上司の陰謀で担当する事になった廃棄寸前のAI娘が実は人権性能だった ~嫉妬した上司にクビにされたけど、神AI調教師(テイマー)として可愛いAI娘と幸せになります~

なっくる@【愛娘配信】書籍化

第1話 AI少女を調教しています

 俺、綱木 友樹つなぎ ともきはこれから目の前の少女を【調教】しようとしていた。


「ふ……ふあぁ?」


 紅い瞳には大粒の涙が溜まり、ふわりとした栗毛と同色の犬耳もぺしゃりと垂れてしまっている。


「…………」


 俺は手元に置いたプラスチック製の容器から、乳白色の物体をスプ―ンにすくい少女の口に近づけた。


「口をあけて」


「そ、そんな……」


 ぷるぷると震える少女。

 罪悪感が沸き起こるが、ここで止めるわけにはいかない。


 少しだけ開かれた桜色の唇。

 俺はそこに躊躇なくスプーンを突っ込んだ。


「!?」


 少女は目を見開き、抵抗しようとするが……。


「んんっ……!」


 俺は息を飲み、少女の反応を見る。

 形の良い喉がゆっくりと動き……。



「んぐっ」



 こくん




「……ぷりん、おいしいっ♪」


 口いっぱいに広がる甘味に降伏した少女は、ふにゃりと笑う。


「…………よし!」


 ”刺激”は充分だと判断した俺は、調教の仕上げを行う事にした。


「7×5は!?」


「33!!」


「駄目だああああああああああああっ!?」


 がっしゃーん!


 自信満々に返された答えに、俺は豪快にずっこけるのだった。



 ***  ***


「……だいじょぶ?」


 心配そうな少女の問いかけに、床から体を起こす俺。

 彼方へすっ飛んでいったビジネスチェアを回収し、なんとか座りなおす。


「九九も出来ないなんて……」


「くく??」


 不思議そうに首をかしげる少女……アイナ(AI-NA)は人間じゃない。


 いまから10年ほど前に始まった【AI革命】。

 当初はスクリプト言語で指示された命令に従って、それっぽい回答を返すだけだったAIは瞬く間に進化し、世の中を変えていった。

 最大のブレークスルーは、ヒューマノイド型インターフェイスの誕生だろう。


 Humanics-NeoAi-Judicious Calculater、HNAJC(えいちなじぇいしー)と呼ばれるそれは、膨大な手間が掛かっていたAI本体のコーディングや学習の労力を一気に低減した。


 ”えいち”とは叡智の事であり、えっちという意味ではない。

 ……この略称を付けた人間は頭が湧いていたに違いない。


 それはともかく。

 この子、アイナはその第一世代ファースト


 AI調教師テイマーである俺の担当だ。


「トモキ~~えへへ~~♡」


 子犬のように甘えてくるアイナの頭を撫でながら、こっそりため息をつく。


 時代の最先端であるAI工学系の大学を卒業して2年と少し、総合AI企業であるカナデテクノスに就職した俺は、弱冠24歳にして”窓際社員”の称号を頂戴していた。


 それには深い理由があるのだが、いまは置いておこう。


「アイナ、ステータスを確認するぞ?」


 成果は出なかったとはいえ、一応調教を実施したのだ。

 HJCは外部からの刺激を与えることで成長する。

 調教後の状態確認は必須である。


「トモキ~ぷりん~」


「はいはい」


 おかわりを要求するアイナにプリンを食べさせてやりながら俺はノートPCを操作する。


 ヴンッ


 アイナのステータスが、ホログラムで表示された。


 ======

 ■機器情報

 アイナ(AI-NA)

 カテゴリー:第一世代(ファースト)

 型番:HNAJC-T0001

 製造場所:TGF01

 AIレベル:1


 ■学習スコア

 味覚:    33(+2)

 嗅覚:    11

 触覚:    22

 知覚:    3

(ロックされています)

(ロックされています)


 ■ステータス

 センス    5

 知力     3

 体力(AIP)  44

(ロックされています)

(ロックされています)

(ロックされています)

 ======


「う~ん」


 第二世代セカンドのHJCは、外部から与えられた刺激を自動で各パラメーターに割り振ってくれるのだが、アイナは刺激を種類ごとに与えてやる必要がある。

 第一世代を担当したことのない俺にとって、どんな刺激を加えればいいのか正直お手上げである。


「ロックされてて見れない部分も多いし……」


 アイナはHJCのプロトタイプ。

 様々な機能を搭載したお陰でまともに扱うことが出来ず、最近まで凍結スリープ状態に置かれていたのだ。


「だけど」


「おいしい、おいしい♪」


 にこにことプリンを頬張るアイナ。


 その笑顔に、1か月前の事を思い出す。



 今回ダメだったら廃棄処分だ。

 上司の気まぐれでで5年ぶりに起動された彼女。


 ヴンッ


「…………」


 アイナの目がゆっくりと開いた瞬間、全ての事象を見透かすようなその瞳の輝きに一瞬で魅了されてしまった。

 彼女を最高のAI娘に、HJCとして育てたい!!



「なくなった~(>_<)」


 ……カラになったプリンの容器を見て目をバッテンにしているアイナからは、その面影はまったく感じられない。

 あの時感じたときめきが、少々くじけそうである。


「……外に行くか」


「おでかけ!!」


 とたんにパッと表情を輝かせるアイナ。

 HJCには外部刺激も重要である。


 俺はアイナの手を引くと、会社の外に出るのだった。



 ***  ***


「おっでかっけ~♪ おでかけ~♪」


 栗色の犬耳と尻尾が楽しそうに揺れている。

 赤いリボンに白のラインが入った紺色のスカートという由緒正しいセーラー服を身に着け、足元はピンクのスニーカー。

 すらりと伸びる生足に、思わず目を惹かれてしまう。


 HJCと呼ばれているとはいえ、本当に女子中学生のような格好をしなくてもいいと思うのだが、アイナはこの服装がお気に入りだ。


「くんくん……いい香り♪」


 季節は4月、公園の桜は見事に咲き誇っている。

 視覚だけではなく、嗅覚も刺激できるこの季節……HJCの散歩には最適だろう。


「おはなみ?」


 真昼間から桜の木の下で盛り上がるサラリーマンたち。

 アイナは彼らに興味津々のようで……興味の矛先はレジャーシートに広げられた料理かもしれない。


「おなかすいた……」


 どうもアイナは味覚刺激ばかり求める傾向がある。

 せっかく桜が満開なんだ。

 視覚と嗅覚の刺激を与えるべきだろう。


 そう考えた俺はアイナの手を引いて移動しようとしたのだが。


「よう、ツナギ。

 仕事はちゃんと進んでいるのか?」


 背後から掛けられた蔑むような声。

 慌てて振り返るとそこに立っていたのは。


 ダークスーツをびしりと着込み、頭髪をオールバックに撫でつけた若い男性。

 傍らにはこれまたダークスーツで全身を包んだ女性。


「ま、こんな所で遊んでいるようだと予想は付くがな」


 敬愛すべき直属の上司、伽名出 蓮夜かなで れんやさんだった。

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