第9話 『赫い戦斧』
今回何故か長くなった。一体どうしてだ?
まぁ本編どうぞ。
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———翌朝。
「…………ん……?」
俺は自身の顔を照らす太陽の光の眩しさで目を覚ます。
ぼやけた頭で辺りに視線を巡らせると、そこはあの無機質な空間ではなく、TVにベッド、鏡や窓の外に見える綺麗な青空が存在している。
そしてぼんやりとしていた思考が段々と意識が覚醒すると共にクリアになっていき、遂に数億年ぶりに地球に戻ってきた事を思い出した。
「本当に戻ってこれたのか……」
しみじみとそんな事を思うが、そんなことより身体がベタベタしている不快感が俺の思考を支配する。
昨日の夜はこのベッドのあまりの気持ちよさに一瞬で眠りについてしまったようで、服も着替えておらず非常に気持ち悪い。
それにふと時計に視線が定まったのが、既に11時を過ぎていた。
「風呂に入るか」
俺は名残惜しい気持ちを何とか抑えてベッドから起き上がると、洗面所に移動した。
「夕薙さん、アレらはどうすれば良い?」
協会の受付にて俺は後ろの大量の覚醒者を指差す。
あれから物凄く凄いとしか言いようがない素晴らしいシャワーで体を念入りに洗った後、ツルツルスベスベのお肌の上からバトルスーツに変化する服を着て、昨日と同じく協会へと来ていたのだが、受付の順番が来るまでに十数分も掛かった。
何故かを説明すると、今日は俺がSS級覚醒者になったと言うことが全国に公開されたためである。
そのせいでこの協会は覚醒者が押し寄せていた。
「……正直我々協会側からしても予想外の出来事なんです。今まで何回もSS級覚醒者の公表をしていましたが、此処まで集まってくることはありませんでした。しかし……これが原因かと」
夕薙さんが映し出したのは、俺が巨神獣を担いで闊歩しているシーン。
チラッと再生回数を見ると、僅か1日で2300万回以上再生されていた。
更にはツ◯ッターでは『夕陽を愛する謎の強者』とか言うハッシュタグでバズっている。
「……これは収束は不可能か?」
「無理ですね……流石に此処まで流れてしまえばどうする事もできません。神羅様には申し訳ありませんが、落ち着くまで耐えていただく以外に方法は……」
「分かった。気にしないでおく」
まぁ自業自得な部分の方が多いから俺が文句を言う資格はない。
更に言えばバズって欲しいと願ったのも俺なので、逆に無事バズって良かったと言う気持ちの方が大きく、琴葉にも届いているかな……とふと思ってしまう。
「夕薙さん、水野琴葉の所属しているクランって何処なんだ?」
「え? あの『戦女神』ですか?」
「ああ」
「えっとですね……彼女は『夜明けの証』と言う日本最強のギルドに所属しています。その実力と人気から副会長を務められています」
日本最強のクランで副会長か……随分と偉くなったんだな。
まぁSS級覚醒者だし、綾人さんの様な熱狂的ファンが何千、何万と居るんだから当然と言えば当然か。
しかしクランに所属している者にアポ無しで会う事が出来ないのだろうか?
