第10話 制裁と評した修行
「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」
何時もなら様々な人の喧騒で騒がしいはずの協会が、しんと静まり返っていた。
その原因は勿論俺と、俺の足元にピクピクと痙攣しながら白目を剥いてぶっ倒れている剛毅と呼ばれたA級覚醒者だ。
剛毅と同じパーティーの男達は倒れた剛毅を開いた口が塞がらないと言った様子でぼんやりと眺めていた。
「うわぁ……痛そ☆ まぁアイツが悪いからしょうがないよね☆」
「そうですね。私もこう無様に地面とキスをしている姿を見ると溜飲が下がります」
どうやら2人も相当腹が立つことをされたみたいだ。
そこまで覚醒者達に嫌われるなんて、一体コイツらは何をしたのだろうか?
「……で、お前達はどうするんだ?」
俺は剛毅の仲間達に視線を移す……が、取り巻き達は完全に俺の力に恐怖しており、ビクッと体を震わせて目を泳がせ始めた。
まぁ自分達の主柱を失ったんだからそんなものか。
取り巻きの様な奴らは基本的に力は大したことない。
自分の力があるのなら、わざわざ強い奴機嫌を伺わないといけない取り巻きには絶対ならないだろう。
力を隠すにしても、こう言った傲慢で高慢な奴の取り巻きにはならないはずだ。
目立ちたくないんだからな。
「夕薙さん、コイツらの処罰はどうなるんだ?」
「えっとですね……剛毅様は協会の人間に暴行を働いた場合は、覚醒者資格の剥奪と封印石の強制付与の2つで、他の3人は神羅様が決めてくださっても結構ですが、殺しはしないでください」
「封印石?」
俺は聞き慣れない単語に首を傾げる。
名前的に何かを封印する物だとは分かるが、15年前にはそんな物存在自体なかった。
「封印石とは数年前に『技術者』とアメリカの大企業が共同で開発した覚醒者の力をF級にまで下げる効果のある石のことで、S級までならリング型の封印石で効果があります」
「取り外しは? それにSS級以上の覚醒者はどうなるんだ?」
「取り外しは基本出来ません。中指に付けさせますし、リングを嵌めると自動的に絞まる仕組みになっており、手を切り落とさない限りは不可能です。そしてSS級以上の覚醒者は拳大の封印石を人体の中に埋め込みます」
……相当にエグい処罰だな。
リング版はリング版で手を切り落とす以外外すことは不可能で、SS級に関しては拳大の石を体内に埋め込むんだろ。
まぁだがそうでもしないと暴れるかもしれないので、しょうがない一面もあるけど。
それにその処罰を受けるのは自業自得の奴らだけだ。
「じゃああの剛毅とか男にはリングを嵌め込め。そして取り巻きには俺が制裁を加えて置く」
「し、承知致しました……できれば殺さないで頂けると……」
「勿論だ。殺しはしない。殺しは、な」
俺はゆっくりと取り巻きの3人の下に歩いて行き、震える3人に向けて笑みを浮かべる。
「お前らには覚醒者資格の剥奪はしないが、———俺と一緒に修行をしてもらおう」
「「「「「「「はい?」」」」」」」
俺の言葉に、3人だけでなく心さんや咲良さん、果てには俺たちの話を聞いていた他の覚醒者も思わずと言った感じで首を傾げていた。
「えっと……なぜ此処にしたのですか? それにそれは……?」
協会の訓練場にて、剛毅の取り巻きの3人の内の1人———
彼は取り巻きのリーダー的な奴で、能力はB級と思った以上に高く、体もそこそこ鍛えられていて案外出来そうな奴である。
伊達にA級覚醒者パーティーのメンバーではなかったと言うわけだ。
後、名前が物凄いイカつい。
蒼龍って……親はこの名前をつける時どんな情緒だったのだろうか。
まぁでも名前に似合うイカつい見た目なので、そこまで違和感はないが。
「? 勿論お前達を鍛えるためだ」
「此処でですか?」
「ああ。お前達には此処で俺を相手に5分間耐えてもらう」
「「「はい!?」」」
3人が驚愕に顔を歪ませ、何歩か後ず去ろうとするが、その後ろに心さんと咲良さんが予め逃がさない様に立っていた。
