婚約破棄されたギザ歯の悪役令嬢は辿り着いた魔族の国で溺愛されてしまいます……

佐藤うわ。

婚約破棄されたギザ歯の悪役令嬢は辿り着いた魔族の国で溺愛されてしまいます……

 私アマリリス・コイヴィストは自分で言うのも何だがもっぱら容姿端麗にスタイル抜群と言われている。さらには生まれた家は伯爵家、それなら言う事の無い幸せ者ではないかと思われるだろう。

 だがそうでは無い。私には巨大な悩みがあった。それは生れ付いての歯がギザギザ、いわゆるギザ歯なのだ。少し程度のギザ歯では無い、完全にはっきりとくっきりと見事な位の三角が並ぶギザギザのギザ歯なのだ。そして幼い頃から付いたあだ名が『ギザ歯の悪役令嬢』という不名誉な物。


 誤解の無い様に言っておけば私は伯爵令嬢だが、決して悪役令嬢では無い。そもそも悪役令嬢って何だ?? 友達を嘘で陥れたり、新入学生を子分と一緒にイジメたり、家の権力を背景に自分をごり押ししたり等という事は一度もした事が無い。至って標準的な性格の女の子だ。しかし豪華な金髪にきりっとした眉、気丈そうな鼻筋の通った顔立ち、そして見事なギザ歯、それだけで悪役令嬢と皆から呼ばれまた半ばそう呼ばれる事を長年諦めて生きている。


 ……と、ここまで来れば如何にも不幸そうな可哀そうな女子だと思われそうだがそうでは無い。私には私の唯一の希望であり、いやそれ以上のマイナスポイントを全て帳消しにするぐらいの大きな心の支えである、幼馴染で親が決めた許嫁の侯爵家の長男、愛してやまないエドワルド・エルヴァスティという人が居た。彼はただ単に幼馴染で許嫁というだけでは無く、いつも私の悩みを聞いてくれ慰めてくれる唯一と言っていいくらいの理解者なのだ。今日はその彼が密かに私をお屋敷に招いてくれるという。一体どの様なお話しがあるのだろうか? もしかしてとうとう式の日取りだろうか……私の胸は高鳴った。



「アマリリス・コイヴィスト、婚約を……破棄して欲しい……」


 侯爵家である彼の大きなお屋敷の広大な部屋に二人きりで入ると、彼は唐突にだがはっきりとした口調で言った。


「……あ、あの……覇気って何ですの? 婚約を覇気ってどういう気合なのですか?」

「いや……覇気では無い、破棄だ。君との婚約を白紙にして欲しい」


 一瞬彼の言った事の意味が理解出来なかった。それでも衝撃で天井と壁が一瞬ぐらっとした。


「あ、あの……聞き間違いですわよね……いえ冗談、そう冗談ですわよね!?」

「冗談では無い。会うのもこれっきりにして欲しい……」


 もうその時点で目からは涙が出ていたが、念の為にさらに聞いた。


「何故?? もしかして皆が私を悪役令嬢と噂してる事を信じてしまったの??」

「いや、生き馬の目を抜く貴族社会で少々悪役令嬢と言われるくらいの方が逞しくて良い」


 意外な答えだった。


「ではエドワルド何故……?」


 聞かない方が良いと思うが聞いてしまった。


「……小さい時から……君のギザ歯が……怖かったんだ。いつもいつも言っては可哀そうだと思ってその想いを押し殺して来たが、結婚の二文字が現実味を帯びて来て、もう自分に嘘を付いて生きていく事は無理だと悟ったんだ……済まない」


 ……え? 


「いつもいつもギザ歯は可愛いだとか、僕だけは君を受け入れるとか言っていた事は??」

「全て嘘だ。いい人と思われたくて無理をしていた。それに……君とじゃキスも出来ないよ」


 もう涙がとめどもなく溢れていて会話を続ける事が不可能になっていた。その後、どの様な事を言ってどの様に家に帰ったのかも記憶が定かでは無い。両親の対応も酷かった。


「まあっエドワルド・エルヴァスティ様にどんなご無礼をしたの!? 貴方みたいなギザ歯の恐ろしい顔をした娘でも受け入れてくださった素晴らしい御方なのに……今から謝ってらっしゃい!」

