四十一話 発狂Ⅳ
三人は一瞬のアイコンタクトを交わすと、一斉にジャックへ攻撃を仕掛けた。
鉄男が貫手を放ち、侍が刀を振るい、霊魂男がチャクラムで切り裂く。
三人同時に繰り出した怒涛の攻撃だが、これに対しジャックがとった行動は非常にシンプルだ……
――「全ていなす」ただそれだけである。
だがその単純すぎる選択肢は、ジャックにとって正解だったようだ。
二手、三手、四手までいっても彼等の攻撃はジャックの手で全て防がれるか、流されてしまう。
しかも攻撃の合間にジャックの拳や手刀が入ってくる為、三人だけがダメージを受けてしまっている。
それでも攻め続ければ、いつかは綻びが生じる筈だ。そう思い彼等は五手、六手、七手と攻め続けた。
目論見通り、十五手目で綻びは生じた。しかし……彼等の方でだ。
鉄男が振り下ろした手刀、それは彼が先程まで受けて来た蓄積ダメージと、度重なる戦闘による疲労か、妙に伸び切っていた。
ジャックはその手刀を下へと流しながら回り込み、両の手でその腕を掴み、不意に視線を上げた。
不可解な行動に鉄男は頭の中で疑問符を浮かべる。そしてジャックの視線の先を見た。
そこには侍が
侍は今までの攻撃が通らなかったのか、やけくそ気味に放っており止める気配が毛頭ない。
「――――!!」
不味い、直ぐ様ジャックから離れようとするが、余りにも固く握られており不可能だ。
霊魂男も先程までジャックがいた所へ、チャクラムを大振りに振っており、追撃をかける気配が無い……終わりである。
それでも尚抵抗しようとした鉄男だったが、遂にその腕を刀が縦一線に切り抜かれていった。
瞬間、何かが焼け、そして溶けるような音と共に、
――彼の腕の前腕から先が大地へと落ちてしまった。
しかも切れた腕からは肉の断面図が顕になっている……肌や服だけを鋼鉄化してるだけと言うことだ。
「ッッッッダァ゙ア゙ぁ゙ァ゙ア゙ァ゙ア゙ァ゙ア゙!!!!????」
鉄男は痛みによる野太い悲鳴を上げながら、パックリと切られた腕に逆の手を添え悶え始める。
それを見た二人が目を開き驚く中、ジャックは霊魂男の頭部へ肘を強く打ち込んだ。
肘はヘルメットのガラスを突き破り、鼻っ面へとめり込まれていく。
その衝撃で強く仰け反る彼のベルトへ、ジャックは流麗な動作で手を掛け拳銃を奪った。
そこから侍の額へ一発、そしてパックリ空いた鉄男の腕の断面図の中に銃を突っ込み二発放った。
侍は直ぐ様振り上げた刀を横に構えて防ぐも、鉄男はなすすべなく自身の腕の中に弾を入れられてしまう。
その痛みは筆舌に尽くしがたいのか、彼は泣き叫びながら肩を抑え倒れ込んでしまった。
「イイッヒッ!? イイ!? イア゙ァ゙ァ゙ア゙!!??」
ガキみたいにジタバタする鉄男を他所に、ジャックは霞の構えをとった侍と相対する。
先手必勝と言わんばかりに、侍は直ぐ様ジャックへ刀を振り下ろして行くが、これをジャックは銃身で受け流していった。
「――――マ」
不味い。そのような言葉が侍の頭の中を掠めた瞬間、彼の左眼へと銃口が勢い良く突き刺さっていった。
玉が潰れる音と共に、ジャックが突き刺した銃は侍の左眼の中へ入っていく。
焼けるような痛みが頭の中へと響いて行く中、侍はなんのこれしきとジャックの腹へ刀を横に振るった。
未だに光る刀はジャックの右脇腹へと入るが、勢いが足りず浅く留まってしまう。
しかし侍はジャックを殺さんとばかりに刀をノコギリの如く何度も押したり引いたりし始めた。
それに対しジャックも左眼へ突っ込んだ銃を離すと、拳を硬く握りしめ、撃鉄の部分へと勢い良く振り抜いていった。
それによって頭の中で銃が暴発し、轟音と共に頭の一部が弾けるが、侍は一歩も引かずにジャックの腹をギコギコし続けた。
「ンぇ゙エ゙イ……‼」
