第116話 アリスの治療(エバンズ団長side→コレットside)


 アリス……

   アリス……


 ダイジョウブ……

   ダイジョウブ……


 メガ、サメタラ

   ゼンフ、ウマク、イクヨ……


 アリス……

   アリス……


 ダイジョウブ……

   ワタシタチガ、イッショダヨ……




♢♢♢



 アレックスにコレットと呼ばれていた西の魔女が、術を繰り出す手を止めた。


「お、おい! 大丈夫か!?」


 ぐったりとし、息を切らせている西の魔女に片手を差し出し、その腕を支える。


「だ、大丈夫です……。あとは、アリス様の自然治癒力を、信じるほか……」

「治癒は、済んだのか?」

「はい……。私のするべき事は、終えました。傷痕もすぐにでは無いですが、綺麗に消えると思います」

「そうか……。ありがとう、西の魔女殿」


 俺がそう呼ぶと、西の魔女は驚いた様に瞳を瞬かせたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべ「いえ」と短く答えた。


 俺は西の魔女から手を離し、アリスの頬に触れた。ほんの僅かではあるが、先程より血色は良くなっている様に見える。冷たかった頬も、少し温もりを感じる気がする。

 俺は恐る恐る、首元に手を当てた。

 確かに、脈を打っている。


 ちゃんと生きてる。


 その事に、俺は心の底から安堵した。

 

 顔を上げ、アレックスの方を見遣る。

 ヒューバートさんが加わり、闇の魔術を展開している。それにより、ダリアの攻撃は先程よりも弱まっている様にも見えた。

 俺は再びアリスに視線を落とす。俺がダリアとの戦いに向かっても、アリスは大丈夫だろうか……。ふと、そんな事が頭をよぎる。すると、俺の心を聞き取ったかのように、西の魔女が俺に言った。


「アリス様のことは、私にお任せください。もう、誰にも触れさせはしません」


 幼さが残る顔だが、意志の強い瞳を持っている。俺はその瞳を、信じる事にした。


「アリスを、頼む」

「はい! 必ず生きてください! アリス様のために」


 まるで言葉に魔力が乗っている様だ。彼女からの言葉に、俺は背中を押された様な感覚を持った。


 大丈夫だ。俺は生きる。必ず!


 俺は口の中で詠唱をしながら立ち上がる。

 さぁ、東の魔女ダリアよ。この辺で終いにしよう。


 俺はヒューバートさんの隣に立つと、術を放った。



***



 アリス様の治療は終えた私は、かなりの魔力量を使い果たしたのだろう、少し目眩を覚えた。だからといって、ここで倒れる訳にもいかない。

 まだ目を覚さないアリス様は無防備な状態。私が護らなくては! と、強く思った。

 すると、先程まで自分の限界ギリギリまで治療をしていたにも関わらず、私の中に大きな力が湧き出てきた。

 さっきまでの疲れが嘘の様に消え失せ、私は普通に魔法を使えるまで回復していた。


 どういう事かしら……。


 私はふいに、左手中指に嵌めた指輪を見た。

 私の瞳の色と同じ石が、光り輝く。指輪の中から、力が湧き出てくるかの様だ。

 これが魔女になる、という事なのか。 


 私は、試しに自分とアリス様を囲う様に結界を張ってみた。それがなかなか上手く出来て、しっかりとアリス様を包み込んでいる。


 良かった……。これなら、もう大丈夫。


 私は、私も共に、北の魔女、南の魔女と戦うべきだと感じた。

 そして、先程からキラキラと眩しい光が目の端に見て取れる。なんだろう? と、思い手を伸ばす。


「氷の妖精……?」


 そう呟けば、水色に輝く光は、そうだと言わんばかりにキラキラと輝きを増した。


「アリス様……」


 きっと、氷の妖精が、アリス様を気に入ったんだわ……。なんて強運の持ち主だろう。


 この方は、絶対に助かるわ。


 そんな、どこからとも無く湧き上がる自信。


「氷の妖精さん達……。アリス様を、守っていてくださる?」


 私の問いかけに、輝きが増し、アリス様を囲う様にその光が舞う。


「私が離れても、大丈夫ね?」


 輝きが更に増える。念のため、アリス様と氷の妖精様達を囲う様に防御魔法を掛ける。


「アリス様を、お願いします」と言い立ち上がった。


 私は自分にも防御魔法をかけ、深く息を吸い込み、他の魔女達の元へ向かった。

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