「そうだぞ、侯爵家と縁戚になれる機会なんてそうそうないぞ。家に貢献する為に頑張りなさい」


 母も父も自分の地位と体面の事しか考えていない。私がどれ程傷付いたかも全く気にしてもくれない。


「……もう今夜はお休みさせて下さい」


 私は妹や姉ばかりを溺愛し、普段からあまり会話の無い父母に見切りを付けると、その夜の内に少しばかりのお金と荷物をまとめふらふらと家を出てしまった。



 どれ程歩いたのだろうか、家どころか故郷の国すらも出てしまい、遂に外国に入りさらには人間の住む世界からも遠い所まで来てしまった。もはやお金も無くなりこの先には夢も希望も何も全く無かった。そうだこのまま魔族達が住む国とやらに行ってしまおう……私の足はふらふらと魔族の住む国に向かった。



「ここが魔族の国……」


 魔族の国とやらに辿り着くと案外我々が住む普通の街と違いは無かった。だが……町々を行く人々を良く見ると角が生えていたり、目が三つあったり、肌の色が緑色だったりとやはり人間とは全く違う人々が住んでいる。こんなやせ細った体で良ければどうぞお食べになって下さい、という投げやりな気持ちで街をフラフラと歩いたが、声一つ掛けられる所か親が子供を隠し皆が避けて通る。そうか、人間の社会では魔族は化け物だが、魔族の街では人間の方が化け物なのだ。私はさらに自暴自棄になって笑いながら歩いた。


「君……人間だね? こんな所で何をしている?? 此処に攻め入る為の偵察行動か?」


 なんだか大仰な事を言われて振り返ると、スラリと背の高い黒いスーツを着た魔族の男が居た。


「王様が来たっ!」

「王様が来て下さったぞ!!」


 隠れ気味だった街の魔族達が口々に囁いて安堵の顔を見せる。そうか彼は王様なのか、遂に殺されて食われる時が来た様だ。


「そうですわね……私を放っておくとどうなるかわかりません事よ? うふふふふふふ」


 私は皆に言われるギザ歯の悪役令嬢をイメージして、不敵な笑みを浮かべながら死を覚悟して魔族の王様を挑発した。


「あっ……ああ、あ」


 その直後、何故か魔族の街の王様と言われる男性は、顔を真っ赤にしてあうあう言い出して後ろにたじろいだ。怪訝な顔をする私。私のギザ歯は魔族すら怖れさせる物なのか?


「だ、だめだっ我慢出来ないっっ」

「えええっ!?」


 突然彼は私を強引にお姫様抱っこすると背中から黒い翼を広げ、空を飛んだ。


(こ、怖いっ!? 落とされる……)


 最初はそう思ったが、よく考えれば食べられる事も覚悟の上、そう考えれば冷静に高所からの眺めを楽しむ事が出来た。小さい街だが魔族の街は緑に囲まれた美しい場所だった。最後に見る景色としては悪くない。



「……此処が私の城だ」

「は?」


 捕まえられた時は非常に強引だったが、城だと言う場所に降りたった時はとても丁寧にゆっくりとふわっと降ろされた。


「す、済まない。少し脅して人間の国に追い返すつもりだったが……」

「だったが?」


 私はこの魔族の街の王様という男が割にイケメンで、尚且つ結構おどおどしている事に気付いて、恐怖心は消え去り堂々とした立場で聞き返した。


「……あまりに君が美し過ぎて……つい連れ去ってしまった。人間とは言え女性、女性に乱暴な事をするつもりは無い。希望があればどこにでも帰そう」


 あら紳士。こうなるとさらに気は大きくなった。


「……どこが美しいの? 言ってみて下さる??」


 私は少し子供を叱る様なニュアンスで腰に手を当てて首を斜めに傾げて聞いてみた。


「その美しい瞳……それに長い金色の髪……いや……そのギザギザの白い歯が……可愛過ぎる……」


 王様は少年の様に頬をぽうっと紅潮させると恥ずかしそうに伏目がちに言った。


「………………そう」


 私は一瞬戸惑った。人と外れた外見をした魔族からギザ歯が可愛いと言われて喜ぶべきなのか。愛する許嫁から婚約破棄されたばかりの傷心の私には喜ぶべきなのか何なのか戸惑った。だがこのイケメンの王様は耳が長くて尖っていたり顔色が青白ったりはするが、恐ろしい外見をしている訳では無かった。