開いた口からは血の混じった涎がただれ落ち、柄を握る力も徐々に無くなっていく。
それでも彼は血走った目でジャックを真っ直ぐ睨み続けていた。
だが当のジャックはそんなこともお構い無しに撃鉄の部分へ何度も何度も拳を叩き込んでいった。
それに応えてか銃も何度も何度も暴発し、侍の頭の中をぐちゃぐちゃにしていった。
そのせいか刀の押し引きの動きは徐々に小さくなっていく。
遂に動かなくなると、侍は刀の柄をゆっくりと離し、糸が切れたかの如く崩れ落ちていった。
刀はジャックの腹へ二割程入り込んでいたが、侍が地に伏せたと同時に霧散していった。
二割程裂かれた腹から血がとめどなく溢れでるが、それすら気にも留めず、向こうで起き上がる霊魂男へ視線を向けた。
黒い
彼がその美貌を真っ青に染めながら両の手からチャクラムを展開する中、ジャックは彼へと駆けていった。
急接近する彼へと霊魂男はチャクラムを二撃振るうが、ジャックは低い姿勢のまま稲妻の如き動きで全て掻い潜っていく。
そして霊魂男へと肉薄すると右拳を横に大きく振り抜いていった。
拳は彼の頬へと深く入り込み、そのまま霊魂男の体全体を強く横に揺らしていく。
それでも踏みとどまる彼に対し、追い打ちとばかりに左拳を逆の頬へと叩き込んでいった。
両の拳の威力が相当なものだったのか、彼の視線はピンポン玉の如く揺れ、尻もちをついてしまう。
意識が朦朧としたまま立ち上がろうとする彼に対し、ジャックは容赦なく彼の胸元へ蹴りを入れた
胸骨が折れた音と共に地を転がっていく彼の姿は、少々鈍臭く見えた。
四回転程で止まると、血反吐を吐きながら彼の体は仰向けに伸びてしまう。
ジャックはそんな霊魂男にゆっくりと歩み寄ると、彼の頭を一気に踏み抜きにいった。
「!!」
霊魂男は"辞めろ"と言わんばかりに咄嗟に掌を見せつけ命乞いをする。
だがその頼みすら聞き入れず、ジャックの足は霊魂男の顔面を踏み潰した。
潰れた頭部からは血が勢い良く撒き散らされ、地面に一つの赤く大きな薔薇の紋章を作り出す。
その勢いと共に霊魂男の体は大きく跳ね上がると、直後何もなかったかのように体を大きく広げ…………遂には全く動かなくなった。
二人殺し終えたジャックは遠くで這いつくばる鉄男へと視線を向ける。
痛みと疲労による弊害で能力が切れたのだろうか、彼の体は普通の人間と同じような体に戻っていた。
「ァ゙アぁ」
鉄男は喘ぎ声を挙げ無くなった右手の断面を優しく労り、ジャックへと必死に匍匐で遠ざかっている。
奴にはもう交戦の意思は無いと言うことだ、ならば残りの
ジャックは黒い眼で辺りを見回し始める。だがしかし、幾ら見回しても彼等の姿は何処にも無い。
彼等の血、毛髪、角栓、もうそれらしき跡が何も無い。
「…………」
誰もいない……誰も、醜態を
「…………」
ジャックは微かに呆けた表情になると、遠くで上がりつづける煙の方へ足を進めた。
そんな彼を覗く者達がいた。場所はジャックから遙か向こうにある建物、かなり小さくボロい物置小屋だ。
中は照明が一切なく小窓さえ無い。唯一僅かに開けたドアから差し込む光で、覗く者の素性が把握出来る……優男と鞭腕だ。
彼等は汗と鼻水、そして微かに涙を流し、お互いの口を手で防ぎながら彼を覗いていた。
防いだ口元から限りなく抑えた呼吸音が漏れ出ている。
手足はバイブのように震え恐怖に打ち震える彼等は、ジャックがゆっくりとその場を後にする光景を、極限まで静かに見つめ続けていた。
――――――
商店街の路地は先程の爆破が原因で瓦礫の山と化していた。
爆破の衝撃で土煙がかなり舞い上がるその中を、三人の者達が移動していた……ショーン達である。
彼等は爆破による怪我を負っている。幸いショーンやキーラは額から血を流しているだけだが、リコはかなり酷い状態だ。
