貞操観念がバグった世界で、幼馴染のカノジョを死守する方法
ねじまき猫
第1章 転移した世界は天国(ジゴク)でした
第1話 告白成功からの……
こんな状況───。
おそらく、フツーの健康的な男子にとっては、天国であろう。
だが、俺にとってはまさにジゴクなのである。
と言うのも俺はどうやら、性の常識がひっくり返ったパラレルワールドに転移してしまったようだ。
それが、どんな世界かと言うと。
説明する前に、少し時を戻さねばなるまい……。
時は、放課後。
場所は、夕陽が染まる校舎の屋上。
王道の告白シチュエーションで、俺は幼馴染である茜と対峙していた。
緊張して唾をごくりと飲み込みながら、掠れた声でなんとか声を発する。
小心者ながら、決死の勇気を持って───。
「あ、
茜ははっとした表情を顔に浮かべたが、それも一瞬。
すぐに口元に笑みを浮かべて返事した。
「いいよ」
「は? 即答すか!?」
想定もしてない回答に、腰がへなへなと砕けてしまった。
だって茜のこと、幼少の頃からもう10年も密かに想い続けてた俺。
家が隣同士で、小中高と同じ学校。
小学校から高校2年の今まで生粋の凡人モブキャラ一直線だった俺、
優しげな目にすっと通った鼻筋、愛らしい小ぶりのぷくんとした唇は綺麗さと愛らしさを両立させていて、セミロングの黒髪はキラキラと艶のある輝きを放っている。すらりとしてて、しかしながら出るところはしっかり出てるスタイルだって、完璧としか言いようががない。
高校でも1、2を争うトップレベルの美人といえよう。
これまで数多の男子が果敢にアタックし、見事撃沈したと聞いている。
そんな高嶺の花である茜に告白するなんて、無謀だとはわかっていた。
だが。どうしても気持ちを抑えられなくなった、高校2年の初夏。
撃沈覚悟で、校舎の屋上に呼び出したわけなんだが……まさか、こうなるとは。
茜は不思議そうに、口をあんぐり開けた俺を見つめている。
「なんでOKしたのに、愕然としてるの?」
「い、いや。その展開は、想定の範囲外だったし」
そう。
振られるのを覚悟で、俺はこの告白に臨んでいたのである。
告白しないままだと、この先永遠に後悔するであろう。
だけどちゃんと告白して、きっちり振られてしまえば諦めもつく。
つまり、これは茜への想いと決別するための、いわば儀式であったはずだったのに。
「私さあ。晴人が告白してくれるの、ずっと待ってたんだよ」
「へっ? そうなの?」
「小さい頃から晴人のこと好きだったのに、気づいてくれなくて」
「は?」
「最近じゃ、よそよそしくなったから、もう駄目かと思ってた」
「いや、駄目って思ってたのは俺のほうで」
「なんで、そう思うの?」
「だって俺なんかと、その……茜が付き合ってくれるはずないし……」
はあ、と言って茜がため息をつく。
その艶めく唇が、夕陽に当たってキラキラと輝いている。
「お互いに、牽制し合ってたんだねー」
「そ、そういうことになるのか?」
「とにかく、告白してくれて嬉しい! ありがとう!」
「あ、ああ」
「改めてこれから、よろしくお願いします!」
そう言って茜はこくんと首を傾げながら、むちゃくちゃ可愛らしい顔でニコって笑う。
それは、俺に初めて彼女ができた記念すべき瞬間だったのである。
*
翌朝、俺はかなり寝坊して自室のベッドで目を覚ました。
昨夜は興奮のあまり心臓のドキドキが収まらず、なかなか寝付けなかったのだ。
やっと眠りについても、多幸感に包まれたまま天使に連れられて、美しいお花畑が一面に広がる天国へと昇天する夢を見た。
それはまるで本当に死んじゃったかのようにリアルだったのである。えっ、俺マジで死んだかも?
いや、それは杞憂のようだ。
ほら、こうして世界に何も変わりがないわけで───。
ん?
なんか妙な違和感を感じる。
いや、ここは確かに俺の部屋であり、体調もすこぶる問題ないのだが。
まあ、いい。たぶん気のせいだ。
とにかく急がないと学校に遅刻してしまう。
隣に住む茜は、吹奏楽部の朝練があるからとっくに学校に行ってる時間だ。
茜のことを思うと、嬉しさが止まらない。
俺は朝飯を速攻で食べると、制服に着替えて家を飛び出した。
学校までは、最寄りの駅まで自転車で10分、そこから電車と歩きで20分。
ギリ間に合いそうである。自転車に飛び乗って懸命にペダルを漕ぐ。
駅前通りをスピードを上げて走っていると、いきなりタイトなレディーススーツを着た会社員風の女性が、両手を広げて俺の前に立ちはだかった。
俺は必死にブレーキをかけて、自転車を急停車させる。幸いにも、寸前のところでぶつからずに済んだのだった。
「なんですか! いきなり飛び出してくるなんて!」
見ると、歳の頃は20台半ばであろうか。なかなかの美人でスタイルもいい。
三つのボタンを外した白シャツから覗く大きな胸の谷間が、色っぽいフェロモンを放っている。
そして、なんでかはわからないけど、顔を赤らめてモジモジしていた。
「ごめんね。ちょっと、もよおしちゃったんで。キミ、いいかな?」
「はあ?」
もよおしたって、トイレに行きたいのだろうか?
