第93話 衝撃の報告
地震発生からは怒涛の日々だ。王宮図書館では本棚から多くの本が飛び出し、その他の場所でも多くのものが落下し、壊れ、皆が片付けに忙しく動き回っていた。
しかしマルティナたちはそちらを手伝う余裕もなく、政務部での仕事に追われている。
被害状況の確認や、人や物資をどこにどれだけ派遣するのか、足りない騎士をどう補うのか。
仕事はいくらでも政務部の官吏たちにのしかかり、皆が睡眠時間を削って踏ん張っていた、地震発生から二日後の朝早く。
皆の頑張りを嘲笑うかのような、絶望を感じる報告が王宮中を駆け巡った。
「皆、聞いてくれ!」
政務部の部長が部屋に駆け込んできて、青白い顔で叫ぶ。そのあまりの必死さに忙しく動き回っていた官吏たちも手や足を止め、部屋の入り口で肩を上下させる部長に視線を向けた。
少しだけ息を整えてから、部長は政務部をぐるっと見回し、信じられない事実を告げた。
「魔物の大発生が、起きているらしい。その規模は今までの瘴気溜まりの比ではなく、数キロ離れた場所からも瘴気溜まりが目視できるほどだと……!」
その言葉に政務部の中が一瞬だけ静寂に満ち、すぐ蜂の巣を突いたような大騒ぎになった。
数キロ離れた場所からも目視できるとなれば、最低でもその瘴気溜まりは、人の背丈より何倍も大きいことが想像できる。
そんなに大きければ、どれだけ大量の魔物が一度に、そして高頻度で産み出されるのか。想像するだけで恐怖を覚えるほどだった。
「なぜそんなことに……!」
「地震が原因ですか?」
「場所はどこですか!」
皆からの矢継ぎ早の質問に、部長は声を張って答える。
「何も詳細は分からん! しかし幸いにも、地震による異常の発生は事前に考えていたため、発見は早かった。瘴気溜まりの発生場所が王都から馬で三時間ほどの森の中ということもあり、現段階ではまだ被害報告はない!」
最悪な状態での少しの幸運に、皆の動揺が少しだけ収まった。しかし一刻を争う事態であることは明白だ。
マルティナは突然の緊急事態に少しだけ固まっていたが、すぐ自分がするべきことを把握し立ち上がった。
「部長! 聖女ハルカに協力を要請しますか!」
そう問いかけると、部長はすぐに頷いて今後の話に移る。
「お願いしたい! 聖女関連の手続きはマルティナ、ロラン、シルヴァン、ナディアの四人に任せる。すでに陛下からは聖女への協力要請について了承が出ているため、書状がすぐに出されるだろう。また各国の代表者たちからも了承をもらっているそうなので、その前提で進めてくれ!」
「分かりましたっ」
四人がほぼ同時に返答すると、部長はすぐ他の者たちに視線を向けた。
「他の皆にもそれぞれ役割を割り振る! 手が空いている騎士を最低限だけ王都に残し、残りはすべて派遣することが決まったそうだ。そこでその手続きに五名、それから王都内の通路確保や安全確保などに十名、また近隣の街や村などとの情報共有に十名、さらに――」
それからも役割の説明と割り振られる人員の名前が挙げられ、部長が政務部に飛び込んできてから十分ほどで、皆が自分の役割を認識して動き出した。
マルティナもさっそく、これからすべきことを脳内で整理する。
まずはハルカがいるだろう場所を割り出し、早馬で連絡に向かってもらわないといけない。使者が一人では予想が外れた時に時間をロスするので、数人は選出する必要がある。
またハルカを待つ間、なんとか騎士たちで魔物を食い止める必要があるだろう。ハルカが到着してからも、瘴気溜まりまで辿り着けないといけない。
そのためには、出現する魔物の情報が大切だ。
そこまで考えたところで、マルティナの下にロランがやってきた。護衛としてサシャもその場にいる。
「マルティナ! 今回のことはハルカの協力が鍵だ。俺たちの働きに被害の増減がかかってるぞ」
真剣な表情でそう告げたロランに、マルティナは真剣な表情で頷く。
「はい、最善を尽くしましょう。まずハルカが今いるだろう場所は、私が割り出します。ハルカの行程や通る場所の地形を全て覚えていますし、現在の季節と過去のデータから、天気の崩れなども予想できます」
マルティナの能力を知らぬ者が聞いたなら到底信じられない言葉だが、ロランはすぐに頷いた。
「分かった。じゃあそこはマルティナに任せる。俺は使者の手配をしよう。騎士団に関してはシルヴァンとナディアよりも詳しいからな」
「それがいいですね。お二人には使者の出発に関する準備をしてもらいましょう」
そこまで話がまとまったところで、ナディアとシルヴァンがやってきた。そこで先ほど決めた内容を伝えると、二人はすぐに了承する。
「分かった。では私が使者に持たせる書状等の準備を行おう」
「それならわたくしが、王都内の各所との連携ね。使者がすぐハルカの下へ向かえるようにしなければ」
二人も自分の役割を把握したところで、四人は真剣な表情で頷き合った。さっそくナディアとシルヴァンが自身の仕事をこなすためにその場を離れると、ロランがサシャに視線を向ける。
「サシャ、マルティナの護衛はしばらく頼んだ」
「はい。任せてくださいっす」
真剣な表情で頷いたサシャにロランも頷き返すと、ロランも仕事に向かった。マルティナもまた席に着き、仕事開始だ。
〜あとがき〜
いつも読んでくださっている皆様、ありがとうございます!
書籍2巻の発売まであと2週間と少しですが、本日からweb版は毎日更新をしようと思っております!
書籍発売に向けて、より『図書館の天才少女』を楽しんでいただけたら嬉しいです。
そして書籍もよろしくお願いいたします!
蒼井美紗
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