第4章 侯爵令嬢、北の砦へ
第29話 アリスの本気
「レオン、どこか具合悪くない? ちゃんと神獣って感覚ある?」
私はレオンの翼や立髪など、身体中をペタペタ触り確認をする。
『何だよ、その神獣という感覚って。安心しろ、どこもおかしな所はない』
「そう……良かった……。それにしても、この姿を見るのは久々ね! それに、前よりまた大きくなってる! やっぱりレオンは最高にカッコいいよ!」
そう言いながら、大きな身体のレオンの首に抱きつく。というより、しがみつく。出会った頃より更に何倍も大きくなっているせいか、両腕が首に周りきらない。
『おい! こら! 甘えてないで、さっさとアルを探しに行くぞっ』
照れ隠しかなぁ? 叱られてしまった。
とにかくだ。
砦へはレオンに乗って行くとして、アリスの姿のまま行けるわけもなく。
ならば、どうする?
アレックスが居ない今、アレックスの姿で乗り込むか……。
よし! と気合を入れて、私は油紙を用意した。レオンは先に庭へ行っていると言うので、落ち合う場所を決めて後で合流する事にした。
私は簡単に旅支度をして、大量に作った回復薬と傷薬を鞄に詰め込んだ。
そして、姿見を見つめる。
姿見の中、紺を基調とした通常のフィンレイ騎士団員の制服を着用し、髪の毛をお団子にして纏めている私がいる。
アレックスの制服がピッタリ。ほんの少し、スラックスが大きいくらい。
……アルって、脚長いのね……。
とにかく、アレックスが私とたいして身長差がなくて良かった、なんて思ってしまう。
私の為に特注で作ってもらった剣を手にし、軽く振るう。アレックスと対で作った物で女性でも扱い易い様に軽くしているけど、強度は通常の剣と同等な位しっかりとしている特別な剣だ。その剣の柄の部分に油紙に小さく描いた魔法陣を貼り付けた。
アレックスは魔法陣や呪文を唱えたりしなくても発動出来る。私には、それが出来ないので、戦闘等いざという時に直ぐに魔術が発動出来るよう、私が編み出した陣だ。
今回はアレックスでは無いと感付かれない為の対策でもある。準備が出来、それを腰に挿すと随分と様になる。
「ちゃんと出来るかな……」
私は掌に収まる大きさの油紙に書き込んだ魔法陣を見つめた。
子供の頃に、一度だけ悪戯で姿を変えた事がある。
私がアレックスの姿をして、どっちが本物か当てる遊び。邸にいる執事を始め、使用人や料理人、庭師達……。その時は、半日も保たなかった。両親に見つかって、めちゃくちゃ怒られてからは、やってない。
幻視の陣と、以前アレックスがレオンの為に考えた、その姿を固定する陣。
私は油紙を下着の胸の部分に貼り付けて、制服を整えると、深く息を吸い込む。
両手を合わせパンッと一打ち。陣を発動させた。
♦︎♦︎♦︎
「レオン、お待たせ」
裏庭に隠れる様にして待機していたレオンに声を掛ける。
『ほぉ……。まぁ、良いんじゃないか? アリス以上の魔力が無ければ見破る奴は居ないだろう』
「そう? ちゃんとアルになれてる?」
姿見では正面からしか確認が出来なかったので、背負っていた荷物を降ろしてレオンに後ろ姿を見てもらう。
『あぁ、大丈夫だ。あとは、話し方をアルにするだけだな』
「そうね、気を付けるわ。じゃない。気を付けるよ。じゃあ、行こうか」
私がレオンに鞍をつけようとすると、レオンが『アリス』と低い声で言った。
「なに?」
『最後の確認だ。本当に良いんだな? 覚悟は出来てるんだな?』
私はレオンの大きな瞳を覗き込む。
「出来てるよ。私が本気だって分かってるから、レオンだって来てくれるんでしょう?」
その言葉に、レオンは小さく鼻を鳴らす。
『身体強化魔法は良いのか?』
「うん。あれはかなり魔力を使うから。いざと言う時だけ使うことにしてるの……してるんだ」
『ククク……そうか。なら、そろそろ行くか』
「笑わないでよ……」
口を尖らせながら文句を言い、レオンの背中に鞍を付けようとした、その時。
「アリス」
凛とした声に、私はギクリと飛び上がる様にして振り向いた。
そこには、私とアレックスと同じ色のホワイトブロンドの髪に、エドワードお兄様と同じ青緑の瞳を持った私達のお母様が一人、立っていた……。
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