第12話 ファンクラブ創立者・白城ミア

 帰還してから早1週間が経とうとしていた頃、俺は何度かのB〜A級前後の依頼を2、3回受け、要塞メンバーと、修行をつけていたら何故か懐かれた元『赫い戦斧』のメンバー達と飲みに行ったりと、比較的順風満帆な生活を送っていた。

 しかし、ただ1つ、俺には悩み事があった。


「何だこれは……」

「ん? あ〜うん、神羅くんのファンクラブ☆」

「いや、それは知ってる。ただ何でこんなに広まっているんだ?」

「何でって……必然的に?」

「会話が成立してないぞ」

「にゃははは! ごめんごめん。いや、皆が拡散しまくったんだよ。只でさえ最初の動画で有名になってたもんね」


 確かに最初の動画は既に10億回再生されているし、何故か分からないがツ◯ッターで3回ほど世界トレンド1位になってるし有名になるのも必然と言われれば必然か。

 琴葉の目に止まればいいな……くらいの気持ちで許可出してたが、まさか此処まで有名になるとは少し予想外だ。

 そのせいで大手以外のクランやパーティーからの勧誘も絶えない。

 大手は未だ様子見、と言った所なのか未だお声がけはないが。


 俺はこれも必然なのか……と羞恥に襲われながら、スマホで『神羅様♡を狂信する会』と書かれたWebページに飛ぶと、このファンクラブの活動内容や新規会員としての特典に、俺の誇張が入った仰々しい紹介にその他諸々が書いてある。

 そして会員費は月5000円で、その会員費で俺の写真や動画、グッズ等を買うらしいが、まだ俺の公認がないので徴収していないらしい。

 因みに初回入会特典で、酒に酔った俺の動画が貰えるらしいのだが……たった1週間の内に酒を飲みに行ったのはつい先日の要塞メンバーだけで、更に動画を撮ったとなると、犯人は1人しかいない。


「……心さん、貴女が俺の動画を渡したのか?」

「うん☆ だって私この会員だし、そもそも神羅くんにも許可取ってあるよ?」

「いや、確かに許可したが……会員?」

「『神羅様♡を狂信する会』のね。私が1番で咲良が2番だよ☆ だから公認して?」


 「だよ☆」じゃない。

 身近に会員がいるとか普通に嫌なんだが……まぁそれは個人の自由なので別にやめろとかは言わないけど。  


 それにしても公認か。

 

「別にいいぞ」

「ほんと!? やっ———」

「ただし、ファンクラブの創立者に合わせるのが条件だ」

「全然いいよ! どうせ彼女とは知り合いだしね」

「ならいつ行けるか聞いてくれ」

「今から行けるって」

「速いな」

「神羅くんに会えるって狂喜乱舞だったよ」


 まぁ俺のファンクラブを設立するくらいだからそうなるか。

 ただ会う時は俺が心の準備をしていた方が良さそうだ。


「それじゃあ道案内を頼む。失礼するぞ」

「え? きゃああああああああ!?」


 俺は心さんをお姫様抱っこして空へと飛び立った。








「この事は絶対に内緒ね! マジで殺されるから!」

「あ、ああ、分かった」


 俺達がその創立者の家の近くに降りると、心さんがいつに無く焦った顔で言ってきた。

 何故そこまでして隠す必要が……あ。


 今から会う人のことを思い出して俺は疑問を心の中に留める。

 もしかしたら心さんは、相手が俺のファンクラブの創立者なんだからこんな事がバレたら殺されると心さんは考えたのかもしれない。


「ありがと〜〜マジでアイツ変な奴だから殺されてもおかしくないんだよねぇ」


 安堵のため息を吐いて胸を撫で下ろす心さんを見ていると、今からでも訪問するのをやめようかなと本気で思ってしまうのは決して俺だけではないだろう。

 

「あっ噂をすれば———おーい、みーみ!」


 心さんが何かに気付いたのか、手を振って大声を上げる。

 俺が聞いた話では名前はミアだった気がするのだが、あだ名だろうか。

 

 心さんが手を振る方へ視線を向けると、銀色の髪を気にしながら此方に走る、遠目からでも分かるほど気合の入った服装の美女が目に入った。

 見た感じ心さんとは正反対の、どちらかと言えば咲良さんの様なクール系の美女だ。

 名前からして外国人かなと想像していたが、思った以上にバッチリ外国人だった。


 ミアさんと思われる女性が常人とは思えない程の速度でぐんぐん近付いてくる。

 その姿を見ながら心さんが耳打ちしてきた。


「神羅くん、見た目に騙されちゃダメだからね。テンションが化け物だから。でも引かないであげて?」

「ああ。覚悟しておく」


 とは言ったものの、こちとら普通に人間以外の人型生物とは何度も会ったこともあるので、よっぽどな事がない限り驚かない自信がある———と思っていたが、どうやら俺の間違いだった様だ。


