十一話 出会い
「bーbーbーbーbーb」
泡を含ませた様な声の断末魔だ。辞世の句にしては独特である。
ゴブリンは口から泡沫性の血を吐くとその身を地に伏せて行った。
ジャック達があくせくする中、急に床の一部が弾ける。気付けばショーンの頬にカスリ傷が出来ていた。
「やっべ」
彼等全員が小窓がある壁際に急いで駆け出した。その間も彼等を仕留めようと、銃弾が遠くから放たれ床の汎ゆる所が弾けん飛んで行く。
かなりの弾が撃たれたのか、小屋の中は木片が煙代わりとなって視認性を悪くしていた。
「ドウスル!」
「どうするって…」
キーラが木片を片手で防ぎ叫ぶ中、ショーンはどう切り抜けるべきか悩んでいた。
ここから出た瞬間、蜂の巣になるかもしれない。只ここにいても、何の進展も起きない。
彼がどっちを取るか頭を抱える中、急かさんとばかりに小窓から何かが飛来し、床へと突き刺さった。
それは黒光りの流線型の砲弾だ。だがその周りをビッシリと針が覆ってある。
魔法の力か砲弾は透明の何かを纏うと、直立姿勢で浮き上がり、ハリセンボンの如く膨らみ始めた。
どうやらジャックは、それが何か身に覚えがあるらしい。彼女を強引に抱え込むと、急いで小屋を出ていった。
同様にショーンも急いで小屋を抜け、ドアを勢い良く閉めると「パンッッ」と布を叩いた音が鳴った。
瞬間、小屋のドア、そして壁の全てを無数の針が突き破った。
支えまでも突き破ったのか四方八方へ突き抜けた針が霧散して消えると、小屋は喧しい音と共に崩れ落ちて行く。
その間も彼等は、謎の襲撃者に弾を撃たれ続けていた。窓や家の壁、樽やら箱やら様々な物が弾け飛んでいく。
弾は何処から撃たれているのか、全く把握出来ない。右から来たと思えば、左から来て、そして前からも撃たれ続ける。
数人に囲まれて撃たれてる…訳ではない。放たれる弾の頻度から、撃ってる奴は一人しかいない。
だからこそ何故、四方八方に放つ事が出来るのか分からない。それでも彼等は只々必死に走り続けていった。
小屋が崩れていくのに気付いたのか、彼等の元へ野次馬が駆け寄ってきた。
「NOOOOOO!!!!」
彼等に向けてキーラは怒号を飛ばした。かなりの迫真っぷりに野次馬は立ち止まると、不意に彼等の後方を見た。
後方では相変わらず色んな所が弾け飛び、謎の破裂は彼らを追うように、徐々に野次馬へと向かって行った。
「……何だぁ?」
未だ状況が飲み込めない野次馬達に対し、痺れを切らしたのか、ショーンは虚空へ銃を撃った。
ハッキリと聞こえた轟音で、彼等は慌てて公園の方へ逃げ出した。ようやく事態を飲み込めたようだ。
彼等はその間も必死に逃げ続ける、ジャックは逃げ続ける中で何かに気付き始めた。
わざと俺達を狙ってないのでは?と。
その確たる証拠として、出鱈目な所にしか弾が着弾していない。
裏を返せばおちょくってる訳だ。
ジャックはそれに気付き、走るのを突如辞めた。銃弾は…………来ない。
足を止めた彼へショーンが必死に呼び掛けているが、ジャックはそれを無視し、ゆっくりと後方を向く。
二階建ての建築群。探偵事務所と同じ建築の内の一つ、その屋上に奴はいた。
狙撃銃を肩に担いだ、全身黒ずくめの男。
コートも軽装で済ませてる為、影の如き姿で佇んでいる。
頭部までも黒で覆ったその男は、彼に向かってサムズアップをし、それをゆっくりと逆さに向けた。
「……」
ジャックはその挑発に応え、何の躊躇いも無く彼に向けた銃の引き金を引く。