「いや、安心してくれ、だからとして最初に言った通り君をどうこうするつもりは無い。帰らせてあげよう」

「いえ……私には帰る家も国もありません。此処で働かせて下さい」


 私の提案に王様は最初びっくりした様子だったがすぐに快諾してくれた。




 一年が経った。


「アマリリスちゃん今日も可愛いねっ!」

「ありがとう!」

「アマリリスちゃん、マンドラゴラの葉が安いよ!!」

「まあ、どんなのかしら?」


 私はいつもの様に魔族の街の市場で買い物をする。王様の夕食の為だ。あれから私達二人は同じ城で二人で暮らしている。


「アマリリスちゃん、いつになったら王様と結婚するんだい?」


 かっぷくの良い魔族の色の赤いおばさんが唐突に聞いてくる。


「な、何を言いだすの!? 私はお城の世話係なだけで……王様とはそんな関係じゃ」


 私は顔を真っ赤にしてその場を小走りに立ち去った。自分でもそんな事を考える事はあった。しかし初対面以来王様はそうした恋愛的な発言は一切しない。それに私自身も許嫁であったエドワルドとの一件もあり、余計な事を聞くのが怖かった。いま楽しく暮らしているのに、余計な事を聞いてまたあの時の様な悲しい思いはしたくは無い。


「王様、今夜はマンドラゴラのシチューですわっ、王様の好物ですわねっ!」

「おお、それは有難い。では今夜も一緒のテーブルで食べなさい」

「は、はい……」


 私は家事手伝いという身分だが、こうして何時も王様と夫婦の様に二人で夕食を食べている。だがそれ以上の関係は一切無く、事実婚だとかそういう事は一切無かった。


「うむ、アマリリスの料理は本当に美味しいな」

「ありがとうございます。ふふ、でもこの広大なお城でお手伝いは私一人、もう補充は入れないのでしょうか?」


 私はふと疑問を投げ掛けた。


「……掃除が大変なのか? 新しい下僕が欲しいのか??」

「い、いえいえ下僕なんて欲しくないわ。それに家事は適当に手は抜いてますから! ただ王様程の権力があれば他に魔族の女の人なんて選り取り見取りでしょう?」

「何故その様な事を言う?」


 ちょっと王様はむすっとした顔をした。何故だろう、何故その様な周りくどい事を言うかと言えば、本心を知りたいけど知るのが怖いからだった。


「……隠している気持ちがあります。お会いした時からずっと。でも本心を打ち明けるのが、言うのが怖い」


 もはや一年も経って煮詰まって来た気がするので本心に近い事をほのめかした。


「……では私の方から言おう。アマリリスよ、私はそなたを最初から家事手伝いの家政婦として見た事は一度としてなかった。一目見た時から心を奪われ好きになっていたが、権力を笠に着て押し付けがましい事を言ってはいけないと思い、黙っていた」


