第132話 再会
ガブレリア王国---
ルイスの予感が確信に変わったのは、そう遠くない未来にやってきた。
王都から北の方面、ガブレリア王国内では一番大きな森であるリバーフェリズの森に魔獣が大群で現れ、町を襲い、その魔獣は凄まじい速度で王都へ向かってきた。
そして、魔獣と共に紛れ込む様にして、得体の知れない生き物が入り込んだ。
黒く縮れた髪、白く塗り潰したような肌、額にふたつの小さな突起があり、黄色い目をした人の姿をした生き物……。その生き物は、ガブレリア王国に疫病を持ち込み、広めた。後に、それは【地底に棲む者】と呼ばれている、バイルンゼル帝国に棲む者達だと分かった。
ガブレリア王国の多くの人々が亡くなった。
それを待っていたかの様に、バイルンゼル帝国は宣戦布告も無く、ガブレリア王国に戦争を仕掛けてきたのだった。
フィンレイ騎士団はもちろん、王宮騎士団も全員で戦場に向かった。
だが、それに合わせ魔獣の出現も増したため、フィンレイ騎士団は魔獣討伐を中心に当たった。魔獣の出現は落ち着くどころか日を追うごとに増えていく。
元々は一年を通して気候が良く過ごしやすいガブレリア王国が、二年前から曇り空が増え、それに合わせる様に魔獣も増えていた。それは、この出来事の前触れだったのかも知れないと、ルイスは思った。
だが、今の空はこれまでとは比較にならない程の色だ。昼間でも灰色の分厚い雲に覆われ、薄暗く真冬の様に冷える。夜は闇が深くランプの光すら吸い込まれそうな暗闇。
寝る間もないくらい毎日魔獣の討伐を繰り返し、徐々に騎士達は疲弊していった。
ルイスも魔眼を使い続け、いつに無く疲労が蓄積し、普段感じた事の無い身体の重みを感じていたが、休むわけにはいかなかった。
ギデオンが関わっているのか答えを探す様に、ひたすらに戦い続けるうち、確信に近づいていると感じてたのだ。
魔獣の出現が少し落ち着いたほんの隙間。騎士達が暫しの休息を取っている時だった。
ルイスは一人、森の中を巡視していた。
ふと、リバーフェリズの森に不自然な歪みを見つけたのだ。
歪みに目を凝らす。
微かに感じる気配。
それは、よく知っている人物の魔力の気配。
ギデオン。
ルイスは最大限まで魔力を剣に集中させ、歪みに向かって思い切り薙いだ。
歪みはどす黒い渦を巻き、耳をつん裂く様な音を立てて裂けていく。
「残念。見つかってしまったわね」
微塵も残念がっていない女の声。
裂けた歪みから、黒い煙が上がって人型へと変わっていく。
現れた人物を見ても、ルイスは驚きもしなかった。
一年前から、疑っていたのだから。
「ダリア……。ギデオンは何処だ」
魔眼を鋭く光らせ訊く。
「随分とご挨拶ね。懐かしんで笑い合う事もしてくれないの?」
「もう一度訊く。ギデオンは何処だ。お前が彼の力を利用しているのは分かっている」
「へぇ……私がどう利用していると言うの?」
ダリアは大きく波をうつ黒髪をバサリと払い妖艶に微笑む。一年前に出会った頃の、美しい令嬢とはかけ離れた容貌に、ルイスは奥歯をグッと噛み締める。最初から、彼女の全てが嘘だったのだと、気が付いたらからだ。
「魔獣を生み出す魔術を使っているだろう。そこからギデオンの魔力を感じるのさ。しかもこれは彼の意思ではない」
「ギデオンの意思じゃ無いと、何故言えるの? 貴方に失望して闇が彼を覆った。その彼が魔獣を操り祖国を襲わせる。それを貴方は自分の責任だとは思いもしないのね? この国の危機は、貴方が原因かも知れないのだというのにね?」
「お前がギデオンに近付かなければ、こんな事にはなっていない」
「あら嫌だ。都合が悪いと人に責任を押し付けるのね。私達は惹かれあい、愛し合って結ばれたのよ?」
ダリアは口元に手を当て笑う。
「お前は、ギデオンを利用するだけの為に近づいたに過ぎない。そこには最初から愛など無かったんだ。ギデオンを利用して、この国をどうしたいのだ!?」
「随分と酷いことを言うのね。人の愛なんて、他人に分かるわけないのに。まぁ、いいわ。一つ、貴方の疑問に答えてあげましょう。ガブレリア王国に個人的感情は無いわ。バイルンゼル帝国の皇帝は、以前からこの国を欲しがっていた。でも魔力を持つ者が少なく帝国がこの国に勝てるわけがないから諦めていたの。私はこの国の【ルーラの森】が欲しい。だから、少しだけ手助けしてあげたのよ。この国を攻撃しやすい様に、ね」
その時、ダリアの後ろの歪みが再び大きく揺らいだ。
ルイスは剣を構え直し、魔力を込める。
魔眼で見つめる歪みの先。
暗闇の中に力なく項垂れ、繋がれたギデオンの姿を見た気がした。
「ギデオン!!」
ルイスは魔眼を見開き、その場所を見つけ出そうと情報を掻き集める様に見つめる。その隙を突いて、ダリアが魔術を放った。
ルイスが既での所で術を躱すと、ダリアは次々と魔術を繰り出す。
それに対しルイスも攻撃を繰り返し、ダリアを追い詰めるまで来た。
遂に、ダリアの首に剣先が触れた時だった。
大きく地面が揺れ、足元から闇が湧き出てルイスとダリアを包み込む。ダリアは剣先を喉元に突きつけられているにも関わらず、不気味な笑みを浮かべたまま、ルイスを見つめる。
ルイスは動こうにも足が縛られた様に動かない。
「何をした!?」
「初めて貴方のその瞳を見たとき、私の物にしたいと思っていたのよ。その瞳とギデオンの知識があれば、この世界は私達の物になる……」
体に纏わりつく闇が、徐々に上半身を覆い始め、遂には全身を覆う。
ルイスは、そのまま闇の底に飲まれた。
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