第4話 呪いのドラゴンロード①
よかった。マーサもクロードも生きてた。
私の好きな人達。それだけで私は救われた気分だった。
あれから話し合って私はこの盗賊団に匿われることになった。
クロードは私を盗賊団の団長にするつもりだったようだけど、ごめんだ。
どうせだったら、その下がいい。妻とか……いけない。これは以上は望み過ぎだ。
……それに、今の私の身体を見せても彼を傷付けるだけだろう。
兄は言ったっけ。お前を抱く男の驚く顔がみたい。それだけの理由で私を嬲った。
マーサは抗議した。彼女はその数日後に病弱なレーヴァテイン伯爵を見殺しにしたという罪で処刑になった。
刑の内容は生きたまま魔獣の森に手足を縛ったまま置き去りにすることだった。それのどこが刑罰なのか。
でもそれが幸いした。マーサはクロード達によって助けられたのだ。
◆
2年が過ぎた。
バシュミル盗賊団はバシュミル義賊団と名前を変えている。
姫様がいるのに盗賊団はおかしいということで団員達から意見が上がったためだ。
クロードは剣の達人、それに魔剣使いでもある。
平民出身とのことだったが。ある程度の魔力適性があり。
今では十二番の魔剣開放までできるようになっていた。
マーサは相変わらず私の身の回りの世話してくれている。
私に構いっきりでよいのかと言ったが。団長はそのために彼女を救ったのだと言った。
嘘ね、彼はマーサだとは知らなくても助けただろう。
とにかく女手は足りてるから問題ないらしい。
皆がそれでいいなら受け入れるしかないけど。
お姫様扱いなんて少し照れくさいし申し訳ない気もした。
他の人たちとも随分と親しくなった。
子供達やその母親とも良好な関係を持つことが出来た。
正確には彼らは実子や実母の関係ではない。
それぞれが、子を失い、母を失った経験をした者たちだった。
あとは、私自身、意外だったことがある。
最初はあんなにも軽蔑してた盗賊の人たちとも、今では普通に会話が出来るくらいに仲良くなれたのだ。
私を拉致した二人はあの後、すぐに私に謝罪した。彼らの名前はアランとアレンという。
兄弟というわけではないが、名前が似ているということで意気投合して常にコンビを組んでいるそうだ。
クロードに聞いたが、彼らは斥候としてはとても優秀なのだという。
彼らがいなければ私を救出することはできなかったらしい。
それでも、最初は彼らを軽蔑した。とくにアランは私をさらったときに慰み者にしようとか発言したからだ。
しかし私の立場が変わるとアランの態度は豹変した。何度もこびへつらう態度にうんざりしたこともあった。
この手の男性は初めてで嫌悪感しかなかったが、クロードは彼を信頼している。
性格は抜きにして彼は有能なのだ。知性だって高い。
あらゆる情報を見逃さない彼は、組織にとっての目と耳である。
私は、彼に対してどうしたものかと悩んでいた。
ある日、アランの相方であるアレンは言った。
アランは口は悪いが、本人自体はそうしないと生きていけなかった過去があるのだそうだ。
実際に女性に乱暴したことはある。
それは彼が当時所属していた盗賊団で認められるためだったそうだ。
しかし彼は自責の念で随分苦しんだのだという。
それ以来。彼の態度は豹変した。
馬鹿でお調子者の役を演じることで、そういうご褒美にはあずかれない道化に徹したのだそうだ。
だから決して私を襲うつもりはなかったのだそうだ。
まあ、アレンが言う事を全て信用することはできないけど。
それにアレンだってわかった物ではない。そう彼らは元盗賊なのだから。
でも今はうまくいっているし、私に彼らを軽蔑する資格もない。
もう彼らの過去にはこだわらない。彼らはとにかく貴族が憎い。その意思で集まったのだ。なら思いは私と同じだ。
私には魔力はないけど、政治の面で彼らを手助けした。
私が来た時には200人規模の集団だったけど今は1000人ほどになっている。
彼らの衣食住の管理、そして義賊団としての規律を作った。
新人の団員は盗賊上りが多い、彼らは不法行為をするものがほとんどだったからだ。
大変だけどやりがいがあった。私が学んだことが今こうして役に立っている。
それに嬉しかったこともある。最近になってクロードが名前で呼んでくれるようになったことだ。
「クリスティーナ様、我らのアジトは随分と手狭になってきましたね。いずれ食糧問題にぶつかるでしょう」
「そうね、1000人規模の集団を維持するには森の生活は難しいわね。今は良くてもいずれはきっと駄目になる。食料の備蓄などほとんどないのだから」
それにここは森で、住居を作るにも限界がある。移動式の天幕よりも高度な家は作れないからだ。
昔、本で読んだことがあるエルフという森の民がいたけど、私たちに木の上で生活するのはむりだろう。
森の声が聞こえたり木の実だけでは飢えは凌げないのだ。
「そうね、クロード。ならば森を移動して新たな拠点を探しましょう」
「クリスティーナ様。これ以上森を進むと強力な魔物の縄張りに入ってしまいますが」
かといって、エフタル王国には戻れない。
それに、王国の連中に我々の存在がばれたら終わりだ。
私たちは歴戦の盗賊や元冒険者だった団員を集めて話し合った。
私は現実の食料事情を議題に上げた。
結論はでた。どちらにせよ奥に進むしかないと。
団長であるクロードに斥候であるアランとアレンもこれに賛同し。
さらに魔物に詳しい熟練の元冒険者の意見が後押しした。
曰く、1000人規模になった集団は魔物にとってもそれなりに脅威であること。
もちろん全員が戦闘員ではないが、ある程度の知能のある強力な魔物は警戒して近づいてこない。
彼らの縄張りを犯さず素通りすれば問題ないだろうというのだ。
なるほど、それで貴族たちは魔獣狩りには毎回、最低でも1000人以上の軍隊で遠征していたのか。
私たちは住居を解体し。馬車に乗せる。
折りたたんでしまえば。下手な家具よりも小さく収納できる。
これこそが移動式住居の利点だ。
見た目にこだわらなければ。これ以上便利なものはない。
馬の数も充分。この2年で皆は頑張ってくれた。
私たちは地図を頼りに西に進む。
道中、低級の魔獣が襲い掛かってくるくらいで、死人は出ず軽傷を追った者たちが数名出た程度だった。
魔獣は厄介だが恩恵もある。魔獣は他の動物よりも比較的に大型が多い、食料事情が改善するのだ。
食糧が少なくなるとしばらく足止めになってしまい、数日掛けて狩猟をしないといけないからだ。
森が空け海岸線に到着した。
地図が確かなら。現在の位置がおおよそ理解できる。
「海岸線を目安にこのまま北西に進みましょう。魔獣に警戒しつつカルルク帝国の国境付近まで」
カルルク帝国は平民にも寛大だと聞いている。いざとなれば私の身分を明かして。情報を売るという手もある。
そうすれば私たちはきっと救われるだろう。
おそらく、今のペースなら2年ほどでカルルク帝国だ。
道中、何もないことを祈るばかりだ。
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