「俺が今から会いに行くのはダメなのか?」
「そ、それはいけません! 単独でアポ無しで行くとなると、襲撃を疑われてしまいます! 同じSS級覚醒者なら犯罪をしたSS級覚醒者を罰する権利もあるんですから。それに『夜明けの証』の会長は世界に10人もいないSSS級覚醒者なのです」
昔も『夜明けの証』と言うクランはあったが、その時はまだSS級覚醒者が会長だったはず。
どうやらこの15年で会長はSSS級覚醒者に昇進したらしい。
「……じゃあやめておこう」
「その方がよろしいかと。そもそもきっと彼方から神羅様に会いにくると思いますよ」
「?」
俺がよく分からず首を傾げていると、後ろに気配を感じた瞬間に肩をトンと叩かれる。
誰だ……と疑惑の目で振り向くと、そこには心さんと咲良さんが居た。
「こんにちは神羅くん〜☆ もしかしたらと思ってきてみたけど案の定居たんだねぇ」
「こんにちは神羅さん。よく眠れましたか?」
「ああ、おはよう2人とも。お陰ですっかり眠れた」
2人とも武器は持っておらず、昨日着ていたバトルスーツも着用しておらず、その代わり心さんは肩の空いた少し艶めかしい服と膝より断然上の短いスカートと言うお洒落な服を着ていた。
そして咲良さんは心さんとは対極で、肌の殆ど見せない白いワンピースと鍔の広い帽子を身に付けており、清楚さが滲み出ている。
その服装で一体何のために此処にきたのだろうか、と首を傾げていると、心さんが俺の疑問に気付いたのか説明してくれた。
「本当は2人でカフェ巡りでもしようと思ってたんだけどね〜偶々神羅くん見つけたから話しかけようってなってね」
「それで少し寄り道として此処にいると言うわけです。ご迷惑だったでしょうか?」
心さんは1ミリも自分が話しかけて迷惑と思っていない様で堂々としていたが、咲良さんは少し不安そうに眉を潜めていた。
こう言う所で性格が出るな。
「別に迷惑じゃない。俺には琴葉以外に友達は居ないからな」
「ほら言ったでしょさくら〜? 絶対迷惑じゃないって!」
「う、うん……」
心さんが「あ、そうそう」と言うと、俺に訊いてくる。
「神羅くんは今日何か予定ある?」
「いや、特にない。琴葉には俺から会いに行ってはいけないらしいからな」
———瞬間、心さんの目がキランッと光る。
その瞳はまるで獲物を狙っている肉食動物の様だ。
「ねぇねぇ神羅くんっ! 一緒にカフェ巡りしない?」
「えっ!? 流石にそれは迷惑ですよ心ちゃん! 男の人はきっと暇になりま———」
「———いいぞ別に。丁度この安全地帯の案内を誰かにして欲しかった所だ」
「———いいのですか!?」
「にゃはははは! やったぁ! これで幾らか奢ってもらえるぜ☆ それじゃあ善は急げと言うことで———レッツゴー!」
心さんが俺と咲良さんの手を引いて協会の外に出ようとした時———
「———此処に斎藤神羅は居るかッッ!!」
ドンッと何かを地面に叩きつける音と共に粗暴そうな男の声がエントランスをこだました。
そしてその男を避ける様にして覚醒者達が道を開けていく。
視界が開け、目の前にゴツい装備に身を包んだ如何にもヤクザっぽい見た目の男達が現れる。
「来やがったよ」
「ほんと強いだけで威張り散らかすのはやめて欲しいよな。子供じゃないんだから」
「でも神羅さんが来たしもう彼奴等用済みなんじゃね?」
「それな。しょっちゅう誰かと喧嘩してるしマジで来んなよな」
そんな非難する声が至る所から上がっており、かく言う心さんは「うわっ……マジで最悪なんですけど……」とマジのドン引きしており、あんなに優しくしてくれた咲良さんも彼らをみて顔を顰めていた。
どうやら彼らは見た目通り、この地帯での評判は悪いどころかほぼ最悪に近い評価らしい。
だが、そんな奴らが一体俺に何の用だと言うのか。
まぁおそらく難癖をつけに来たんだろうが、面倒くさそうだしわざわざ相手をしてやる必要もなさそうな奴らなので、無視して2人に街を案内して貰うことにしよう。
「心さん、咲良さん、アイツらは放っておいて案内してくれ」
「そうね〜あんなの相手しても面倒なだけだし〜」
「私も賛成です。とっとと抜け出しましょう」
と言うことで話が纏まりそうだった所に再び奴らの苛立ちの籠もった声が響く。
「オイ! 居ないのか!? チッ———おいお前! 斎藤神羅はどこに居る?」
「言わねぇとぶっ飛ばすぞ!!」
粗暴な男達ズンズンと夕薙さんに近付いて行き、バンッと机を叩いた。
その余りの横暴さに俺は顔を顰める。
昔も偶に自分の力に溺れて調子に乗る輩が一定数いたが、コイツはその中でも上位に位置するほど酷い。
受付人にそんな脅しの様なことをして剥奪されないと思っているのだろうか?
