第6話 再会

毎日、早朝と帰宅後に陰陽師の手ほどきを親父から受けてることは、学校ではこいつだけが知っている。


「カッケーじゃん。」



ああ、ゲームや漫画ではさいこっーにカッケーよな。オレだって、陰陽師を扱ったもの見ると、ワクワクするんだ。そして、必ずと言っていいほど、今の自分との差に、情けなくもなる。



今朝、会ったあの女性、、、気配で危機を察知して、素早い身のこなしで避けてた。華奢な感じだったのに、軽々とオレのこと一瞬で放り投げてた。ーーーあの人、ちょっとカッケーな。



オレはポケットから、映画の前売り券を一枚取り出すと、しんやの手に握らせた。


「コレ、お前にやる。誰か見つけて行ってくれ。オレやっぱ今日は家に帰るわ。」



「へっ?なんだよっ、どうした? あんなに楽しみにしてたじゃん!」



「ごめん、また今度誘って!」


陰陽師がどうとか、まだオレには分かんねーけど、今より強くなってみてぇ。オレは、逸る心を持て余すように、家に向かって走り出していた。



「あ、おいっ!」


久しぶりに内側から湧いてくるようなやる気に、走りながら笑いが漏れていた。振り返る時間も惜しいとばかりに、片腕を空に伸ばし、手を振る。

「ごめん!! また今度なー!」



こんなに走ったのはいつぶりだろう。店が立ち並ぶエリアを抜け、脇道に入ると、走るたびに、濃い草むらの匂いが立ち込め、セミの鳴き声の中を通り抜ける。


途中、路端の誰かの記念碑の傍を通り過ぎる時、いつも見る”霊のような存在”に、《いつもここで何してんだ? 暇じゃねーのか?》と初めて話しかけてみた。こう言う明るい感じの奴は、勝手に守り神みてぇなもんだと思ってる。ただ、こちらが意識を向けると、寄ってきたり、何かとめんどくせーから普段は無視してる。オレが話しかけてそのまま傍を走り抜けても、そいつはとくに寄ってくることもなかった。ただ、笑ってくれたような気がした。




「ただいまー。ーーー親父、いるか?」

玄関から自宅に入るが、誰も居ねえみたいだ。親父の仕事は、平日とか週末とか関係ねぇから、いつ家に居るのかオレもよく分かンねぇ。



居間に入るとテーブルの上に、親父の置き手紙があった。

『今日から二週間、今朝話していた須波の子どもがわが家に滞在する。武術の先生だ。離れにいるから、帰ったら挨拶してきなさい。』

蒼い筆ペンを走らせ、几帳面な字で書いてあった。


コレ、親父が持ってたのかよ! ずっと探してたのに!!


オレは置き手紙のそばに転がっていた蒼の筆ペンをポケットに入れた。式札に術をかける時に、昔からこれを使わないとなぜか調子が悪い。



親父の親友の息子さんか。やっぱ、つえぇのかな。須波さんとは何度も会ったことあんけど、その息子さんとは一度も会ったことねーよ。親父は今日から稽古つけてもらえとか言ってたけど、あっちだって多分疲れてんだから、挨拶だけにしようか、さすがに。まあ、話ぐれぇは聞けるだろうけど。



サンダルを履いて、庭に出る。砂利の敷き詰められた道を進み、客用に新しくリフォームした離れの入り口に向かった。


「すんませーん。たくみです。今、大丈夫っすかー?」


中でガサゴソと音がするから、起きてたみたいだ。人の気配が近づいてきたかと思うと、ガララ、と引き戸が開いた。


「あっ、おかえりっ!! ーーーたくみは今日は来ないかもって、鹿乃江さんは言ってたやんに、ちゃーんと来たさー!!」






「はぁああああああああ???」

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