今と向き合い、神秘的美声Vtuberは生きていく
なすびづくめ
第1章
第1話 きっかけ
周囲にある洋風の家から小鳥が飛び立つ。その向かう先は青い空を裂く一本の塔。金網のような作りになっており、頂上に行くごとに細くなっていく。その塔の銘は【エッフェル塔】。そう……みなさんご存知のエッフェル塔だ。
そんな有名所の前に
「くぅぅぅぅぅ!!嫌なことがあったら海外を観光するに限りますね……!」
そう、私は今絶賛旅行中である。周囲には日本人ではほぼ見かけない茶髪や金髪の白肌や黒肌の人々が無数にいる。その多くの人々は現地の住民なのだろう。
日本人は珍しいのかチラチラと視線が向けられることもあるがそんなこと気にせずに私は考えを巡らせる。
「次に行くのはルーヴル美術館……いえ、セーヌ川もありですよね……いやいやヴェルサイユ宮殿も捨てがたいですし……あぁもう考えがまとまらないです……!」
頭が混乱してきた私は手元にあった地図を力強く握りしめながら目を回してしまう。フランスに来たのが初めてということがあり、行きたいところが多く、次に行くところが決まらない。
やがて頭が落ち着いてきた私は昼食時であることに気づき、エッフェル塔をもう一度目に焼きつけてから、街へと繰り出す。
「フランス料理……ふふ……楽しみです……!」
頭の中にあるのは無数のフランス料理。ステーキフライにポトフ……あとフォアグラ!……は高くて無理か……
「!うぅ……」
そんな妄想をしながら街を歩いていると、当然腹の虫は喚き散らかしてしまう。私はとっさにお腹を抑えたがそんなことで音は消えるわけもなく、周囲の人から温かい目で見られる。そんな状況に猛烈な羞恥心を感じ、一旦大通りから離れた。
簡素な路地裏に入った私は一旦地図を取り出し、目的の店までの道を確認する。
そんなとき後ろから声が聞こえた。
「何でしょう?」
いつもなら平然と無視したが今回はそうとは行かなかった。なぜなら……
「行ってみますか……」
結果少しだけ見ることにした私は奥に進む。突き当りの方から声がしたので顔をちょこっとだけ出して状況を確認しようとすると……
『おい!時間ねぇんだよ……早く金だせ……よッ!』
『ひ……ぃぃぃ!』
「ッ……!」
そこで目の当たりにしたのはなにかの取引現場……とは言えない搾取の現場だった。小太りの男は跪いて懐を探っている。その男を違う体格のいい男が蹴ったり殴ったり英語で責め立てたりして急かしていた。男の手には葉っぱのようななにかがあるがあれって……
「大麻……!?」
『アァ!?』
声が大きかったのか体格のいい男がこっちに視線を送る。私はやべっ!と思い顔をとっさに隠す。ここで逃げなかったのは所謂正義感というものがあったからなのだろう。
『……気の所為か』
「……」
体格のいい男は一旦黙りその後に小声で呟いた。相手が気の所為と思っていることに安堵した私はもう1回様子を見ようと顔を少し出す。
『おい、お前今から言う事をしたら半額にしてやるよ』
『ほ……本当ですか!?』
『あぁ……んで、することはなぁ――』
最後らへんの言葉は小太りの男の耳元で話したため詳細は聞こえなかったがそんな会話をすると小太りの男は私の横を素通りし大通りに走って行ってしまった。体格のいい男は無言で少ししか見えない空を見上げているだけで特に行動をしない。
「まぁ関わらないことが得策ですよね」
そう結論づけた私は大通りに出ようとして……
『こ……この!』
「ウッ……!?」
出ていったはずの小太りの男に腹を蹴られ、意識を落とした。
――――――――――
「うぅ……」
薄暗い路地裏で私はうめき声を上げながら目覚めた。
「ここは……?」
『ここはさっきの路地裏だよ姉ちゃん』
「誰!?」
私は周囲を見渡そうとするがいつの間にか椅子に縛られており上手く体を動かせない。
「解放してください……!」
『ん?あぁ……すまねぇなぁ俺日本語わかんねぇんだよ。んであんた……さっき覗き見してたろ?』
そう話した男は私の目の前に座り込んだ。私は否定すれば危ういと思い素直にうなずく。