足は折れ、傷も多い。意識も朦朧としており、ショーンに肩を担がれている状態だ。
ケースを持つキーラは彼の酷い姿を見て、後方で心配そうな表情をしていた。
「…………」
何も言えないままショーンは辺りを見回す。煙が辺りに漂うせいで視認性は悪いものの、遠くからの人影はかろうじて見える。
ショーンはその人影に気付くと、直ぐ近くにある瓦礫の方へと急いで移動し身を隠した。
あれだけ暴れてもテロリストはまだ勢力を残している。その証拠に大人数の兵士達が瓦礫に身を隠すショーンの側を駆けていった。
彼等はショーン達が身を隠す瓦礫へと目もくれず、向こうへと消えていった。
その様子を見ていたショーンは、彼の中で微かに芽生えていた疑問をより大きくしていった。
………………あの爆発以降、ショーン達へ一目散に駆けて来る部隊がいないのだ。
今までは入り組んで姿を見失いやすい路地にて何処に身を隠しても、神の目が介入してるのかと言わんばかりに何度も何度も見つかっていたのだ。
それが今ではただの瓦礫に身を隠しても見つかることが無い。
煙が巻かれているといった原因もあるだろうが、ここまで見つからないのはおかしい。
もしかしたらこれより重要なターゲットが介入してきたのだろうか。
そんな考えがショーンの中で渦巻く中、テロリスト共が駆けていった方向でなにやら銃声がし始めた。
何だと思い耳を澄ますと度重なる銃声に混じって悲鳴も聞こえてきた。
――――――
瓦礫と土煙がまみれ、幾分か広くなった商店街の路地の中で、十名の部隊が一斉にライフルの引き金を引いていた。
狙いは全て煙の中で蠢く影に向けられている。不規則に動くそれは、彼等との距離を急激に詰めている。
そして近づくに連れて姿形が顕になってきた。
悪魔のような姿のジャックである。
彼両手両足を躍動させ、獣と稲妻が合わさったような動きで急接近していった。
そんな彼を近づかせまいとテロリスト共は必死に弾幕を張るが、全くと言っていい程に当たらない。
それでも尚抵抗しようと引き金を引こうとする彼等に対し、ジャックは真っ黒な眼の中から放たれる「無」の感情を彼等へ向けた。
剥き出しの感情に気圧された数人が、一瞬だけ足を竦ませ、そして踵を返し逃げ始めた。
総勢四名が逃げ出す中、残りの六名は逃げ出さずにジャックへと懸命に銃弾を放つ。
が、それらも荒々しく避けていったジャックは遂に彼等へ接敵すると、ものの数秒で六人全ての命を奪っていった。
首に噛みつく、心臓部を拳で貫く、脇腹を蹴り飛ばす、方法は様々なものの、ジャックの攻撃で彼等の体は見るも無惨な状態と化してしまう。
その惨状を見た逃亡者達は畏怖の念を抱いてしまい、逃げながらもジャックへ引き金を引いた。
だがそれらも縮地法のような動きで躱すと、逃げる四人へと一気に距離を詰めていく。
「神様ァ゙!!」
奴に追いつかれるのがよっぽど怖いのだろう。一人が裏返った声で神へと懺悔し、そして助けを求め始めた。
しかし神様は一人の男を気にする程暇では無い。なんの効果も得ることも無く、懺悔した男は遂にジャックに追いつかれてしまった。
「ヒィ――――」
辞世の句を読む隙も与えられず、男はジャックの拳で顔面を潰されてしまう。
そこから一人、二人と逃げていた者が次々とジャックの餌食となり、逃亡者は最後の一人となった。
「あぁ……ぁ゙ァ゙……!」
最後の一人は涙や鼻水を汚く流しながら、やけくそ気味にジャックへと引き金を引く。
案の定ほぼ全て避けられるが男にとっては、そんなことを気にする余裕も無く只只弾幕を貼り続けていた。
「イアァ゙……イアァ゙……!!」
更には嫌だ嫌だと駄々をこね始め、銃の照準も大きくぶれていった。
そんなんだから唯でさえ当たらない弾丸がより当たらなくなり、遂にジャックが目と鼻の先まで来てしまった。
