覚えがあるような気もするが初対面な気もする。

「久しぶり?初めてだと思うが」

(どこかで見た気もするが思い出せん)

「ナチュラルにドSなの?あんた」

「あ、ああ、思い出した。音楽番組の楽屋で突っかかってきたチビッ子か」

「違うわよっ!」

「違うのか?」

「違わなくは無いけどっ!そうじゃなくてチビッ子じゃないってことっ!私は三笠紡って名前があるのよ」

「で、俺に何の用だ?」

「演技とか興味無い?」

「全くもってないな」

「監督が是非って言ってたわ」

「なんでだよ」

「六年前のドラマで出演してたでしょ?あんた」

(ちっ、思い出したくもないあの黒歴史)

「なんでそれ知ってるんだよっ」

確かにゆいさんの頼みということで子役として一度だけドラマに出たことはある。

しかしあのドラマは結局打ち切りとなったはず。

「業界の中で子役が凄く演技上手いって有名なのよあの作品」

「その子役というのが俺のことなのか」

「ええ、そうよ。実を言えば本当に困ってるの。元々予算も少なくて急ピッチに撮影も進めていたからそれが嫌になったライバル役の子が辞めちゃってこのままじゃ放送に間に合わないのよ」

「それで俺に代役を?」

「ええ、お願いっ!」

「分かった。そこまで言うなら」

「ありがとうっ!」

楓はあまり嬉しくなさそうだがあんなに偉そうにしていた三笠が頼んできたんだ代役を受けても罰は当たるまい。

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