『おっ!潔く覗き見してたことは認めるんだな』
男が私の肩をポンポンと叩く。
『……ここのことは黙るので離してくださいませんか?』
私は日本語では話が通じないと思い、最近流暢に話せるようになった英語で話してみる。
『姉ちゃん英語も話せるのかよ!器用だなぁ』
そうすると男は感心したように笑顔を向ける……が、その笑顔はどこか狂気的にも見えて私は冷や汗を流す。
『いいから縄解いてくれませんか?私忙しいんです』
『そりゃできない相談だ』
そういうと男は立ち上がり私を見下す。
『フランスも日本と同じで大麻は違法でなぁ……警察に報告されると迷惑なんだよ』
『だからなんですか……?』
『ハハッ!もうわかってんだろ?』
男は懐からナイフを取り出し私の口の中に入れる。
『死んでもらうに決まってんだろ!』
そういうと私の右頬を口の中から思いっきり切り裂いた。
「ぁ……ぁぁぁぁ!?」
私の右頬には赤い一筋の線が入り、そこから鮮血が吹き出してくる。
『おぉ……いい声出すねぇ』
男は左頬も同じように切り裂く。
「ぁぁぁぁ……」
私の両頬は血まみれになり、脳が痛みでショートしそうなぐらいチカチカする。
『姉ちゃん美人だから犯しても良かったんだけどなんせ時間がないからなぁ……勿体無いなぁ……』
「うっ……うぐ……」
あまりの痛みと恐怖に目から涙が溢れ出してしまう。
『おぉ!?そんなに苦しいか?なら今楽にしてやるから感謝しろよ?』
『ぇ……ぁ……たすけ……たすげで……助けてください……助けてください……』
『いや――もうそ――泣くぐらい苦――んだろ?つらいんだろ?な――んで楽になったほ―うがいい―――いか』
恐怖で相手の声がよく聞こえない。だけど相手が助けの声に応じてくれていないのははっきりとわかる。だから私は必死で助けを求める。
『お願いします……お願いします……死にたく……ありません……』
『あぁ――うそろ――時間だ……んーもうちょっと――たかったが……し――――い。そん―――ちゃん。達――でな』
そう男は言うと男は私の喉元にナイフを当てる。ひんやりとした感触が首を突き刺し、それと共に頭が恐怖でより一層真っ暗になる。
『いやぁぁぁぁぁ!?』
『それじゃまぁ』
男はそのナイフに力を入れ……
『よい旅を』
私の首からは鮮血が舞い散った。
――――――――――
「ァァァァァ!?」
そこで私【有澤叶】は目を覚ます。そこはもう薄暗い路地裏ではなくて見知った私の部屋。カーテンの隙間からは日光が指しており、部屋にはそれ以外の光源はない。
「ハッ……ハッ……ハァ……」
私のシャツは汗でびっしょりでその汗はところどころ布団にも染み付いている。飛び起きたのが原因で黒髪もボサボサになっており、最近悪夢のせいであまり寝れていないため目元にはくまができている。
「……ッ」
さっき見た夢が脳内にちらつきながらも私はボサボサのまんま寝室から出る。
洗面所で髪の毛を整え、軽く後ろで結ぶ。次に台所に行き、水をコップに八分目ぐらいまで入れ、一気に飲み干す。
「ふぅ……」
そんなルーティーンを終えた私は寝室に戻りベットに腰掛けた。
ベットに染み付いた汗を見るとさっき見た夢が脳内に蘇る。
「……アァ……もう一体何なんですかッ!私が何をしたっていうんです!」
頭にある悪夢を振り払おうと掛け布団に頭を思いっきりめり込ませる。
この夢を見始めてから私はまともに寝られておらず精神はもうとっくに限界を迎えていた。それでも私が自殺をしないのは1回死を体験しているからなのだろう。
「悪夢のダメージを悪夢でフォローしてる……ハハッ……とんだ皮肉ですね」
もうこんな生活嫌だ。消えて無くなりたい。だけど1回体験したあの死の恐怖は味わいたくない。そんな矛盾が私の中で出来上がっていた。
「ッ……ぁ……うぅ…………」
こんな悲しい現実を再度思い知り、私はまた涙をこぼす。一滴一滴が静かに落ちていくそんな涙。
こんな悪夢をみるようになったのはいつからだっけ?
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