 王様は、覚悟を決める様にこの時点で一回喉をごくりと鳴らした。


「だが、もはや私の口からはっきりと言おう、アマリリスよ私の妻になって欲しい。今後は妻としてこの城で一緒に暮らして欲しいのだ」


 私はその台詞のなかば辺りで両手指先を揃えて口を押さえていた。顔中がひくひくとして涙がぽろぽろと流れていた。


「はい……私でよろしければ」


 王様は私の返事を聞くとおもむろに立ち上がると私のアゴを持ってキスを迫った。


「あっ……だ、大丈夫ですか?」

「何を言っている? 私は魔族の街の王だぞ」


 そう言うとそのまま深いキスを交わした。もちろん生まれて初めての経験だった。


「……い、行こう」

「………………は、はは、はいっ」


 二人共初々しくやけに紅潮して緊張しながら、最初に出会った時の様にお姫様抱っこで寝室に向かった。



 しばらくして二人は結婚式を挙げた。魔族の国中から祝福される盛大な物だった。そして王様は溺愛という言葉しか当てはまらないくらいに私を愛してくれている。


「また一人で市場に行って大丈夫かい? 護衛を付けなくて平気かい??」

「何を言っているの! いつも一人で行っているでしょう、それに貴方の街よっ!」

「では行ってらっしゃいのキスだ」

「普通逆でしょう!!」


 市場に向かう私はねだる王様にキスをすると出て行った。


「おや今日もお買い物かい? 侍女もつけずに変わらないねえ」

「うふふ、これが気晴らしよ!」

「所でアマリリスちゃんと呼ぶのはもう失礼な気がするし、なんとお呼びしようかと皆で相談してたんだよ。お后様? 女王様? お姫さま? どれがいいんだろうねえ」


 魔族の赤色の市場のおばさんが頬に片手を当て真剣に悩んでいる。


「で、では、お姫さまでっ」

「まあまあではアマリリスお姫さま、今日はジャックランタンの頭カボチャがお安いよ」

「まあっ美味しそうね」


 私はゲテモノにも耐性が付いていた……


「そうだ聞いたかい? 何でも西の方のロゼッタていう人間の国が革命やら隣国に戦争を仕掛けられてるやらでガタガタで大変な事になってるらしいねえ。ま、私達には関係無い事かねえ、あはは」

「え……」


 私は国の名前を聞いて呆然とした。それは私が生まれた自分の国だった。


「どうしたんだい?」

「い、いえ何でもないのよ、うふふ」


 私は心ここにあらずで買い物を済ますと急いで城に戻った。



「どうした? 一体どうしたんだい? 先程から君は変だぞ」


 いつもの様に夕食を共にする王様が一瞬で私の異変に気付いた。これ見よがしに悲しがったり心配顔をしたつもりは一切無かったのだが……


「いいえ、何もないわ、いつも通りよ」

「……一体いつもどれ程私が君の笑顔を見つめていると思っている? そんな嘘は通用しないよ」


 頭の中が心配事だらけだが、とても嬉しい言葉だった。私は正直に経緯を語った。


「そうか……君のその美しいギザギザの歯を疎ましく思った両親に許嫁か……君はどうしたいのかな?」


 私は大いに迷った。放置して無視しても良い……けれど少なくとも大きくなるまで育った故郷でもある。国が混乱すればそこに住む人々も迷惑を被っているだろう。


「少しだけだけど、助けたいという気持ちがある」

「そうなんだね」


 何故か王様はにっこり笑った。てっきり滅べとか言う方が受けが良いだろうと想像していたが。


「魔族ではあるが、素晴らしい私の伴侶である君を生み出した神とその地に感謝しなくてはとも思っていた。よし、一つ救ってやろう」


 彼は軽々と言った。私はこの人? を住人から尊敬される立派な王様とは認識しているが、その強さはよく分からなかった。どちらかと言えば背が高い線の細いイケメンではあるが決して強そうには見えない……


「よし、そうと決まれば話は早い。今から早速ひとっ飛びして解決しようか?」

「へっ?」


 そう言うと彼はまた再び私を抱えると黒い羽をバッと出して夜の空に飛び立った。



「大変、街があちこちが燃えている!!」


 彼は私を抱えたまま物凄いスピードで飛ぶと、簡単に故郷の上空まで来た。故郷のロゼッタ王国は今まさに革命軍による工作と、それらが招き入れた外国の軍隊の侵略を受けていた。王都の街のあちこちが国の名前通り、薔薇の様な真っ赤な炎を上げていた。


「そうだな、取り敢えず邪魔な外国の軍隊を吹き飛ばそうか」

「えっ? そんな事が!?」


 そう言うと彼は片手で私を抱き抱えたまま、虚空から光る剣をゆっくりと引き抜く。


「しっかりつかまっていなさい」

「はいっ!」


 彼はそう言うと、引き抜いた剣を大きく振り上げ、扇でも振る様に軽やかに振り下ろした。

 びゅおおおおおおおおおおおおおお!!

すると途端に剣から無数の小さな竜巻が発生し、まるで狙った様に無数にいる外国軍の兵士達に取り付き叫び声を上げながら飛ばされて行く。当然飛ばされた兵士達はいつか地面に激突して命を失うだろう。


「凄い……」

「さすがに人間、弱い物だな、はははははははは」


 吹き飛ばされる兵士達を見て高笑いをする夫を見て、改めて彼が魔族である事を思い知らされる。しかし彼は普段はとても優しい事も知っていた。私はぎゅっと彼にしがみ付いた。