 銀髪の女性は俺達の元に到着するや否や、ぐわっと目を見開いて俺を見つめ、その後で目をキラキラ輝かせる。


「———キャアアアアアア!! 本物の神羅様だああああああああああ!! お、遅れて申し訳ありませんっ!! そ、それと、さ、サインを……いやその前に握手———ちょっと待ってください! 先に綺麗に私の手を消毒しますので!! 世界の神である神羅様の御手を汚すわけには……ん? なら握手はダメなのでは? じゃあやっぱりサイン? いやそれは神羅様の貴重な時間を奪うことに……はっ! なら私がこうして悩んでいる時間が神羅様のお時間を奪ってしまって———申し訳ありません神羅様、今直ぐ私は消えます」

「ちょ、ちょっと待ってミア! 折角神羅く———ひっ!?」


 思いっきり捲し立ててその場から立ち去ろうとするミアさんだったが、俺のことをくん呼びしようとした心さんを、わざわざ立ち止まってギロッと物凄い剣幕で睨む。

 

「ねぇ心、私は私の目の届く範囲で神羅様のことをくん呼びしない事を対価に会員番号1番をあげたんだけど? もしかして破る気?」

「…………てへっ☆」

「『てへっ☆』で許されると思うな馬鹿!! ぶっ殺してやる!!」

「あいたっ!? や、やめっ……痛いっ! 強いって! 神羅様助けて!!」

「……ミアさん、叩くのをやめてやってくれないか」

「勿論です。貴方様の御言葉は神託と同義なのでどんな事でも従います」


 頭にこつんっと握り拳を当て、少し舌を出す心さんの頭を、結構な威力で何度もはたくミアさんだったが、俺が言うと一瞬でやめる。

 そして俺の方を向くと、心さんの頭を無理やり下げさせて自身も下げた。


「ウチの心がお世話になっております神羅様。私はこの馬鹿の友人で『神羅様♡を狂信する会』創立者の白城しらきミアと申します! こんな見た目ですがロシア人の父親は私が1歳の時に死んだのと、日本生まれ日本育ちのため全くロシア語は話せません。見掛け倒しで申し訳ありません。さて、話は変わりますが———神羅様! この度はこんな埃の様な私にわざわざお会いに来てくださり誠にありがとうございます!! お会いできて光栄ですっ!! あ、あの! お、おしゃ、御写真だけ撮らせて頂いてもいいでしょうか?」

「ああ、別に構わない」

「ありがとうございますっっ!!」


 カシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ……。


 ミアさんは超速でスマホを取り出すと、俺単体を連写する。

 そしてスマホを瞬きを全くせずに数分間ガン見してはニンマリとした少々気持ち悪い笑みを浮かべていた。

 しかし突然何かを思い出したかの様にスマホから目を離すと、突然俺に頭を下げた。


「も、申し訳ありませんっ! つい神羅様の貴重で至高なる御写真に見惚れてしまうあまり神羅様をお待たせしてしまい……お詫びに此方をどうぞっ!」


 ミアさんがあまり大きくない肩掛けのバックの中から、よく漫画などである分厚い茶封筒……ではなく、可愛らしい手紙を入れる用の封筒を取り出して俺に渡して来た。

 何かと思い見てみると……。


「これは……何だ?」

「うーん……ミア、このカード何なの?」

「ブラックカード」

「!?」

「ブラックカード!? 何でそんな物を渡すの!?」


 何でもない風に言うミアさんに、俺達はただただ驚く。

 しかしそんな俺達を見てミアさんは理解出来ないと言う風に首を傾げた。


「何を驚いているのですか? 神羅様のためならこの程度当たり前です。支払ったお金はファンクラブの口座から引き払われるので、どうぞ遠慮なく使って下さい。今徴収すればざっと35億程度は集まると思われます」

「35億か……多いな」

「何をおっしゃいますか神羅様! 神羅様は神! 本来であればこの世の全てのものが神羅様の物なのです! 逆に全人類にはそれをわざわざお金でお買いになられる神羅様の御慈悲に感謝を捧げなければならないほどですっ!!」


 『ふんすっ!』と鼻息荒く言い終えたミアさんの姿に軽く恐怖を覚えた俺は、助けを求める様に心さんに目を向けるが……何故か納得した様子でうんうんと頷いていた。

 

 …………琴葉もこんな気持ちなのかな?


 俺よりも遥かにファンクラブ会員が多い琴葉の事を心配に思ったと同時に、有名人の心労は尋常じゃないな、と同情の気持ちが芽生えた。


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