「何処に行こうとしているのかな☆」
「行かせませんよ?」
2人とも本来はカフェに行くはずだったのだが、それを辞めてこの修行を見たいとお願いしてきたのだが、別に俺は問題ないので了承した。
「逃げるつもりか?」
「も、勿論逃げるわけないですよ……?」
「お、おう……俺も逃げるわけないですよ?」
「お、同じく」
「なら早速始めよう。夕薙さん、俺の重力を増やすことは出来るか?」
『可能です』
「なら俺の重力を20倍にしてくれ」
『に、20倍ですか……? か、可能ですが……重りをつけてやるのなら動くことが出来ないと思うのですが……』
「まぁ取り敢えず頼む」
20倍の重力は体感した事ないが、まぁ俺のステータスなら大丈夫だろう。
それにコイツらほど弱かったら加減が出来ずに殺してしまうので、俺に何かしら枷を課さないといけないのだ。
『そ、それでは開始します』
「……っ」
夕薙さんの言葉と共に、俺の体が鉛の様に重くなるが、別に動かないことはなく、試しにジャンプしてみると普通に3メートル程跳べた。
『あ、あれ……? 作動してない……?』
「いや、問題ない。しっかり作動しているぞ」
「そうだね〜前の任務の時は何十メートルも飛んでたもんね〜」
「「「…………え?」」」
ふと呟かれた心さんの言葉に3人が凍り、ギギギッと心さんの方に顔を向けた。
その顔にはありありと「それって嘘ですよね?」と言う言葉が書いてあったが、心さんのニコッとした笑みに更に顔を引き攣らせ、最後に俺の方を見てくるが、事実なので頷くと……。
「「「ああ……終わった……もうヤケクソだッッ!!」」」
3人が決死の覚悟を顔に宿し、同時に3方向から攻撃を仕掛けて来る。
その速度は本気のためかそれなりに速く、チーターのMAXスピード程の速度が出ていた。
「まぁ悪くない」
俺は真っ正面から蹴りを繰り出してきた蒼龍を同じく足で止め、後ろにいる金髪の男———
「くっ……」
「何で片手で俺の連続パンチが……!」
「俺だけ吹き飛ばされるの何故!?」
そんな軽口を吐けるのならまだまだ大丈夫だろう。
それに重りと重力増加のお陰で体が非常に重いが、いい具合に手加減が出来ている。
「少し速度を上げるぞ」
俺はセーブしていた力を少し引き出し、気持ちいつもの3割増しの速度で疾駆する。
普段よりもだいぶ遅いが、それでもピストルの銃弾———約秒速350メートル———ほどの速度では動けているはず。
その証拠に蒼龍は俺が懐に入ったのに未だ気付けていない。
「反射で動ける様にならないとな」
「!?」
俺が声をかけた事によりやっと気付いた蒼龍が驚愕に目を見開くが、さすがB級覚醒者なだけあり、即座に回避行動に移った。
だが……あまりにも遅い。
「ふっ———」
「ぐッ———!?」
俺はジャブの要領で拳を振り抜くと、回避が間に合わないと悟った蒼龍は、ギリギリで自身の体と俺の拳の間に腕を滑り込ませてガードをしたが、そのまま威力を吸収することが出来ず後方へと吹き飛ばされた。
だが蒼龍と入れ替わる様に宗介が魔力の籠った拳を振るって来たので先程と同様に片手で受け流そうとすると———
「———“爆破”ッッ!!」
突如俺に触れた所から魔力が爆発した。
どうやら宗介の異能力は魔力を媒介に爆破能力を付与できるらしい。
その威力は相当強力で、俺も数メートルだが吹き飛ばされてしまった。
「ど、どうだ———……ッッ!」
「悪くない。いい異能力だな」
俺は爆煙の中から飛び出し、そのままの速度で蹴りを叩き込むと、宗介はガードせずに攻撃をモロに受けたため、蒼龍同様吹き飛ばされた。
そして最後に残った拓人に視線を向ける。
「次はお前か?」
「……こんなの無理ゲーだろうがクソがあああああああ———“水の槍”ッッ!!」
拓人はヤケクソ気味に数発の水の槍を飛ばした。
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