「ヴヴゥ゙ン!!!!」
男は鼻水混じりの唸り声で銃身を横に薙ぎ払い、ジャックの側頭部へと当てようとする。
しかしそれさえも避けられてしまい、男は組み付かれて強引に倒されてしまった。
倒された男は死にものぐるいで逃れようとするも、流れることが出来ない。
そんな中、ジャックは彼の胸元で馬乗りになると、男の顔面へと拳を振り下ろしていった。
これまでとは違い、何度も何度も殴りつける。無論拳の威力はそのままの為、男は一発目を食らった時点で絶命している。
にも関わらずジャックは気にせず何度も殴りつけるため、彼の顔面は徐々に凹んでいき、血と水分でぐちゃぐちゃになっていく。
余りにも殴りすぎたせいか、地上に血溜まりの池が出来上がるが、それでもジャックはすでに潰れた頭部を殴り続けた。
最後には頭部は粉々になり、血の池の中で消えていった。
無に帰していったジャックは、ようやく拳を振り下ろすのを辞め血の池に映った自分をジッと見た
傷跡が付き、焼け焦げて、他人の血に染まったその姿、何かの影響で黒くなった眼。
鏡越しにその姿を映されたジャックは只只無表情でそれを見つめ続け……ふと視線をゆっくり前方へ持ち上げる。
視線の先にはショーンがいた。彼は何故か"信じられない"と言わんばかりの表情で、彼を凝視していた。
ショーンのすぐ後ろではケースを持ったキーラがリコの肩を持ち、困惑の表情を浮かべていた。
「…………ジャ………ック?」
暫く無言で見つめあった後、彼は震える声でそう呼びかける。
その呼び掛けには疑わしさや絶望、混乱等様々な感情が渦巻いていた。
「…………」
呼び掛けに対しジャックはゆっくりと立ち上がり、無言でショーンの目を真っ直ぐ見る。
ショーンは彼の痛ましい姿を目に焼き付けてしまい、表情も疑惑から混乱へと徐々に変わっていった。
「……ジャック……なのか?」
疑問を投げかけるも全く反応を示さない。
「…………なぁ」
震えるような声で訴えても全く聞き入れる素振りがない。
「…………」
反応も示しさない彼にショーンが何も言えなくなる中、ジャックは彼へと一歩踏み出した。
だが少し様子が違う、ショーンへと歩きながらゆっくりと拳を振り上げている。
奴はショーンを殺しに歩き始めたのだ。
「!?」
ショーンが驚きと共に困惑した。彼の眼前に映るジャックの姿は正に悪魔だ、力に支配され、ただ暴力を振るうだけの。
その悪魔に対し、ショーンは後退ることしか出来ない。もう打つ手無しだ、彼がそう絶望した瞬間。
不意にジャックの体が大きく痙攣し始めた。
今まで無言を貫いていたジャックは、痙攣しながら苦しそうに叫び始め、目から血の涙を流している。
体からこれまでとは違う黒い瘴気のような物が彼の五体を這うように蠢いており、ジャックの体は痙攣で立てなくなってきた。
膝をつきながら体を盛大に震わせると、最後には地面に這うように倒れて動かなくなってしまった。
腕や足が微かに震えるが、ジャックは地面に突っ伏したまま立ち上がる気配が全く無い。
「え」
それを見たショーンが困惑の声を上げる中、突如ジャックの体から瘴気のような物が上がり、ショーンの方へと飛んでいった。
次は自分の番なのかと一瞬疑問が上がったが、瘴気はショーンを通り越し後方へと飛んでいく。何だと思い後ろを振り向くと
そこには腕を出して瘴気を吸収するリコの姿があった。
「……?」
突然の光景に驚くショーンだが、混濁した目で必死に瘴気を納めるリコの姿を見て、彼の頭の中である記憶がよぎった。
――――昨日の午後、ゴブリンの警察官を打ち抜いた全身黒ずくめの狙撃手の記憶を。
奴の正体はこれまでずっといたリコだったのだ。
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