第10話 ステータス:EX
俺は西園寺の方へと身体を向ける。
服は多少ボロボロになってはいるものの、見た感じ彼に傷一つない。
「……将来有望だな」
「そうですか。僕は貴方に失望しました。SSS級覚醒者があんな卑怯な手を使うなんて……」
彼が大人に、それも教師に向けるものじゃない侮蔑の視線を向けてきた。
ここまで露骨にされると、いっそ清々しさも覚えてしまう。
しかしこのお坊ちゃんは、どうやら相当甘やかされて生きて来た様だ。
一体どうやって70万もレベルを上げたのだろうか。
そんな疑問が浮かぶと共に今日は西園寺の為に俺は模擬戦をしているんだろうなと感じた。
彼は些か危険で、不安定過ぎる。
あそこまでの力を持っているせいで傲慢でプライドが高く、隙が多い。
別にプライドが高いまではいいが、隙が多いのはダメだ。
そんな体たらくでは雑魚が奇襲をしてくればあっさり殺されるだろう。
幾らステータスが高かろうと油断している時は格下相手にも負けてしまうことがある。
よくフィクションでも、こいつの攻撃効かんやろ、と思う場面が何度かあると思うが、人間は不意を突かれれば、意外とあっさり死んでしまう。
恐らく俺のステータスでも、油断していればS級程度の巨神獣に殺されるだろうな。
そんな悲惨な目に遭う前に直させろ、と言うのが今回の目的だと推測する。
なので、ここは敢えて言わせて貰おう。
「卑怯か……なら、西園寺———お前は巨神獣にスタートの合図をするまで待ってもらうのか?」
「?? 何を言っているんですか? そんなの無理に決まってるじゃないですか?」
「———なのに俺には待て、と言うのか? 戦場では『待て』など通用しないぞ?」
「!?」
俺がそう言い放つと、西園寺が大きく目を見開いて後ずさる。
恐らくつい先程自分が言った矛盾に気付いたのだろう。
「気付いたか? 先程お前が言った『卑怯』の言葉が如何におかしかったか」
「ぐっ……でもそれは巨神獣の相手だけでしょう? 今は人間相手でそれも模擬戦です」
「この学院は覚醒者になるための場所じゃないのか? なら巨神獣と戦うことを想定して戦うのは当たり前だろう?」
「ぐっ……それは……」
俺が完全なる正論を言われてぐうのでも出ない様で、悔しげに俺を睨んでいる。
しかし直ぐに頭を張って冷静さを取り戻した。
「……そんなの今はいいでしょう。兎に角始めましょう」
「まぁ後でしっかりとそこも教えてやろう。先輩としてな?」
俺が軽く鼻で笑うと、ピキッとこめかみに青筋を立てて教師で先輩の俺を睨む西園寺。
彼には他人を敬うと言う心が欠如している様な気がする。
その証拠に俺への殺気を隠そうともせず、濃密な殺意の籠った目で俺を射抜く。
まぁ軽く受け流してやるが。
「……全力で行きます。怪我させられたからと言って怒らないでくださいね」
「安心しろ。お前に怪我を負わされるほど軟弱に鍛えてないんだ」
「ッ!? 減らず口を……!」
まるで爆発したかの様な音と共に地面を蹴った西園寺が、俺との距離を一気に縮める。
その速度は光速に届きはしないが、先程の水無月より何十倍も速い。
しかし、俺は距離を縮められると同時に西園寺の顔面に拳を突き出していた。
「動きが単調だぞ」
「ぐっ……! はぁあああああ!!」
人間離れした反射神経で俺の拳を避けた西園寺が、手足の様に噴き上がる青白い魔力を操り、俺の体に纏わりつかせる。
不思議に思い腕を動かそうとすると、少し動く時に引っ掛かる様な感覚があったが、特に問題はない。
「これは拘束系の異能か? 意外と拘束力が高いな」
「なっ……!? 何故動けるのですか!? ———なら」
西園寺が瞬時に俺の懐に入ると、一瞬の間に何発もの殴打を繰り出してくるが、俺はその全てを軽々と受け流す。
