第10話 魔物討伐と瘴気溜まり

 盾使いがボア系魔物の攻撃を受け止め、そこを剣や槍使いが盾の後ろから攻撃する。遠距離の武器を使う者や魔法が得意な者はワイバーンの急所を突いて、的確に地面に落としていく。


 一目で騎士たちの練度の高さが分かる戦いぶりに、マルティナは目を奪われた。そんな戦いの中で、水魔法を使える騎士たちが一斉にサンドクラブに向けて魔法を放つ。


「「「ウォーターボール」」」


 その魔法はそこまでの威力ではなかったが、全身に水を浴びたサンドクラブはさっきまでの機敏な動きを鈍らせた。


「凄いな……水が弱点というのが顕著だな」

「はい。これならば急所も狙えると思います」


 一人の騎士がサンドクラブの前面に出て注意を惹きつけ、サンドクラブが緩慢な動きで足を振り上げた瞬間。背後に回った騎士が土魔法で地面を盛り上がらせサンドクラブの上部まで体を持ち上げると、そのままの勢いで脚の関節に剣を差し入れた。


「ギィィィィィ!!」


 サンドクラブは甲高い叫び声を上げると、バタンッと爆音と土煙を撒き散らしてその場に倒れる。


「倒せたようだな」

「良かったです。皆さんとても強いですね!」


 目の前で繰り広げられる高レベルな戦いにマルティナが頬を紅潮させると、ランバートは微妙な表情で頷いた。


「確かに皆はよく動いているが、ここまでスムーズに倒せているのはマルティナの知識があったからだ」

「お役に立てたのならば良かったです」


 照れたようにマルティナが頬を両手で押さえると、ランバートは大きな手でマルティナの頭を撫でて魔物の後ろに視線を向けた。


「問題は魔物の出所だな。さっきから倒しても新たな魔物が現れている」

「そうですね……私も気になっていました」

「やはり、瘴気溜まりがあるのだろうか」


 ランバートはそう呟くと、後ろで怪我の手当を受けている騎士に声をかけた。


「黒いモヤから魔物が生まれたという報告を受けたのだが、それは事実か?」

「……はい。この目で見たのは確実です。しかしあまりにも信じられない光景でしたので、何かと見間違えた可能性はあるかもしれません」

「分かった。そのモヤの場所はどこだ?」

「今魔物がいる場所の少し後ろです」


 騎士から欲しかった情報が得られたことで、ランバートは大きく迂回して魔物たちの後ろに回り込むことを決めた。この場の戦闘は余裕がありそうだったので、一つの班を引き連れてモヤがあるという場所に向かう。


 もちろんマルティナも一緒に向かっているため、歩みはゆっくりだ。しかしそう遠い場所ではないので数分でモヤが視認できる場所に着き……皆は目の前に広がる光景に、絶句して動きを止めた。


「――どういう、原理なんでしょうか」

「本当に、モヤから魔物が生み出されてるな」


 円状に広がる黒いモヤは十人程度の人間が余裕で入れる大きさだ。そんな黒いモヤから魔物がボトリ、ボトリと排出されている。


「マルティナ……どう思う?」

「瘴気溜まりの可能性が、高いかと」

「やはりそうか……とりあえず、排出された瞬間の魔物は無防備だ。ここで魔物を倒そう。皆、これは瘴気溜まりというものだ。数人で取り囲み、魔物が生まれた瞬間に倒して欲しい」

「かしこまりました。……これは何なのでしょうか」

「詳細は調べなければ分からないだろう」


 ランバートの指示通りに騎士たちが動き、瘴気溜まりから生まれる魔物はすぐに倒されるようになったことで、とりあえず緊急事態は終結だ。


「しばらくはこうして生まれた瞬間に倒して対処するしかないな……しかし、瘴気溜まりを消滅させなくては本当の解決にならない」

「光属性の方ってどれほどの数がいるのでしょうか?」

「光属性は一番少ないからな、騎士団には数えられるほどだ。治癒師として働く者も含めればかなりの数になるだろうが、その者たちが危険な場所に来てくれるかは分からない」


 二人は一定の周期で魔物を排出している瘴気溜まりをしばらく見つめ、まずはこの情報を王宮に持ち帰ろうとその場を離れた。


「マルティナ、お前にはこの問題が解決するまで、しばらく手伝ってもらいたい」

「もちろんです。これは国全体の問題ですから、政務部も動くことになるでしょう。できる限り手助けいたします」

「助かる。まずは王宮に帰って上に報告だな。陛下のお耳に入れなければならない案件だろう」

「そうですね……あそこだけならば良いですが、瘴気溜まりが各地にできていたら大変です。対処法を考えなくてはなりません」


 マルティナの言葉にランバートは険しい表情で頷くと、馬の速度を上げた。何気なく顔を上に向けると、先ほどまで晴れ渡っていた空には暗雲が立ち込めていた。

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