弾は完全に彼を捉えており、撃ち抜くのも時間の問題…………かに思われた。
その瞬間、男の体が黒い瘴気に包まれ、数秒後にはその姿を消していた。
弾は彼がいた所を通り、虚空へ消えていった。
「何なんだアイツ…」
ショーン達も彼の先程の存在に気付いたのだろう、何が何やら分からない表情で彼を見つめている。
それに対し、彼は只肩を竦めるだけだった。
――――――
「どうする?」
ショーン達は噴水広場を遠巻きから見つめていた。南の地区でも、あの時の様な騒動を起こしたのだ。
多分居座る事は出来ないだろう。
「謝レバ……イケルカモ?」
「いやぁ~許しちゃくれねえだろ」
現に彼等を間近で見た野次馬共は広場の中で、何食わぬ顔して会話を繰り広げている。
知らぬ存ぜぬで紛れ込んでも、絶対にバレる筈だ。
「……詰んだな、こりゃ」
そう言ってショーンは踵を帰す。また別の安息の地を探そうと、スタコラサッサと歩き始めた。
ジャックも彼に付いていこうとした瞬間、住民達の間を縫って、一人の男が彼等に向かって来た。
その足取りは重く、そして太い、肥満の男の足取りだ。
「ちょっと待ってくれ」
声の主は40程の男だ。ショーンが視線を声の方へ向けると、そこには中背の男が仁王立ちで彼等を見つめている。
樽の様にでっぷりと太っているが、問題はそこではない。彼の頭部は豚に髪の毛が生えた様相をしているのだ。
いわば二足歩行で立つ髪の生えた豚、彼はこの世界だと「オーク」と呼ばれる人種の一人だ。
「ジャック・カミンスキー ショーン・マイラーズ キーラ・ライアンだな」
男はそう言い、ホルスターから抜いた拳銃を地面に捨てた。
彼は「俺は正義感だぞ」と言わんばかりの顔をしている。
ショーンが彼の奇行に戸惑う中、オークの後ろから数人の男達がやって来た。
「……!」
男達の顔を見て、ショーンは目を見開く。彼等は昨日の酒場件奴隷市に殴り込んだ時に会った警察官達だった。
「ニュー・コランバス警察実働班副隊長のデイビッド・ビューラーだ、折り入って話がある」
彼等の遥か後方では、住民達が広場から懐疑の目で見られている。
中には忌々しく見つめる者も一定数いて、彼等がやって来るのをかなり拒んでいた。
デイビッドはそれらに意に介さず、決意に満ちた目で手を差し出した。
「私達と共にテロリスト共と戦って欲しい」
彼からの要望は余りにも無謀に近い物だった。ショーンは拒否しようと、口を開こうとした。
が、その瞬間広場中の目が一気に鋭さを増し、一斉に彼等を刺しにいった。
怒りの視線を感じた彼が住民へ視線を向ける。彼等はショーン達に向かって、視線でこう語り掛けた。
「責任を取れ」と。
他にも「命を落としに行け」だの「娘を返せ」等々、目だけでも分かる程の怨嗟が次々に投げられていった。
「すまないが……頼む」
デイビッドは重苦しい表情で彼を見つめる。後ろでは彼と同様の重い空気を纏い、警察官達がジッと見つめていた。
「……道連レニスル気?」
キーラに対するデイビッドの答えは、沈黙だった。彼女は溜息を吐くと、二人に目で語りかける。
ショーンはゆっくりと頷き、ジャックは目でキーラに「それで良いのか?」と語り掛ける。
彼女は苦い顔をした後、もう一度デイビッドの方を見た。
彼は死地に赴く覚悟を持った表情をしていた。
「分カッタ」
「……協力してくれて感謝する」
彼のその言葉には、汎ゆる感情が込められていた。
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