「どうした、その程度か?」
「五月蝿いですよ……! まだまだこんなもんじゃない……」
西園寺が更に速度上げて怒涛の連撃を放つ。
無意識か、それとも意識してかは不明だが、時折俺が避けようとする瞬間に魔力によって動きが僅かに阻害される。
「はぁあああああああ!!」
西園寺の雄叫びと共に更に限界を超えて速度が上がる。
現時点で既に《神速》を使用したアリア並みの速度が出ているが、未だ徐々に速度を上げていた。
凄いな……《覚醒》と言う異能はもしかしたら世界最強かもしれん。
俺は西園寺の徐々に速く、鋭く、重くなる一撃を受け流しながら感心する。
正直俺が数億年掛けて会得した2つの異能よりも間違いなく強い。
恐らく彼の異能には限界がないのだろう。
《限界突破》は自身の限界以上の力を出せるが、それは諸刃の剣だし、そもそもスペックによって強さが左右される。
しかしこの《覚醒》と言う異能は常に少し前の自身の限界を超えて強くなっていく。
正しく覚醒と言えるだろう。
「どうですか……!? そろそろキツイのでは?」
「……確かにキツイな」
俺は素直に肯定する。
西園寺は既にSS級並みの力を要しているのは間違いない。
スペックだけ言えば、あの橘さんや琴葉を上回っている。
現に
そう———
俺は西園寺の拳が当たる瞬間にいなしながら投げ飛ばすと、一瞬だけ意識を自身の身体に向ける。
「……済まないな、西園寺」
「?? 何故急に謝るのですか? もしかして俺に勝てないと思って許しを乞うているのですか?」
再び俺を見下し、侮蔑の混じった声色で言う西園寺に謝る。
「———少し本気を出す。本当に済まない……どうか———持ち堪えてくれ」
俺は身体の
「………………は?」
足払いを掛けられた西園寺が数秒の時間沈黙した後、今まで聞いたこともない間抜けな声を上げながら地面に尻餅をついた。
尻餅をついた後も西園寺は自分に何が起きたか分からないのか呆然としている。
「———西園寺、まだ戦いは終わっていないぞ。いつまでそんな無防備のままでいるつもりだ?」
「くっ……くそッ……!」
西園寺が勢いよく立ち上がり、そのままの流れで俺に蹴りを食らわせようとするが———。
———パシ。
俺は西園寺が動く前にその動きを止める。
「なっ……そんな……初動を完封……!? う、嘘だ! ま、まぐれに決まっている! はぁあああああ!!」
西園寺が裂帛の声を上げて動こうとするが、まるで止まっているかの様にゆっくりに見えた。
俺はその全てを完封し、更には無防備なおでこデコピンを食らわせる。
「———うわぁああああああ!?」
デコピンを食らった西園寺は頭を大きく後ろに仰け反らせると、空中で何度も回転しながら吹き飛ぶ。
しかし俺は吹き飛ぶ西園寺の身体を片手で受け止めると———
「受け身を取れ、西園寺」
「グハッ——————ッ———!?」
そのまま地面に沈める。
それだけで地面が陥没し、俺と西園寺は地中奥深くに落ちてしまう。
俺はそっと西園寺の身体から手を離すと、ギリギリ意識を保っている西園寺の耳元に囁く。
「———大人を甘く見るなよ、少年」
「く、そ……が……ッ!」
西園寺が何かを言おうとした瞬間に某アニメの覇○色の覇気の様に威圧して気絶させる。
「さて……これからどう言い訳をしようか」
俺は遥か遠くに見える中村先生達を地中奥深くから眺めながら、ぼんやりとそう呟いた。
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『善行を積めば勝ち組転生できると信じてやまない男子が、いつの間にか美少女達に好かれていた件』
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