第4話 魔法が使える?

「まずは力の計測をさせてくださいませ。強く念じてください。あちらに訓練用のカカシがございます。それに向かって、あなたの思いを込めて、力を放ってみてください」


 ――そんなに色々と情報を持ってこないでよ。二日酔いの頭には何も入ってこない……。

 こんな夢を見るなんて、昨日は魔法少女の話をしすぎたのね。

 夢だってわかれば、この人の言うことに従って魔法とやらを使ってみましょ。



「念を込めてください」

「わかりました」


 形から入ろうと、両手の手のひらを体の前に突き出した。


「強く念じて」


 ――魔法ね、魔法。オーソドックスに火の魔法なんて出せれば良いな


「強くイメージして下さい」


 ――夢なんだし、中二の頃に考えていた魔法の詠唱でも叫んでみようかな。集中して。ふう。



「――熱く燃える我が魂よ。その熱を掌に集約し、放たれよ! ファイヤーボーールッ!!」



 私の叫び声が、広間に響いた。

 虚しく、遠くの方までこだまして響いていった。

 その後は、静寂に包まれた。


 何もおこらなかった。



「……広い場所だけあって、意外と長く響いたものね」

 言い訳のように小さい声でつぶやいていてみたが、恥ずかしさだけが込み上げてくる。



「……魔法は叫ばなくても、思いを込めれば出てきますよ。召喚されてすぐに魔法が使える者などほとんどいないので、ゆっくりと落ち着いて行ってください」

「そ、そうなのですね、それならよかったです」


 恥ずかしくて夢の中で死ぬところでした。


「貴方様の叫び。なにやら熱い気持ちをお持ちであることは伝わりました。なので、きっと魔法が使えるようになるはずだと思います」


 冷静に分析されてしまった。

 あらためて詠唱についてのコメントまで言われると恥ずかしさが倍増です。

 これって本当に夢よね。夢じゃなかったら、私は恥ずかしさで死んでます。



「元の世界で、何か気持ちを抑え込まれていたのかもしれないですね」


 金髪碧眼のイケメンがそういうと、同じ格好をした白髪の老人が前に出てきて、虫眼鏡のようなもので私を見定め始めた。

「この勇者様には、魔力回路が全く見えないようです。勇者様、何か気持ちに蓋をされているようであれば、そちらを取って頂ければ魔法は使えますじゃ」


 この老人も、よく見ると日本の人ではないような出で立ちをしている。

 魔法少女アニメが見たすぎて、こんな夢を見てしまっているのですね。

 けど、言われていることは当たっているかもしれない。私はずっと心に蓋をして。

 魔法少女の夢は長い間隠していた訳だし。


「何か底に秘めた強い力を感じますが、使いこなせないようですじゃ」



「それって、召喚失敗しゃないでしょうか?」

 涅色くりいろのフードの女性が、話に加わってきた。


 この感じ。

 小学生の時のバカにしたような感じではないけれど、諦めたような言い方。

 どちらにしても傷つく……。


 やっぱり人前で魔法の事なんて考えるもんじゃないわね。

 まだ酔いが残っているのかしら。勢いのまま詠唱なんてやってしまいましたが、私の黒歴史に新たな一ページが刻まれることになろうとは。


 だけどこれは、恥ずかしかっただけよね。

「魔法少女になれない」なんて否定されたわけじゃない。


「勇者様、もっと強く思えば魔法も使えます!」


 優しいイケメンに、「魔法が使える」って肯定される。この夢の世界は、最高です。


「抑え込まれた思いを解き放ってください。この世界では思いが力となる秘められた力があるはずです」


 私の力。

 思いが力になるはず。


 再度、両手の掌を体の前に出した。


「もっと念じてください」

「はい。私は魔法が使いたい。魔法が使いたい」


 手のひらにイメージして、熱く燃える炎。

 段々と掌が熱くなるのを感じた。


「いけーーーーっ!!」


 やはり、私の叫び声だけが響いて、何も起こらなかった。



「何か強いものを感じたのですが……」


 私は夢の中でも、夢を叶えられないのか……。

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