第66話 不思議な発見と食堂へ
女性が示したページには、確かにマルティナの記憶にある幾何学模様と同じものが描かれていた。さらに女性が指摘した汚れも。
「本当ですね……」
(『均衡美の追求』に載っていた模様と全く同じだ。そしてこの汚れ、『均衡美の追求』のページにも存在した。さらに今までは気にも留めていなかったけど、過去に別の本で全く同じ幾何学模様と似たような汚れを見たことがある。三つも同じようなものがあるってことは、何か意味がある?)
マルティナが過去に見た幾何学模様と汚れについても女性に伝えると、女性は眉間に皺を寄せた。
「二つだけならば考えすぎかもと思えましたが、三つとなると何かしらの意図がありそうですね」
「はい。これは調べてもいいかもしれません。幾何学模様は魔法陣とどこか似ていますし」
二人は真剣な表情で頷き合い、マルティナが過去に見たページと『均衡美の追求』のページを、汚れまで完璧に再現して歴史書に挟んでおくことに決めた。
現状の三ページだけで何かが分かるだろうかと、マルティナは脳内で三つを並べるが、情報が少なくて取っ掛かりが掴めない。
(あといくつか見つかれば、何か分かりそうな気もするんだけど)
思考しながらもさらさらっと完璧に模様を再現するマルティナに、女性は感心の面持ちを浮かべた。
「いつ見ても感動しますね」
「ありがとうございます。……よしっ、これで完成です。歴史書に挟んでおいてもらえますか?」
「分かりました。ありがとうございます」
女性が頭を下げて自分の席に戻っていくのを見送って、マルティナは先ほどの幾何学模様が描かれた書物があれば教えて欲しいと、他の皆に伝えることにした。
もう一枚の白紙を取り出し、完璧な模様の再現を行う。
「ラフォレ様、少しお話があるのですが――」
そうしてマルティナの午前中は、忙しく過ぎていった。
昼食の時間となったのでマルティナが書庫を出ると、書庫の扉前に待機していたサシャは、油断なく辺りに視線を向けて護衛業務に徹底していた。
そんなサシャに声をかける。
「サシャさん、お疲れ様です。お昼になったので食堂に行くことにします」
マルティナに声をかけられたサシャは振り返り、表情を一気に緩ませた。
「分かりました。実はお腹空いてて、嬉しいっす」
「じゃあ、早く行きましょう」
嬉しそうに王宮図書館の出入り口に向かうサシャを見て、マルティナはお昼をできる限り忘れないようにしようと決意する。
(私が一緒に行かないと、サシャさんはお昼を食べ損ねるんだよね。あっ、でもロランさんみたいに私を置いていってもらえば……)
お昼を忘れないことよりも、自分がお昼を忘れた場合のサシャの行動に思考がシフトし始めたマルティナに、不思議そうなサシャが顔を覗き込んだ。
「どうしたんすか? お腹でも痛いとか」
「いや、違います。私がお昼を忘れた時には、サシャさんには一人で食堂に向かっていただこうかと考えていて」
「そういえば、昨日も忘れたとか言ってましたっけ?」
「はい。本に夢中になると、よくやらかすんです……」
苦笑を浮かべたマルティナに、サシャが真剣な面持ちで宣言した。
「マルティナさん、飯は大事っすよ。食べなきゃ大きくなれないっす。なのでこれからは、俺が昼になったら声掛けますね!」
ニカっと白い歯を覗かせたサシャに、マルティナが感謝を伝えようとすると、ちょうど別の廊下から食堂に向かおうとしていたロランと鉢合わせた。
「あっ、ロランさん」
「マルティナ、サシャ、ちょうど会えて良かった。ハルカと約束してたから、今日はマルティナも食堂に行くだろうってこっちに来たんだ」
「そうだったのですね」
ロランも一緒に歩き始めたところで、マルティナは問いかける。
「ロランさんは、昨日のお昼ってどうしたのですか? 私のせいで食べ損ねたりしてませんよね……?」
ロランがマルティナの護衛になってからは、いつも一緒にお昼を食べていた。しかし昨日は無断ですっぽかしてしまったと、今更気づいたのだ。
「俺はちゃんと食べたから問題ない。マルティナにも一応声はかけたんだが、かなり真剣な表情で本を読んでたし、要らないって言われたからな」
「……全く覚えてないです」
「ははっ、本当にマルティナは集中すると凄いな」
寛容に笑ったロランは、サシャの肩に手を置く。
「サシャ、ぜひマルティナに健康的な生活をさせてやってくれ。マルティナに上の空で断られてもめげるなよ」
「了解っす!」
ロランの言葉にサシャが真剣な眼差しで頷いていて、マルティナは申し訳なさに落ち込んだ。
(これからはちゃんとお昼を食べよう。ロランさんとサシャさんに迷惑をかけないためにも、ハルカと一緒の時間を過ごすためにも)
マルティナが守れるのかどうか怪しい決意を固めていると、ロランがマルティナの肩にも手を置いた。
「マルティナ、研究は一朝一夕で完成するようなもんじゃないんだから、無理はするなよ」
かけられたその言葉に、マルティナは自分でも気付かないうちに焦っていたのかもしれないと思った。ハルカのために一日でも早く帰還の魔法陣を完成させ、安心させてあげたいと考えていたのだ。
「はい」
「ハルカはマルティナが無理して体を壊したら、悲しむと思うぞ。もちろん俺たちもな」
柔らかい笑顔で伝えられたその言葉に、マルティナは心が温かいもので満たされるのを感じながら頷いた。
「ありがとうございます。気をつけます」
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