「……申し訳ありません『赫い戦斧』の皆様。神羅様はSS級覚醒者のため、皆様方に教えるわけにはいかないのです」
「ああぁん!? いつもは素直だったのに随分と偉くなったんだなぁ夕薙!!」
男が夕薙さんの襟を掴んで顔を近づけて唾を飛ばしながら声を荒げる。
その姿は普通の人ならビビってしまいそうなほど迫力があったが、流石覚醒者を取り締まる協会の受付なだけあって、夕薙さんはそこまで怯んでいなかった。
「で、ですが、こんなことで神羅様に此処を出て行かれては困りますので、教えるわけには行かないのです。どうか協会側の顔を立ててくださるとありがたいので———ガッ!?」
「調子に乗るなよ夕薙ぃぃぃ……この俺に楯突いたらどうなるか貴様の体に教えてやる」
「やっちゃいましょう剛毅さん!」
「俺達『赫い戦斧』を舐めていたらどうなるか教えてやりましょう!!」
1番前に居た剛毅と呼ばれた大男が夕薙さんの首を掴んで持ち上げる。
夕薙さんは仮に覚醒者であっても、それほど強くなさそうなのでこのままでは絞殺されてしまうだろう。
…………面倒なことをしてくれるな。
「ちょっと辞めなさ———神羅くん?」
心さんが注意しようとした所で俺は手で静止する。
彼女を面倒事に巻き込むわけにはいかない。
特に今の彼女は私服で武器の1つも持っていないのに対して、あの男たちはフル装備している。
更に言えば等級も彼女よりも高い。
「彼奴等は俺が止める。どうやら俺に用があるみたいだからな。———おい、お前。取り敢えずその手を離せ」
俺は一瞬で男の腕を掴むと、一応忠告しておく。
声に反応した剛毅と呼ばれた男は此方を見ると、俺の見た目が若いからか見下す様な笑みを浮かべた。
勿論忠告を聞かずに未だに夕薙さんの首を絞めている。
「何だガキィ? でしゃばると痛い目見る———ぐあああああ!?」
ゴシャッ。
俺は何か言い掛けた男の話を無視して握った腕をギュッと軽く握って軟弱な骨をへし折る。
いきなりの事に身構えられなかった剛毅と呼ばれた男は、思わずと言った感じで悲鳴を上げながら夕薙さんから手を離すと、折れた腕を抑えてその場に蹲った。
俺は手を離されて地面に落ちそうになった夕薙さんを抱き抱える。
「大丈夫か?」
「ゴホッゴホッ!! だ、大丈夫です……! か、彼らは『赫い戦斧』と言うパーティーでA級のパーティーでして……素行不良の目立つパーティーです……」
「そうか。要は、弱者に手を出す雑魚って事だな」
俺は夕薙さんを椅子に座らせると、痛みに顔を歪ませながらも此方を睨む剛毅と唖然とする男達に向かい合う。
「き、貴様……何者だ!?」
「お前の探していた斎藤神羅だ。呼ぶくらいなら顔ぐらい覚えておけ阿呆が」
「!? き、貴様が斎藤神羅か!? テメェ……よくも不意打ちで俺の腕を折りやがったなッ! ぶっ殺してやる!!」
不意打ちと、如何にも実力では負けないと言う傲慢な言い訳を言って激昂する剛毅とか言う雑魚。
本当は穏便に話し合いで解決したかったのだが……こうやって殺意を向けてきた奴らを俺は許すつもりは毛頭ない。
殺ろうとするなら勿論殺られる覚悟もあるはずだよな?
「———誰が誰をぶっ殺すって?」
「ぐあっ!?」
俺は軽く一歩踏み出してふっと剛毅の視界から一瞬にして消えると、相手が気付く前に無防備な鳩尾に拳を突き入れた。
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