木漏れ日の下で

聖丘謡夢(ひじりおか・ようむ)

第1話  プロローグ

「この先600m、目的地です」

 カーナビの自動音声が車内に響き渡った。月浜昴つきはますばるは、朝の街の少し傾斜のある坂道を車で上っていた。カーナビのよそよそしい声にはいつもモヤモヤする。もう少しフレンドリーな声の方がいいんじゃないかと思うが、目的地まではきちんと案内してくれるからと、渋々自分を納得させている。


 やがて、坂の終わりが近づいてくると、突き当りに蕾をつけた高い桜の木が目に飛び込んできた。そして傍らに小さな喫茶店が見える。(…あそこが修理の依頼先かな)と昴が思った矢先、

「まもなく目的地です」

またカーナビの自動音声が。

「わかってるってば」

と彼は毒づきながら、設定していた少し手前のコインパーキングに車を停め、助手席に乗せた修理依頼書のバインダーと修理工具を持ち出し、喫茶木漏れ日に向けて歩き出した。

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