呟き怪異症候群
三重月 奏間
1章 爆発の怪異
第1話 リア充爆発しろ
「あー……リア充爆発しろ」
それはいつもの一言だった。
そして私の日常が壊れたのも、この一言が始まりだった。
**********
自分で言うのもなんだが、私こと皆森カンナは顔がいい。
恐らく学校で一番……というのは言い過ぎかもしれないが、少なくともクラスの中では一番可愛いという自負がある。
当然、私がそこにいるだけで男子共の視線は独り占め。
そう、私はモテるのだ。モテないわけがない。
ならば何故だ。何故私は未だに誰からも告白されないのか。私より遥かに劣るメス共が男を連れているのに何故私には誰も来ない。
この私が彼氏いない歴=年齢、というどうしようもない劣等感に苛まれることなどあってはならないというのに。まったく、野郎共の目は節穴か。
しかしだからと言って此方から誰かに告白するのは私のプライドが許さない。そもそも付き合えるなら誰でもいいというわけではないし、私にも相手を選ぶ権利がある。
勿論、並みの男では駄目だ。そしてイケメン過ぎるのもNG。絶対浮気するから。
そこそこのルックスで永遠に私の事だけを見て、私の事だけを考えてくれる私の為に何でもしてくれるような男でなければ付き合う意味がない。
あー、でもやっぱり誰でもいいから彼氏欲しいなぁ。
「でも、じゃあそいつとキスできるかって言われたらギリ無理なんだよなぁ」
これは私の発言じゃない。幼馴染の奈津だ。
お題は「男と付き合えるならどこまで妥協できるか」という女子トークで、現在は駅前のカフェで放課後の時間を無駄に費やしている。
この場にいるのは奈津と私と秋穂の三人。青春真っただ中のうら若き女子高生が三人も集まって一体何をしているのか。文殊の知恵とやらは何処に消えた。
「私はそもそも妥協とかしたくないなぁ。ほら、どうせなら本気で恋したいじゃん☆」
「うっわ。カンナが本気で恋とかぶふっ……ごめんなんて?」
「あんだてめぇ、喧嘩売ってんのかぁ?」
「まぁ~まぁ~。そんなに怒らないで~? 可愛い顔が台無しだよ~」
秋穂がゆったりとした口調で間に入るが、どうやら目の前のパフェを頬張ることの方が重要なようだ。恰好だけの取っ組み合いを始めた私たちには目もくれない。あまりに美味しそうに食べているので何だか私もお腹が空いてきた。
「ね~え~、そっちちょうだ~い!」
「しょうがないなぁ。はい、あーん」
「あ~ん!」
絵に描いたようなバカップルが視界に移ったのは、ちょうどそんな時だった。
「――チッ、クソが。食欲失せたわ」
「怖っ! 急に声低くなんじゃん」
「イチャつきたいなら家でやれってんだ。公共の場で胸糞悪いもん晒してんじゃねぇぞ」
「カンナ~。そこまで気にすることないじゃ~ん。もっと心に余裕を持とうよ~」
秋穂。私だって最初は余裕ありまくりだったよ。男なんて色目使えば引く手数多だって思ってたさ。けれど違うんだよ。私ほどの高嶺の花になると逆に男が怖気づいて近寄ってこないの。
そして少しでも私に勝って優越感に浸りたいと考える浅ましい連中が嫌味ったらしく聞いてくるわけ。「カンナ、意外とモテないんだね」ってさ。ぶっ殺すぞ。
「あー、こりゃ駄目だわ。カンナさんの高過ぎるプライドが刺激されて大噴火していらっしゃる。当分こっちに戻ってこねぇな」
「黙っていると美人さんなんだけどねぇ~」
「けど綺麗すぎて近寄りがたいって男子の気持ちも、まあ分からなくもないよな。中身が腹黒おばけだけど」
「彼氏になる人は大変だねぇ~」
何やら失礼な話が聞こえて意識が現実に引き寄せられてきたが、そうすると当然さっきのバカップルの方にも注意が向かう。
あーあ。如何にも「私たちは幸せです」みたいなオーラを漂わせちゃって、本当に妬ましいったらありゃしない。爆発してくんないかな。
「うわぁ!?」
「「「えっ」」」
瞬間、私たちは全員驚いてバカップルがいた方に振り向いた。
まず最初に聞こえたのは風船が割れたような爆ぜる音。一瞬遅れて男の悲鳴。そして視界に飛び込んできたのは黒焦げになったテーブルだった。
「ね、ねぇ!? 大丈夫!?」
「ぐうう……痛ってぇ……!」
「だ、誰か救急車! 酷い火傷! お願い! ああ、しっかりして!」
幸い女の方は軽傷で済んでいるようだが、どちらも怪我をしていることには変わりない。
辺りに漂う焦げ臭さが目の前の光景が生々しい惨状なのだと告げている。
奈津は狼狽え、秋穂はすぐに電話で救急車を呼び、私はまるで自分のせいでこうなったのではという、有り得ない妄想で息が止まりそうになった。
――爆発してくんないかな。
まさか。そんなわけない。偶々タイミングが合っていただけだ。
気付けば店内は騒がしくなり、私たちを含めた全ての客が危険だからと店の外に追い出された。どうやらすぐに警察もやって来るらしい。
あまりに急すぎて正直今の状況にちっとも付いていけてないが、先に到着した救急車に男が運び込まれていく様子が見えた。意識はあるようだったが大丈夫だろうか。
まさかこの私が他所のカップルを心配する日が訪れるとは。とは言え面倒事に巻き込まれるのは御免だ。
私たち三人はお互いに顔を見合わせて、速やかにこの場を離れることにした。
「炎……いや、爆発? 今度は何の怪異だ?」
誰かとのすれ違いざまに聞こえた言葉を、何故か胸の奥に残して。
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