第12話 エピローグ
呪いのドラゴンロードは死んだ。
アランに案内されて私たちは瓦礫となった魔法学院に来ていた。
ドラゴンロードは確かに死んでいる。
翼は半分焼け落ち。
首をはねられて絶命していた。
アランが目撃した情報によると、どこからかドラゴンブレスに似た別の光の線がこのドラゴンに命中し。
怒り狂ったドラゴンが、私たちが今いるここ、魔法学園に走っていったというのだ。
今は静かなものだ。周囲には誰もいない。
別のドラゴン? そんなの聞いてない。
私は今は目の前にいるドラゴンの生首に向かって話しかける。
「ねえドラゴンさん。聞いてなかったのだけど、主である貴方が死んだら生贄である私はどうなるのかしら」
契約は消えていない。
私のお腹に描かれたドラゴンの眷属の証である紋章が消えていないのだ。
私はシャツを捲り、下腹部に描かれた紋章を確認する。
次の瞬間、それは痛みを伴い、突然輝きだした。
「熱い、どういうこと? いや、感じる。私の中にドラゴンの魔力が集まっているのを」
ドラゴンロードの魔力は新たな主を探すかのように私の中になだれ込んだ。
ふふ、ついに私は人間じゃなくなったってことね。
いいわ、私はこれからドラゴンの姫として生きていくわ。
理想を叶えるために必要な絶対的な力を手に入れたのだし、悪くない。
いや、絶対的な力はいいすぎね。
当面はこのドラゴンを倒した奴を探さないと、果たしてどんな化け物か。
でも、ドラゴンだけを倒して姿をくらましたというなら。
少なくとも人類の敵ではないはず。
交渉の余地はある。
「クロード、ドラゴンを殺した相手について急いで調査してちょうだい。
交渉の場を持ちましょう。恐らく私達では勝ち目はないから友好関係を築きたいわ」
さて、これからどうすべきか、思いもよらぬことになったが。
とりあえずは良い王様にでもなってみるのも悪くないわね。
あの愚かな王の逆の行動をとれば必然的に名君になる。半面教師とはよくいったわ。
「戻りましょう、とりあえず王城は瓦礫を除去すればまだ、建物としては使い道があるし。
臨時政府を建てるにしても拠点が必要だわ。
……それに、お兄様にお願いしないと、あんなに大事だった王座を私が貰っちゃうのだから」
王城の地下牢。
普段ここには犯罪を犯した、と、される貴族が捕らわれる牢獄だ。
派閥闘争に負けた貴族の一時休憩所といった感じかしら。
牢獄にしては随分と環境がいい。
格好としては牢獄に必要な鉄格子がある以外は設備も充実していた。
なるほど、これが貴族同士の馴れ合いか、明日は我が身である貴族社会においては罪人にも優しくする。
だから私の番になっても優しくしてほしい。そういったことだろう。
私とクロードは牢獄を歩く。
奥の部屋。驚いた、牢獄にもビップルームはあったのだ。
王族専用の牢獄、これは子供部屋のような感じかしら。
私が子供の頃に過ごした部屋によく似ている。
「お兄様、お久しぶりですね。ついさっきのことなのに、とても長く感じてしまいました」
兄は、私を見ると、ひどく怯えていた。人違いだったかしら。
私はクロードに尋ねると、彼は首を振った。
おかしい、この怯えた小動物の様な姿はなんだろう。あの憎悪に歪んだ顔は私の幻覚だったのかしら。
「ひぃぃぃ、ば、化け物、よるな。おまえ! なんなんだ! クリスティーナの顔をした化け物!」
実の妹に対して化け物はないだろう。いや、安心した。それでこそ兄だ。間違えて影武者を殺したのでは意味がない。
「お兄様。私は正真正銘クリスティーナですわ。そうだ、お兄様にご報告があります」
私はその場で上着を脱いだ。他に見ているのはクロードだけだし、丁度いい。
「お兄様に受けた傷痕、全部治りました。ほら、いつか言ってましたね。私を抱く男の驚いた顔が見てみたいって。
おや? なぜそんなに驚いているんですか? やっぱり駄目でしょうか。鞭とか焼きごての痕がないとお兄様は不満なのでしょうか。困りましたねぇ」
クロードは私の行動に戸惑っている。
ごめんね。あと少しだから、目を逸らさずにもう少しだけ見てほしい。
「でも、私には大切な人がいますので、さすがに鞭と焼きごては嫌ですわ。それはお兄様に譲ります。私も見てみたいですわ。お兄様の素敵なお体を見て驚く女性達の顔を。お兄様にはお妃さまがたくさんいるから楽しみですね。
安心してください。今のところ全員無事ですから」
兄は何も言わなかった。うつむいていた。
何か言い返して来ればいいのに。
……くだらない、私は牢獄を後にする。
「クロード、彼を自殺させないでね」
「御意、ですが、俺が殺してしまうかもしれません」
さっきの会話でクロードは察したのだろう。私が兄に何をされていたのか。
でも、いい。もうクロードには隠し事はしない。
私は王座の前に戻る。
皆揃っている。アレン以外は。
アレンは白い布で覆われていた。
私はアレンの遺体に向かって黙祷すると、皆それに従った。
「では、さっそく王としての仕事を始めましょう。まずは大きなゴミから片づけないとね」
私は、とある魔法をイメージする。感じる、巨大なドラゴンの魔力は私の中をめぐっている。
「……極大死霊魔法。最終戦争、第二章、第三幕『亡者の処刑人』!」
黒い魔法陣が目の前に展開される。
そこから出てきたのは黒鉄の全身鎧に、切っ先のない大きな両手剣、エクセキューショナーズソードを持った騎士だった。
顔は兜に隠れて見えないが、スリットからのぞく目は赤く光っていた。
極大魔法の中でも珍しい局地戦用の召喚魔法である。
呼び出した処刑人は命令通りに特定の人物を殺すだけに動く。
自身が倒されるか命令が終わるまで消えることはない。
「できたわね、呪いのドラゴンの力は本当に私の物になった。ふふ、ずっとこの魔法を使いたかったのよ。
処刑したい人がいっぱい居たから。毎日この魔法を心の中で唱えていたっけ」
クリスティーナは目の前で跪く処刑人に命令する。
「現在の公爵以下、上位の貴族から順番に殺しなさい。名簿はそうね、アラン、見つかったかしら?」
「へい、姫様。こちらです。ちなみに女子供はどうします?」
「ふふ、アランったらおかしなことを聞くわね。彼らは平民の女子供にどうしたかしら。まあアランの好きになさい。
処刑人に命ずる。アランと共に罪人を見つけ首をはねよ!」
アランと処刑人は私の命令を受けると、すぐにその場から消えた。
「クロード、私、もう少し生きられそうよ。クロードは私が王様になってもずっと側にいてくれる?」
「もちろん、俺はクリスティーナ様の騎士ですから」
「もう! 騎士とかそうじゃなくって。一生寄り添ってくれる? って意味よ」
「はい、このクロード、クリスティーナ様に一生お仕えします」
「お仕えでもないってば、もぅ、鈍感なのかしら、それともわざと? うふふ。まあいいわ。
一通り掃除が終わったら。マーサたちを呼ばなくっちゃ。
安心したらお腹が空いてきちゃった。
そうだ、マーサが言ってた……何だったかしら、生肉の料理があったわね。アレが無性に食べたくなったわ」
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