野蛮人認定を受け、婚約破棄され追放された公爵家三男。追放先の魔境を武力の平和活用で発展させます。

石の上にも残念

第一章 始まり

第1話 野蛮人の誕生


「「「「「――――」」」」」

厳かな雰囲気の漂う神殿。

そこは間違いなく絶句によって埋め尽くされた。


「どういうことだ!?」

絶句から立ち直るなり、裏返った声で焦っているのはロマンスグレーの髪が渋いおじさん。

ハレルシア王国の名門貴族ブルーレンス公爵家の現当主、キラル・ティ・ブルーレンスである。


「どう…と言われましても……」

同じく慌てているのは、煌びやかな服に身を包んだお腹の大きな脂ギッシュなおじさん。

教義にある清貧とは対極を体現しているが、国教フィネル教の高級司祭を務めている重鎮である。


「………」

中でも呆然としているのは、神殿の中央に据えられた巨大な水晶玉を前に立ち尽くしている少年だ。

キラルの三男『フィゴー・ティ・ブルーレンス』15歳だ。

父譲りの黒髪に、キリッと締まった目鼻立ちと整った顔立ちの少年だが、今はポカーンと口が開き、マヌケな顔になっている。


原因は少年の目の前にある巨大な水晶だ。

正確にはその水晶に浮かんだ文字である。

『剛力無双・神速・神眼・空弓からゆみ・白昼の新月・ほこことわり・神将・武神・魔神・破壊神』

と10個の単語が浮かんでいる。

これらはフィゴーの持つ天職ギフトだ。


この世界で人は天職と呼ばれる才能を持っている。

15歳になる成人すると教会の水晶で天職を調べる。

そして、その天職に見合った仕事をする。


普通、天職は1つ。

極稀に2つを有する神童がいるのだが……。

「10個とは……」

青い顔で慄いているおじいちゃん神官。

「しかも半分以上が神級とは……」

同じく青い顔の隣のおじいちゃん神官。


「……本来なら英雄の誕生とお祭りの1つでも行う場面なんでしょうけどねえ」

面白そうにニヤニヤと人の悪そうな笑みを浮かべているのは、サラサラの金髪をした派手な顔の若い女性。神官服のくせにやたら体のラインが浮かんでいる。


「こ、こ、こ、これではフィゴーは暴力兵器ではないかぁーーー!!」


キラルの絶叫が神殿に響いた。



☆☆☆



「殺せ」

国王の私室。

ごく限られた者しか立ち入ることの出来ない王城の深奥。

そこで角突き合わせる2人の男。

ハレルシア王国代18代国王ジェニック・ルー・ハレルシアと、疲れきった顔のキラルだった。


「こ、殺せとは流石に……」

「斯様な暴力兵器がいると知れれば平和が乱される」

普段の穏和な顔はどこへ行ったやら、厳しい顔つきの国王。

「し、しかしフィゴーは優秀ですし」

汗を拭き拭き食い下がるキラル。

「優秀な暴力兵器など、言語道断だ!!」

王は揺るがない。

「……」

黙るキラル。

重い沈黙が部屋に満ちる。


少し歴史の話をしよう。


大小様々な国が入り乱れた大戦国時代があった。その頃は、一騎当千の兵士は大変に重宝がられた。

それゆえ、存在の少ない戦闘職系の天職持ちは優遇され、厚遇を受けた。


しかし、時代が流れる中で、大きな技術革新が起こる。

俗に言う〖ゴーレムラッシュ〗である。

1人の天才により生み出された高性能、量産可能なゴーレムの誕生により、人が戦場に立つ事が激減した。

結果、戦場でこそ輝く戦闘職の地位は地に落ちた。


更に蔓延した厭戦気運から締結された不戦条約により、平和な時が長く続くと、たまに生まれる戦闘職系は「野蛮」「危険」「時代遅れ」と蔑まれるようになった。


戦闘職系の天職持ちが生まれると、それはクーデターの疑いだとか、戦争主義者だとか、脳筋バカとかなんとか物騒で残念な烙印を押されてしまうのが現状である。


そんな世情の中、明らかになったのがフィゴーの天職である。

王国の興国記にある英雄ですら持ち得ない10個の天職。

その全てが何やらゴリゴリの戦闘系のようで。

しかも、世間一般の天才が生涯をかけてやっと到達する領域に鼻歌交じりで達してしまう神級の天職。

更に〖破壊神〗に〖魔神〗である。

聞くからに物騒でしかない天職。

平和と協調を是とするハレルシア王政からすれば天敵でしかない。


しかも……

「斯様な蛮人が、娘の婚約者など」

フィゴーの婚約者はハレルシア王の第六女、アイネルという。

キラルを睨みつけるハレルシア王。

「国内にも他国にも知れるワケにはいかん! フィゴー・ティ・ブルーレンスは抹殺する!」

「お、お待ちください! 何とか!何とか今一度チャンスを!」

必死に縋り付くキラル。

三男であるフィゴーは子どもの頃から特に優秀で、キラルも大変に可愛がっていた。

キラルの寵姫の子どもだということもあるのだが。


「アイネル殿下に今一度お目通りを! アイネル殿下とフィゴーは政略結婚とはいえ相思相愛の仲でありました。何とか!」

縋るキラルに渋い顔をするハレルシア王。

「……ならん! フィゴー・ティ・ブルーレンスは、ブルーレンス公爵家子息としてカイツェル山脈の開拓を命ずる!!」

こうしてフィゴーの運命は大きく捻じ曲がることになった。


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