296 思い出から選ぼう
( リーフ )
さぁ、どうしようか……
前の台座に着いた俺は、鉢植えをセットしながら悩む。
先ほどリリアちゃんから聞いたアドバイスによれば……
” 漠然としたイメージより固定したイメージを持った方が上手くいく ”
” 今までで一番馴染みのある花の記憶からそれを描けば良い ”
この2つを意識して魔力を流せばいいらしい。
そこで俺は自身の記憶……沢山の思い出達を、劣化した脳みそから必死で引っ張り出していった。
俺にとって馴染みのある花といえば、やはりチューリップかな〜。
孤児院では毎年絶対植えていたから。
毎朝皆で水やりをしては、まだかなまだかな〜♬と心待ちにする子供達に毎日心が癒やされたものだ。
その時の思い出を振り返り、鮮明な映像として思い出していると────……
「 始めっ! 」
試験開始の合図が上がった。
俺はその過去を思い出しながら魔力を流し始めると、そのチューリップを見ながら皆でワイワイしているところに、何かを持った陽太とまきがやってくる。
” 懐かしいもんが実家から出てきたんだ。
捨てるのもったいねぇから皆で作ろうかと思ってさ。 ”
そう言った陽太の横で、まきがニマニマと笑いながら紙袋に入ったそれを取り出して見せてきて……
────そこで、はっ!!と意識は現実世界へ。
慌てて鉢植えの中を覗けば、土がモコモコと動いている
のが見えた。
そして────────
メキ……
メキメキっ────────!!!!
不安になるくらいの大きな音を立て、何かの茎……いや、太さ的には幹???のような太い何かがぐんぐんぐんぐん空に向かって伸びていき、何と全長3mほどの白いブロッコリーのようなものが生えた。
「「「「 …………。 」」」」
唖然としながら上を見上げる教員や受験生達。
これ、チューリップじゃな〜い!と驚きながらそれを見上げる俺。
そのせいでシーンと静まり返る中、俺は自分の出した正体不明の木??をじっくり観察する。
上はブロッコリーのモコモコのような形状になっているが、よ〜く見るとそれよりもっとふわふわと、どちらかといえば雲に近い感じであることに気づく。
そしてその雲のようなものから凄く馴染みのある匂いが漂ってきて────……
これってまさかっ────!
はっ!とある事に気がついた俺は、トンッと飛んでその白い雲の様なものを毟ると、それをそのままパクリと口に入れてみた。
えっ!食べたっ!!
そう驚く周囲をよそに、俺はその口を刺激する久しぶりの甘さに、うぅ〜!!と耐えるように目を閉じて言った。
「 これ『 わたあめ 』だ!! 」
「「「 ??『 わたあめ 』??? 」」」
俺の言葉を聞いた教員達や受験生達は、頭を傾げながら聞き返す。
それもそのはず、この世界には『 わたあめ 』は存在していない。
そもそも、科学ではなく魔法が発展している影響か、そんなに凝った料理自体があまりないのだ。
調味料をふんだんに使い、美味しい美味しい料理を作ってくれるアントンの方が例外で、食材は基本素材の美味しさで〜がスタンダードなこの世界。
勿論デザートもほとんど発展はしておらずフルーツをそのままが基本。
あとは自然な甘さが売りの小麦焼きやクッキーくらい。
そんな中、わたあめの凶器的な甘い匂いは、全員初めて嗅ぐ匂いであるため、それが風に乗ってふんわりとその場に漂うと全員の喉が鳴る音が聞こえた。
「 な、なるほど────。
リーフ殿、それは食べる花なのだな?
未知の花である故、我々審査員はそれを食さねばならんな! 」
興味津々といった様子でフラン学院長がそう言うと、待ってましたとばかりに残りの審査員がそれにつづいて前に出て、ワクワクしている様子でジッーとわたあめの木を見上げる。
俺はそれを受け「 分かった!」と頷き、ムッシムッシとそれを毟りフラン学院長達に渡すと、まずはフラン学院長が、ソロ〜とそれに齧り付く。
すると────
「 〜〜ッ〜〜──〜ッッ!!!! 」
キュッ!!と顔を萎めたフラン学院長は、声もなくその甘さに耐えている様だ。
それに続けと他の審査員達も次々に口に入れると、フラン学院長同様の表情で全身を震わせている。
「 リーフ様ぁ、僕も食べたいで〜す! 」
それを見たサイモンが続けて手を挙げたので、またむしってあげると、俺も〜私も〜と次々と手を挙げたので、俺はわたあめをドンドン毟っては全員に配ってあげた。
そうして俺が両手で持っている分を残し、すっかり禿げ上がってしまったブロッコリーわたあめの木。
その直後、役目を果たしたとばかりに消えてしまった。
「 90点! 」
非常に満足そうな顔をしたフラン学院長と審査員達は、口を揃えてそう言い放ち、そんな驚きの高得点に対し周りは……
「 まぁ、これは仕方ない。 」
「 美味しかったしね〜。 」
幸せそうな顔でウットリしている。
まさかわたあめで90点とは……。
著作権の問題は大丈夫だろうかと、ちょっと複雑な思いで席に戻ると、前に座るソフィアちゃんとアゼリアちゃんがチラッとこちらに物言いたげな視線を向けてくる。
二人とレオンはわたあめを取りに来なかったので、もしかして2人は甘いの嫌いかな?と思ったが、一応残して持ってきた。
ちなみにレオンは " い〜れ〜て〜! " が出来ない子なのは分かっていたので、当然ちゃんと前もって取っておいたから後でお口に入れてあげよう。
「 二人とも食べてみないかい? 」
ソフィアちゃんとアゼリアちゃんにそう聞いてみると、パァァァ!!と嬉しそうな顔をした二人だったが、アゼリアちゃんは、はっ!と表情を引き締め首を横に振った。
「 わ、私が頂くわけには……っ! 」
そんな出会った頃のモルトみたいな事を言うので、わたあめを毟ってアゼリアちゃんの顔にペトリと押し付ける。
「 まぁまぁ、何事も経験だよ、アゼリアくん。
敵の攻撃だと思ってそれを食してみるのはどうかな? 」
「 てっ、敵の攻撃……?? 」
アゼリアちゃんは、ベトついた鼻先をチョイチョイと擦りながら、恐る恐る口にそれを入れ、そして────
「 〜〜ッ〜〜──〜ッッ!!!! 」
真っ赤な顔で、キュキュッと顔を萎ませるその顔は年相応の幼子。
そんな彼女をみてソフィアちゃんは嬉しそうに笑いながら俺にお礼を言うと、そのまま同様にわたあめに口をつけ、やはり同じ様な表情を見せる。
「 なんだかまるで ” 幸福の白い木 ” みたい……。 」
頬を押さえながらわたあめを食べ終えたソフィアちゃんが、突然聞いたことのない言葉をポツリと呟いた。
「 もしかして ” ゼロの歴史 ” に存在していたと言われる絵画シリーズですか? 」
その正体を聞いてみようと口を開く前に、リリアちゃんがその話に食いつく。
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