「えっと、トイレなら駅にありますけど」
「そっちじゃなくて……わかるよね?」
「すみません、何のことだかさっぱり」
「もう、じらさないで! ベッドルームに誘ってるのよ!」
ベッドルーム?
なんだこの人、新手の痴女か?
とにかく相手にしてると、ろくなことに巻き込まれかねない。
「それなら、別の人に頼んでください。俺、急ぐんで」
「はあ? 断るのっ!?」
女の人は、目をひん剥いて驚きの声を上げた。
「信じられない! それって、モラル違反じゃないっ!!」
なんだモラル違反て。意味不明。
俺は無視して、自転車を漕ぎ始める。
まったく、世の中にはおかしな人もいるもんだ。君子危うきに近寄らず、である。
始業時間に間に合う、ぎりぎりの電車に駆け込んで、ふうと一息ついていると。
「よお、晴人」
声を掛けてきたのは、
こいつは、学校ですっかりモブ化している俺の、唯一の友人、いや親友と言っていい。
お互いにモテず、これまで女子とは無縁のダークな青春を送っていた。
いや俺は昨日、その呪縛から遂に解き放たれたのだが、まだ健太には伝えていない。
「おはよう健太。いや、朝から変な女に絡まれてさ」
「そんなことより、昨日の茜ちゃんへの告白はどうだったんだ?」
そうだ、こいつだけには告白すること言ってたんだっけ。
「それは……」
「撃沈したんだろ。まあ、当然の結果だな。おまえに茜ちゃんみたいな彼女ができたら俺、全裸で授業受けてやるわ」
「いや、それがだな……」
「これからも、俺とおまえは一心同体、モテない同士仲良くしようぜ!」
満面の笑みを浮かべながら、俺の肩をぽんぽんと叩く健太。
なんだか話づらくなっちまったじゃないか。
「しかし、やっぱ彼女欲しいよなあ。彼女がいてこそ、健全かつ有意義な高校生活が送れるってのに」
「エロアニメ鑑賞が趣味のおまえに彼女できたら、絶対健全じゃすまないだろ」
「うっ、妄想してたら、もよおしてきたわ」
もよおす?
なんか、さっきも聞いたセリフだが。
健太は、きょろきょろと車内を見渡すと、とある女性に目を留める。
それは丈の短いワンピースから、すらりと伸びた生足が綺麗な女子大生風のお姉さんだ。
メイクは薄いが、モデル並の顔立ちをしている。
なんとも信じられないことに、いきなり健太はお姉さんにつかつかと歩み寄った。
あの超上級女子に、オクテな健太がナンパ? しかも、これから学校なのに?
健太はいたって普通に女子大生に何事か話しかけると、彼女はこくんと頷いた。
はあ? なんだあれ。
電車が駅に止まると、ふたり連れ立ってホームに降りる。
あわてて後を追いかけた。
「おい健太、どこへ行くんだよ!」
「どこへって、ベッドルームだけど?」
「へっ!? そんなもんどこに!?」
「なに言ってんだよ、晴人」
そう言って健太は、ホームにあるトイレ、の隣にある扉を指差す。
扉に描かれているのは、ベッドのロゴマーク。
なんだこれ。こんなの昨日まではなかったぞ。
「じゃあ晴人、ちょっとシテくるから待ってて」
健太は美人女子大生と並んで「ベッドルーム」に入っていった。
5分後。
健太はスッキリした顔で、「ベッドルーム」から出てきた。
「お世話になりました!」
「いえいえ。こちらこそ」
笑顔で去っていく女子大生を目で追いながら、健太に駆け寄る。
「おい、健太。これはいったいどういうことだ!?」
「なにって。もよおしたから、あの子とシテきただけだが?」
「シテきたっていったい……」
「性交渉に決まってるだろ。なにを当たり前のことを」
さも、トイレに行ってきたようなノリで話す健太。
は、はあっ!?
「俺は、夢を見てるのか?」
「てか、晴人こそ、どうしちゃったんだよ? 茜ちゃんにフラれたショックで、記憶喪失にでもなったか?」
「どうゆうことか、説明をお願いします」
「もよおしたら、近くのひとに頼んでベッドルームで性処理してもらう。誰だって頼まれれば協力する。こんな当たり前のこと、改めて説明するのもバカバカしいな」
「じゃあ、健太は今、あの綺麗なお姉さんとシテ……」
「うん。スッキリしてきたけど、それが何だ?」
なんてことだ。
どうやら俺は寝ている間に、とんでもない世界へ転移してしまったらしい。
そう、性の常識がひっくり返った世界へと。
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