第86話 東の地の災害(ヒューバートside)

 ガブレリア王国---


 

 国王陛下の秘密の部屋から戻った私は、すぐにエドワードにバイルンゼル帝国の最近の災害等について調査を頼んだ。


 そして三日後。

 エドワードが邸に訪れ、「現在の時点で分かった事だけですが」と前置きをし話を始めた。


「バイルンゼル帝国の災害について調べた所、三年前に東の地域に竜巻の被害があった事が分かりました」


 エドワードの報告に、私は眉間に皺を寄せた。


「東の地? 北ではなくてか」


 私の質問にエドワードは首を傾げ「北、ですか?」と訊ねた。


「北の地域で何かあったという報告はありませんでしたが……正確な位置としては、北東よりの地域です。何か気になる事でも?」

「いや、続けてくれ」

「はい……。東の地は、その名の通り東の魔女が帝国側から管理を任されている地であります。一番被害が大きかった場所は町の中心からは外れており、民家はさほど無かった様ですが家畜を育てる家が多かった事と、往来の動線となってる道があった様で被害は大きかったと」


 ひとつ頷くと、一番気になっている事を尋ねた。


「そこに、何かを封印していたような場所などは?」

「現在も調査中ではありますが、一箇所だけ気になる場所はありました」

「気になる場所?」

「はい」


 エドワードは頷きながら、話を続ける。


「そこは、人が近寄ってはいけないと言われている崖の近くです。場所からして、風が元々強く風車小屋がある程です。そういう意味で、危険だから近寄ってはいけないという意味だと思います。ですが、調査に向けた者が風車守りに話しを聞いたところ、そこから少し離れた場所に岩があり、竜巻の被害が出た時にその岩が動いたとか。その奥に洞窟の様な空間があったと。調査に向かわせようとしましたが、強い魔法陣がそこら中に仕掛けてあり、とてもじゃ無いが近寄れる雰囲気では無かったとの事でした」


 魔女が封鎖しているという事だろうか。私が顎に手を当て考えていると、エドワードが「ただ、とても興味深い事が」と身を乗り出した。


「その洞窟の先は、北側のフェリズ山脈の麓近くへ続いているのだと、風車守りが言っていたそうです」

「フェリズ山脈へ?」

「ええ。岩のある場所から北の地まで、そこまで遠くは無いと、調査した者が言っておりました」


 そこまで聞けば、私の欲しい答えは間も無く分かる気がした。

 あの秘密の湖で話していた事を思い出す。ルイスと北の魔女は、フェリズ山脈に何かを封印しているのだ。その封印したものが、その通路に繋がっていたとしたら?

 

 私はエドワードの報告を聞き終えると、ラファエル殿に念話を送った。

 ルーラの森の花畑で休んでいると返事が来る。今から風の精霊王殿に会いに行くと伝えると、数分もしないうちに私の執務室の窓ガラスが風でガタガタと音を立てた。

 ラファエル殿が中庭に来たのだと分かり、窓の外を見て、私は僅かに口角を上げる。

 大きな黄金色の神獣様が日の光を浴びて、更に輝きを放ってそこに居た。


「ラファエル殿は、すっかり我が家に慣れた様子ですね、父上」


 中庭にいるレオンよりも倍の大きさのある神獣様の姿を見て、エドワードが和かに言った。


「本当なら、レオンの様に常に我が家に居て欲しいのだが、そうも行かないからな」


 レオンの様に人の姿になって居れば、もしかしたら我が家に居てくれるかも知れないが、今は躰の大きなラファエル殿が休める場所となると、中庭か裏庭か、正面玄関前の広場か、とまぁ、ゆっくり落ち着ける場所ではない事から、ラファエル殿は基本的にルーラの森に今まで通り暮らしているのだ。


 全てが落ち着いて、アレックスとアリスが帰って来たら、ラファエル殿が了承すれば、是非とも人の姿になってみてもらいたい。だが、全てが落ち着いたら、主従契約が無くなる可能性だってある。そんな事を考えながら、私は出掛ける身支度をして、ラファエル殿の待つ中庭へ向かった。

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