百合の気配 10

「また明日、学校でね」

 乱れた服を整えて、玄関まで降りてきた私はそう言ってくれる神乃しんだいさんを見上げる。今私は靴を履いて土間に立っている、神乃より低い位置にいるため自然と首が上を向いてしまう。

 痛む肩から血は止まっている、だけど熱は失われていない。それを自覚する度に、私の心臓は大きく拍動する。

「……うん」

 大丈夫、私は一人じゃない。

「大丈夫よ」

「うん……ありがとう」

 軽く口づけを交わす。

 やっぱり離れたくない。

「大丈夫よ、わたしはずっと花灯かとうと一緒にいるから」

 顔を離した神乃さんが私の肩を指でつつく。また私の心臓が跳ねる。肩に宿る熱が私の全身を駆け巡り、頭を沸騰させてしまう。

 離れたくない、離れたくない、離れたくない。

 もう一度私は神乃さんの唇に、自分の唇を重ねる。だめだ、離れないと、だけど離れたくない。でも、大丈夫、神乃さんが一緒にいてくれているから。

「また……明日……」

「ええ、また明日」

 私の顔はくしゃくしゃになっていただろう、目尻が突っ張って髪の毛が頬に引っ付いてしまう。

 こんな私でも神乃さんは穏やかに微笑んで「また明日」と言ってくれる。私の黒くて醜いドロドロした心の奥底を見せても、神乃さんは大丈夫な人だった。

 神乃さんになら、私の全てをあげたい、渡したい、託したい。

 そして神乃さんの全てを私は欲しい。

 すぐには無理でも、どれだけ時間がかかっても、私達はお互いを求めあう。

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