「な、何だ何が起こった!?」

「外国軍が飛ばされて行ったぞ!!」

「よし、残った革命軍を押し返せっ!!」


 突如謎の現象で敵兵が大幅に減少した事で、ロゼッタ王国の兵士が勢い付きうろたえる革命軍を次々と討ち取って行く。


「君の御両親は?」

「あそこ辺りです」


 そう言うと自宅に案内する。別に懐かしくは無かったが、あれでも親は親だ。それに妹や姉も心配だ。


「あああああ、お助けっ金ならいくらでも渡す。命だけはっ」


 立派な貴族の父が迫る革命軍の兵士に命乞いをしていた。


「ふんっ我らの恨みをしれっ!!」

「どけっ」

「? ぎゃあああ」


 両者のやり取りなど完全に無視して革命軍を一瞬で消滅させた王様が、父と父が守る私の家族の前に降り立つ。


「な、何だ!? アマリリス、どうした今まで何処に行っていた? この男は何だ? 魔族ではないのか??」

「なんて事を……貴族の娘なのに魔族と交わったのね……」


 父も母もこんな危機に際しても以前と全く変わっていなかった。


「ここにも革命軍がいたぞーーっ! 討てーーっ!!」

「おお、此処だ、早く来てくれ!!」


 父が駆け付けた王国軍を邸内に招き入れる。このままでは王様は敵と誤認されるだろう。


「では……私達はこれで」

「どうした? その魔族と又出て行くと言うのか??」

「はい。では」


 私は挨拶も早々に切り上げて再び飛び立とうとする。


「御父上、御母上、妹さんに姉上殿、今夜はご挨拶に上がりました、アマリリスを幸せに致します。ではっ」


 彼は胸に腕を回して跪き、こんな両親に深々と挨拶をすると、私を抱き抱えて飛び立った。


「ふむ……なんとか王国軍が盛り返した様だね。そろそろお城に帰るかい?」

「……一か所だけ行きたい場所が」


 私は意を決して王様にお願いした。



「ひっ何をしている、まだ革命軍の残党がいるぞっ! 皆の者、ちゃんと戦えっ!!」


 剣を持ったエドワルド・エルヴァスティが、負けを覚悟してヤケになって彼を最後の標的にと命を懸けて邸宅に襲い掛かって来ていた革命軍残党と戦っていた。見たところ局地的にはエドワルドの屋敷だけは陥落寸前と見えた。


「……あれを助けてあげて」

「いいのかい? あれは君を傷付けた相手ではないのかい?」

「いいの」


 彼は庭園の中心に陣取るエドワルドの目の前に私を降りたたせると、そのままフワリと飛んで革命軍に襲い掛かった。


「なっ!? アマリリス!? あれは何だ??」


 突然現れた私と飛び立つ彼に驚愕するエドワルド。


「見ててなさい」


 そう言った直後から恐ろしい勢いで邸宅に襲い来る革命軍を次々に討ち取って行く魔族の王様。邸宅の護衛の兵士達があっけにとられる間に革命軍は全滅した。


「ふう、こんな物かな、では帰ろう……その前にこの者を……いや、それは君の望みでは無いね」


 一瞬エドワルドがびくっとするが、すぐに私に言い寄って来た。


「凄い!! なんという力だ……そ、そうだアマリリス、婚約破棄を破棄しよう、あの魔男付きで私の妻となるが良いぞ、どうだ?? 侯爵家の一員になれるのだぞ? あの力があれば王も夢じゃないあははははは」


 あれ程輝いて見えた許嫁は今はやけにちっぽけに見えた。


「ごめんなさい、もう貴方にも侯爵にも何も興味は無いの。私はあの魔族の妻なのよ」

「そ、そんな……正気になれ……アマリリス」


 私は目を閉じ首を振った。


「……でも、でもね、貴方が長い間嘘でもギザギザの歯が好きだって言ってくれてた事、今でも少し感謝してるの。それが心の支えだったから。じゃあね、ばいばい」


 私は何故か少し薄っすらと涙を滲ませながら今度こそ彼に真の別れを告げた。


「あ、アマリリスっそうじゃないっ! 僕も僕も気付いたんだっ! 君が素晴らしい女性だって、待って、待ってくれええええ!!!」


 走り出すエドワルドを無視して、私は王様に抱かれると、そのままふわっと飛び立った。すぐにエドワルドもお屋敷もどんどん小さくなって見えなくなった。


「あれで良いのかな? 魔族の妻となって良きる……それで良いのだね?」

「うん、もういいの、私は貴方と一緒にいられればそれで幸せ」


 私は振り落とされない様にさらに強く彼に抱き着き、あちこちから煙の立ち昇る夜の故郷を後にした。

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