572 やぁ!俺はリーフ

( リーフ )




あの黒いスライムからは敵意は全く感じないし・・何より急に攻撃されたというのにただ逃げるだけ。


しかも今など隠れてこちらをビクビクとしながら見てくるだけという、攻撃性皆無の不思議な行動を見せている。




魔力を高めて次の行動を取ろうと準備しているルーン先生に「 ちょっとだけ待っておくれ。 」と言いながら片手を上げて行動を止め、俺は構えていた中剣をゆっくりと腰ベルトに戻した。




それにギョッ!!と目を剥くルーン先生。




” 先行しているイメージに踊らされるべからず! ” 



俺にはどうもその黒スライムが悪い事をしようとしている様には見えないし、それにーーー


何だか誰かに似ている様な気がしてまずはきちんとそれを見極めようと思ったのだ。





点々とスライムの家を回っているのも何か理由がありそうな気がする。




そう考えた俺は、チラチラとコチラの様子を伺うように顔を出している黒いスライムに視線を合わせたままペタペタと歩き出す。




それに慌てたルーン先生は俺に向かって大声で叫んだ。





「 おいっ!!リーフ!どうしたんだよ!!


そんなヤバい奴に近寄ったら駄目だ!!



そいつはさっさと倒さないといけないモノなんだよ!


一気に片付けるぞ! 」




ルーン先生の言葉をまるで理解する様に、その黒いスライムはビクビクッ!!と小さく揺れた後、そのままのったり、のったりとその場から離れようと移動し始めた。





そんな、人間だったら肩を落としてトボトボと歩いていく様な姿に・・・


俺はどうしてこの黒いスライムがスライムの家々を歩き回っていたのか分かってしまった。





「 あ!あいつ逃げるぞ! 」



ギャーギャー叫ぶルーン先生の叫ぶ声を背に、俺はぴょんっと飛んで去ろうとしている黒スライム君の前に着地し、そのまましゃがみ込んだ。




「 やぁ!俺はリーフ。急に攻撃しちゃって本当にごめんね。


もしかしてなんだけど、君、行く場所がないのかい? 」




そう俺が尋ねると黒スライム君はビクッ!と驚いた様に揺れた後、まるでYESと言うようにぷるるんっと身体を揺らした。




急にスライムに話しかけだした俺に白目を剥いたルーン先生は「 な、何普通に話しかけてんだよー! 」「 危ないから戻ってこーい! 」と叫ぶが、


俺は手をフリフリ〜と振ることで大丈夫だと伝え、そのまま会話?を続けてみる。





「 そうか〜・・。


じゃあ、スライムの家を点々と回っていたのは仲間に入れてほしかったからかい? 」




俺の質問を受け、ぷるるんっと揺れる黒スライム君。




「 なるほどなるほど。でも逃げられちゃったのか・・



もしかしてスライム業界は黒いと入れてくれないのかな? 」




ふ〜む・・と考え込んでいると、その黒スライム君はみょみょ〜んと縦長に伸びてコクコクと頷くように前に何度か倒れる。



更にその黒スライム君は細長い触手をみょみょっ〜と出すと、木の棒を拾いあげ地面にグリグリと黒く塗りつぶした丸を描く。



そしてその黒い丸からだいぶ離れた場所に沢山の黒くないただの丸を描いた後、クイクイと黒く塗りつぶした丸を触手で差し、次に自分の方をピッ!と差す。



どうやら黒い丸は自分、離れたところに沢山描かれている白い丸達は他のスライム達だと説明しているらしい。





” ひとりぼっち ”




そう必死に訴えてくるスライムが、初めて出会った頃のレオンと完全に重なった。





「 じゃあ、俺達のところにおいでよ!



レオンが作ってくれた家なんだけど、凄く良いところなんだ。


畑もあるし、温泉もあるし、きっと良いなって思える場所だと思うよ。



レオ〜ン!この黒スライム君も家に住んでもらってもいいかな? 」




おやつタイムじゃないと理解してからすっかり省エネモードだったレオンに確認すると、スイッチオンしたレオンはジッ・・とその黒いつやつやボディーを見つめて、コクリッと頷いた。



そして「 ・・俺は心が広い男・・ 」とまたもや謎の言葉をブツブツと呟いているが、一応はそのぷるるんとした身体に魅力を感じたためOKらしい。



そしてルーン先生はその近くで白目を剥いたまま固まっている。



黒スライム君はそれを聞いてピタリ・・と止まると、右へ左へと揺れながらにょにょっと触手を伸ばし、クイクイと自分の方を指差す。


どうやら、本当にいいの?と確認をとっている様だ。



「 うん!いいよ!これからよろしく! 」



帰ったらあげ玉にも報告しよ〜と考えながらOKすれば、黒スライム君は分身の術の様に高速で震えた後、タシタシタシ!!とバスケットのドリブルの様にその場で何度も跳ねる。



そして俺の腰のポーチへと飛んで来てぽすんっと収まると、携帯電話のバイブレーションの様にブルブルと震えだした。



ちょうどいいからこのまま連れて帰るか・・と思い「 このまま家に帰るからそこにいるといいよ。 」と伝えると、一度ぷるんっと揺れてそのまま大人しくなる。




ポンポンっとそのポーチを外から軽く叩き、レオンとルーン先生のところに戻ると、ショックから立ち直ったらしいルーン先生が、グワッ!!と口を開き、凄い勢いで迫ってきた。




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